ここ数カ月で収益を大きく伸ばしたD2Cスタートアップは多い。なかには昨年同期比で2倍から3倍の新規カスタマーを獲得したところもある。そこで各社にとって重要になっているのが、獲得した新規カスタマーのリテンションだ。
ここ数カ月で収益を大きく伸ばしたD2Cスタートアップは多い。なかには昨年同期比で2倍から3倍の新規カスタマーを獲得したところもある。そこで各社にとって重要になっているのが、獲得した新規カスタマーのリテンションだ。
もちろん、リテンションはD2Cスタートアップにとって、常に重要課題であることに変わりはない。そして、リテンションにもっともつながる要因は、商品の品質だ。現在、パンデミックのなかではじめてオンラインで商品を購入する層が増えており、こういった層に対してECのメリットを伝えることの重要性が増している。そのために、優れたカスタマー体験に加えて、たとえば割引や特典の提供が行われるケースが多い。また、コロナウイルスのパンデミックがどのくらい続くかによって商品需要も変わるため、各社は年間を通じた品揃えやマーケティングの見直しを検討している。
特に景気が悪化すると、D2Cスタートアップの新規カスタマー獲得数とリピート購入の割合に不均衡が生じることも考えられる。そこで各社は、現在の大きな伸びを最大限に活用するため、新型コロナウイルスによって生まれた新規層への対応方法を分析している。
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マーチャンダイズ戦略を再構築
一例として、南カリフォルニアのスポーツウェアブランド、ブオリ(Vuori)を見てみよう。3月から7月にかけて、同社のEC収益は329%増となった。また2020年第2四半期の新規カスタマー獲得数は第1四半期と比較して220%増となっている。
ブオリの成長を牽引したのは、パンデミックに伴う在宅ワーカーの増加によって需要が急増したジョガーやスウェットパンツだ。同社のマーケティング担当バイスプレジデントを務めるニッキ・セイクリオ氏は、新規カスタマーからは今後もこういった商品の需要が大きいだろうと予測している。
そこで同社は、クリスマスシーズンに向けて、部屋着やジョガーと同じ生地を使用した商品といった品揃えの見直しを進めているという。また、カスタマーのリテンションの測定方法のひとつとして、初回購入から2回目、3回目の購入までにかかる時間を測定。さらに、新規カスタマーが最初に購入した商品に基づき、次回以降に購入の可能性が高い商品に関するデータ収集に努めている。
セイクリオ氏は「当社の商品マーチャンダイジングチームからは、品揃えについて『購入層が変化しており、この層が2回目、3回目の購入でカートに入れる可能性がもっとも高い商品について戦略を再構築する必要がある』という報告を受けている」と語る。
販売にとどまらない体験を提供
ほかにも、パンデミック以前から取り組んできたリテンション戦略をさらに強化している企業もある。ヘアケアブランドのスタートアップのプローズ(Prose)は3月に、シャンプーやコンディショナーの売上を伸ばすためサブスクリプションプログラムをローンチした。これにより同社はパンデミックのなかで新規カスタマーの獲得に成功している。同社のCEO兼共同創業者のアーノルド・プラス氏はフォーブス(Forbes)に対し、今年の売上は昨年の3倍にあたる5000万ドル(約53億円)に達する見込みであると語っている。さらに同社のカスタマーのおよそ半数が、4カ月以内に再購入を行っているという。
また、7月には会員制プログラムも開始した。同サービスに登録すると、商品の15%割引、同社のヘアケア専門家による無料相談、同社が制作した雑誌やポッドキャスト番組の利用といった追加特典が受けられる。プラス氏によれば、プローズのサブスクリプション登録者のうち8万人が同プログラムのメンバーになっているという。
また、同社はリテンションの測定において、再注文率など、これまで多く使われてきたKPIに注目している。だがプラス氏は、会員制プログラムの目標は、あくまでプローズをカスタマーにとっての美容情報や相談の場にすることにあると述べている。
「当社はD2Cとして、単なる販売にとどまらない素晴らしい体験を提供できると考えている」と、プラス氏は語る。
友人や家族からの紹介を重視
ラロ(Lalo)の共同創業者マイケル・ウィーダー氏は、リテンションと同じくらい紹介率を重視しているという。同社はプレイテーブルや椅子といった子供用の家具やベビーカーを販売しており、新商品の販売に際し、再購入率を高頻度で追跡している。
だが、それと同時に、同社はカスタマーに対していかに友人に商品を勧めさせるかを重視している。これは同社が以前、「ラロをどうやって最初に知ったか」を購入後のカスタマー調査で追跡したところ、友人や家族からの紹介という回答がもっとも多かったためだ。
それ以降ウィーダー氏はこの特徴をさらに活かそうと取り組んでおり、8月には、既存カスタマーがラロで購入したことのない友人や家族に紹介すると10%の割引が得られる紹介プログラムを開始している。同氏は具体的な数字について述べていないものの、パンデミック下でラロは「指数関数的な成長」を達成しているという。
「いま考えているのは、新商品の発売にあたって、今回獲得した新規カスタマーに何らかのメリットを提供することだ」と同氏は語る。同社はブラックフライデーとクリスマスシーズンに向けて、既存のカスタマー限定の商品や特典の提供を検討しているという。ウィーダー氏は次のように語る。「これはパンデミックの最中でも当社を利用し、成長を助けてくれたカスタマーへ感謝するための取り組みだ」。
[原文:After record sales, DTC startups are focusing on retention]
ANNA HENSEL(翻訳:SI Japan、編集:長田真)