ナイキ(Nike)はここ数十年間、同社のスニーカーが大規模に転売・再販されている事実を認めない方針を取っていた。この状況は4月12日に終止符を打ち、同ブランドは初の自社再販プログラム「ナイキ・リファービッシュド(Nike Refurbished)」を発表した。
ナイキ(Nike)のスニーカーに対する人々の熱狂は、1990年代にスニーカーの転売・再販と回収という現象を引き起こした。だが、同社はここ数十年間、ナイキのスニーカーが大規模に転売・再販されている事実を認めない方針を取っていた。この状況は4月12日に終止符を打ち、同ブランドは初の自社再販プログラム「ナイキ・リファービッシュド(Nike Refurbished)」を発表した。
このプログラムは、ナイキが中古スニーカーを顧客から引き取り、品質(新品同様か、若干の履き崩れがある程度か、または外見上の欠陥があるか)を検査して格付けし、割引価格で販売するもの。ナイキはこのプログラムを、今月末までに米国内のナイキの15店舗で、そして年末までにさらに多くの店舗で提供することを目指している。
ナイキはストックX(StockX)、ゴート(Goat)、スタジアム・グッズ(Stadium Goods)などのスニーカー再販プラットフォームで常に上位2ブランドに入っている。これらのプラットフォームは今後も、もっとも希少で限定版のスニーカーを見つけるのに理想的な場所であることは変わらないだろう。だが、ナイキが自社で再販することで、一般向けのシューズ販売にも影響を与える可能性がある。ナイキはスニーカーの世界でかなりの実績を持っていることから、今回の動きを始まりとして、同社は再販市場により直接的な関心を持つことになるかもしれない。
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なお、ナイキの今後の目論みについて、同社広報担当者からのコメントは得られていない。
ナイキ・リファービッシュドは、最初はスニーカーのみに焦点を当て、男性用と女性用スニーカーどちらも平等に重視する。広報担当者は、将来的には「パフォーマンス製品とライフスタイル製品のカテゴリを横断するラインアップを見つける新しい機会」を提供する可能性があると述べている。
ナイキに返品する動機がない
ひとつの小さな問題は、顧客が製品をナイキに返品する動機がないように見えることだ。ある種の(最近人気を高めている)循環型の回収プログラムを行っているほとんどのブランドは、5ドル(約540円)のギフトカードやロイヤルティポイント、返品に対する何らかの明確なインセンティブを提供している。ナイキの担当者からは、今後このプログラムにインセンティブが追加されるかどうかについて確認できなかった。
このプログラムは、(回収されなければ)埋め立て処分されるような十分に使い古された製品を想定したもので、それほど使い古された製品は、ストックXのようなプラットフォームでは販売できない。サードパーティの場合、すべての再販製品が新品同様の状態でなければ販売できないからだ。ナイキは、リファービッシュドを持続可能性事業の一環として位置付けており、リフト(Lyft)などと提携して、中古スニーカーをほかのゴム製品に転用する「ナイキ・グラインド(Nike Grind)」と並んで位置づけている。
インセンティブは、循環型プログラムへの関心を得るための強力な手段となりうる。アイリーン・フィッシャー(Eileen Fisher)は、送られてきた品物1点につき5ドルのクレジットを提供しており、それによって3月に1万9000点以上の品物を回収できたと、リニューアル部門ディレクターであるシンシア・パワー氏は述べている。インセンティブがなければ、状態が良い製品を保有するナイキの顧客は、間違いなくナイキに製品を送るよりもグレイルド(Grailed)のようなプラットフォームを通じて販売することを選ぶだろう。グレイルドは再販売価格のわずか9%を徴収するだけだ。
「他社がナイキの先例に続く」
再販は世界のファッション業界でますます重要な位置を占めるようになっており、パンデミックの影響で2020年の再販売上は、2019年の25倍の速さで成長した。ほかのブランドも同様に再販プログラムを社内で立ち上げることに関心を示しているが、これらの社内再販プログラムは、ほとんどの場合、実際には物流を担当する他企業に外注されている。たとえばリーバイス(Levi’s)とパタゴニア(Patagonia)の再販プログラムを支えるトローブ(Trove)がその一例だ。トローブの最高経営責任者アンディ・ルーベン氏によると、(企業が再販プログラムを外注する)理由は何千もの個々のSKUを処理するためのインフラに投資せずに、再販プログラムを実行しようとすると非常に高価になるからだという。
「今日の消費者の買い物の仕方は大きく変わりつつあり、再販はそれを象徴している。ナイキの動きはそのことをを示す最新の兆候にすぎない」と、ルーベン氏は言った。「消費者はショッピング体験と再販で得られる価値の両方を非常に楽しんでいる。強力なブランドは再販市場を所有する必要があることを知っており、今後数カ月、数年のうちに、さらに多くのブランドがナイキの先例に続くと予想している」。
ルーベン氏は、他企業パートナーなしに有効な再販プログラムを確立するには、最大5000万ドル(約54億円)かかると見積もっている。ナイキは、このようなプログラムを完全に社内で制作する余裕があるという点で、まれな例外だ。直近の3月の決算報告では、同ブランドの売上高は105億ドル(約1.1兆円)近くに達し、昨年3月期の同四半期から5億ドル(約540億円)近く増加した。
[原文:Nike is launching an in-house pre-owned program]
DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)