D2Cスタートアップは、2020年にオンラインショッピングをする人が増えたことで大きな恩恵を受け、2021年にはそれが一時的な成功でなかったと証明しようとしている。さらなる成長の実現には、2020年に獲得した新規顧客をどれだけ維持し、彼らにさらなる自社製品の購入を促すことができるかにかかっている。
2020年の3月以降、幾度となく繰り返されているのが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、eコマースの売り上げがかつてない成長を記録するという現象だ。
なかでもD2Cスタートアップは、2020年にオンラインショッピングをする人が増えたことで大きな恩恵を受けている。ブルックリネン(Brooklinen)やプローズ(Prose)など一部のスタートアップは、2020年に売上高が2倍、あるいは3倍以上に伸びたと報告している。そして2021年に入り、D2Cスタートアップ各社は2020年に記録した売上高の伸びがただの一時的な成功ではないことを証明しようとしている。
米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)が話を聞いた投資家やベンチャーキャピタリスト、アナリストはみな、2021年もeコマースの売上高は伸び続けると予測している。しかし、より多くの買い物客が再び店舗に足を踏み入れることを躊躇しなくなり、より多くの商品が在庫に戻り、より多くの企業が再び広告費を投入するようになると、D2Cスタートアップは競争の激化に直面することになるだろう。
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そうなれば、2020年と同等に売上高を伸ばす、あるいはさらに上回ることは困難となる可能性もある。さらなる成長の実現には、2020年に獲得した新規顧客をどれだけ維持し、彼らにさらなる自社製品の購入を促すことができるかにかかっているのだ。
購入者は本当に「顧客」か?
「2020年の数字があまりに大きく伸びたので、2021年の数字はさほどの成長とは見えないかもしれない」と、eマーケター(eMarketer)でeコマースアナリストを務めるアンドリュー・リップスマン氏はいう。
2020年、特に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まったばかりの頃には、通常なら実店舗でしていた買い物をオンラインですませる人が増えた。その最たる例が食料品だ。eマーケターのレポートによると、eコマースにおける食品・飲料の売上高は、2019年から2020年のあいだに74%増加した。「消費者は食料品を買うための新たなソリューションを見つけなくてはならなかった」と、アクセラレーターエージェンシーとベンチャーキャピタルファンドのハイブリッド企業、ブリッシュ(Bullish)でマネージングパートナーを務めるマイク・ドゥーダ氏は述べている。
その後、当面は自宅で多くの時間を過ごすことになるという現実を受け入れる人が増えるにつれて、彼らは新たな自粛生活のライフスタイルを補う買い物をするようになった。すなわち、ドレスアップする理由がなくなったので、より多くのスウェットパンツを購入したり、リモートワークの環境を改善するためにコンピュータモニターやデスクを購入したり、自炊をすることが増えたので新しいキッチン用品を購入したりといったことだ。ダンベルや自転車のように、企業が需要に追いつけず、消費者がそのとき在庫にあったものを買った結果、手に入りにくくなった商品もある。
こうした購買傾向から導き出されるのは、「(そのブランドで)初めて購入した消費者がまた戻ってくるかどうか」という大きな疑問だ。2020年以降、買い物はオンラインに切り替えたという人もいる一方で、衝動的な購入が多かったからと買い控えを選択する人もいる。あるいは、2021年も2020年と同じことが起きるとは限らないと想定し、必要最低限購入すべきブランドを決めた人もいる。
eコマースの成長を楽観視する声も
飲料販売を手がける企業アイリス・ノヴァ(Iris Nova)のCEO、ザック・ノーマンディン氏は次のように話す。「目下のところ、2020年のブランドの業績がいかに素晴らしいものであったかということが盛んに報じられている。だが人々はオンライン広告を見て衝動的に購入しているにすぎない。今では市場に多くの選択肢があるため、顧客の解約率はこれまでより大幅に高くなっているのではないだろうか」。
シードおよびアーリーステージの企業に出資するベンチャーキャピタルファンド、レアラー・ヒプー(Lerer Hippeau)のプリンシパルを務めるケイトリン・ストランドバーグ氏は、「パンデミックの影響でeコマースの成長が5~6年分ほど加速した」と考えており、そのうえでより楽観的な見方を示す。「小売におけるオンライン売上の割合が減少するとは考えていない。引き続き成長すると予測している」。
さらに、eコマースの支出額が前年比でわずかに変動したとしても、レアラー・ヒプーが主に投資しているシードおよびアーリーステージのD2Cスタートアップが受ける影響は小さいと、ストランドバーグ氏はみている。「彼らはスタートアップであって、コカ・コーラ(Coca-Cola)のような世界的企業とは事情が違う」と同氏は指摘する。「彼らの前には、まだ接触したこともない、自分たち企業の存在さえ知らない消費者の巨大な市場が広がっている」。
またストランドバーグ氏によると、レアラー・ヒプーでは、シードステージからシリーズAの企業の場合、前月比で約20~30%の収益増が望ましいと考えているという。「ライフサイクルのこの段階にある企業は、獲得できる消費者が多いため、そのくらいの成長を達成できるはずだ」。
鍵を握るリテンション
ブリッシュのドゥーダ氏は、D2Cスタートアップに有利に作用した条件のいくつかは2021年まで持続しないと考えている。たとえば、この1年は過去数年に比べて広告価格が手ごろだったものの、再びデジタルマーケティングに力を入れ始める企業が増えるのに伴い、FacebookやGoogleにおける顧客獲得コストは、2021年の第2四半期には再び上昇に転じると同氏は予測している。
それでも、スタートアップが2020年と同等の収益増を記録したり、あるいはそれを上回ったりすることができないわけではないとドゥーダ氏はいう。ただ、昨年と同等の売り上げを今年も達成するなら、FacebookやGoogleだけに頼ることはできないという事実に備える必要があるかもしれない。「我々が企業から聞きたくないのは、『顧客獲得コストの上昇』といった言い訳が、我々の定めた目標を達成できなかった理由として使われることだ」と同氏は述べた。
どちらのベンチャーキャピタルも、2021年にどのD2Cブランドに持久力があるかを証明する鍵はリテンションだと考えている。
「肝心なのは、これらアーリーステージの企業が大手ブランドよりも優れた提案を示し、より人々の共感に訴えることができるかどうかだ」とドゥーダ氏は述べた。「それができたら、有利な立場をキープし、引き続き市場シェアを獲得していけるだろう」。
[原文:After record growth, DTC startups will have to fend off a 2021 slump]
ANNA HENSEL(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島 翔平)