2021年に30億ドル(約3420億円)を超える資金を調達したセラシオ、ゴジャ、オルサムの Amazon アグリゲーター3社は、Amazonのプラットフォームからサードパーティーのビジネスを買収し独自のデータを使用して売上を伸ばすというロールアップのプレイブックに従っている。しかし似ているのはそこまでだ。
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2021年に30億ドル(約3420億円)を超える資金を調達したAmazonアグリゲーター3社は、2022年には商品ポートフォリオを増強して新市場に参入することを計画している。
セラシオ(Thrasio)、ゴジャ(Goja)、オルサム(Olsam)はAmazonのプラットフォームからサードパーティーのビジネスを買収し、独自のデータを使用して売上を伸ばすというロールアップのプレイブックに従っている。しかし、似ているのはそこまでだ。
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2021年9月時点で約70億ドル(約8050億円)の資金が集まるダイナミックなマーケットプレイスにおいて、3社はそれぞれ異なる拡大路線を描いている。ゴジャはAmazonの補充制限を克服することにゆるぎなく注力しているのに対して、セラシオは国境を越えた販売の戦略を描いており、またオルサムはグローバルブランド向けに大西洋を越えて取引を行うためのゲートウェイになることをめざしている。それぞれのアグリゲーターは成功のために自社独自のロードマップを作成している。
筆者は、各社が調達した資金、ターゲットとしている市場、および2022年における戦略的優先順位について、3社すべてに話を聞いた。各社のインサイトは、アグリゲーターの先行者や新興企業たちが、初期の業績を足掛かりに、国際的な成長とAmazon外での販売を目標としているという、アグリゲーターの分野がどれほど成熟しつつあるかをうかがわせるものだった。
調達した資金
セラシオ
セラシオは2018年の創設以来、ホーム、ペット、おもちゃ、ゲームなどのカテゴリーで200のブランドを買収してきた。2021年は、総額34億ドル(約3910億円)の資金調達のうち30億ドル(約3450億円)を調達した。創業4年目を迎えるのにあたりセラシオは、「次世代の消費財企業」としてリランディングを行った。これは、新規市場や、D2C販売、実店舗とのパートナーシップなどを通じて、自社商品へのアクセシビリティを強化する計画の一環である。セラシオの2021年の収益は12億ドル(約1380億円)に達する見込みだ。
セラシオのプレジデントを務めるダニー・ブックバー氏は次のように述べている。「当社は耐久性と持続性があり、高品質な、レビューやランキングの高い製品に投資する。そのような実績があり好評な商品は別の場所でも売れると見込んでいる」。
ゴジャ
同業他社と比較して、ゴジャはアグリゲーターの分野で長い実績がある。同社は13年にわたって操業を続けており、2020年に13のブランドを買収し、2021年はさらに8ブランドを買収した。これは非常に速いペースに見えるが、CEOで創設者であるウォルター・ゴンザレス氏は買収についてよりバランスの取れた方法を使用していると述べている。同氏は、各ブランドを「完全に統合」し、在庫や、マーケティング、商品の拡張をより的確に管理する方向性をめざしているという。
同社は資金について公開していないが、2019年後半のシリーズAに続き、2022年1月にはシリーズBラウンドを計画している。ゴンザレス氏はその前に同社を独力で立ち上げ、外部からの投資を受ける前に「Amazonで最大手の出品者のひとつ」に成長させたと語っている。同社は2020年に1億ドル(約115億円)の収益を生み出し、2021年の売上はさらに60%も増加した。ゴンザレス氏は、10億ドル(約1150億円)の収益を達成する目標に向けて、毎年2倍の成長を目指していると語っている。
オルサム
これに対して、英国を拠点とするオルサムは、3社のなかではもっとも若い企業だ。2020年12月にサム・ホービー氏とオーリー・ホービー氏の兄弟(両氏は以前、Amazonの従業員と出品者だった)によって創設された同社は、アグリゲーターとして短期間に50人の従業員のチームを作り上げた。
オルサムは2021年9月、シリーズAの普通株・負債ラウンドで1億6500万ドル(約190億円)を獲得した。ホービー氏は、同社が現在10台後半の数のブランドポートフォリオを保有し、11月だけでも4件の取引を成立させたと語っている。同社の買収戦略は、デザインや材料などのIPや商標を保護できるブランドを対象にしていることだ。
ホービー氏は次のように述べている。「ブランドに関しては、レビューだけでは不十分だ。Amazonには高い循環性があり、高品質のブランドを保有していなければ、市場でのシェアは侵食され、衰退していくだろう」。
ターゲットとする市場
この3つのアグリゲーターはいずれも、北米、欧州、アフリカ、アジアにわたって国際的に展開している。
セラシオ
セラシオは、国境を超えた販売戦略を拡大する早期段階にあり、2021年は中国、欧州、日本で操業を開始した。同社は世界的な拡大戦略の一部として、特定のAmazon市場からもっとも売れている商品を選び、別の市場に輸出する。同社はすでに数百の商品についてこの作業を行っており、Amazon.comの商品であるトレイルバディ・トレッキング・ポール(Trailbuddy Trekking Poles)を英国と日本で、アーバンフィット・ミニ・ボール(URBNFit Mini Balls)をカナダで、ウィロー・アンド・エベレット・ティーポット(Willow & Everett Glass Teapot)をドイツで売りはじめた。
ブックバー氏は、商品を新市場に売り出すときには規制や法のコンプライアンスの問題などの微妙な差異を考慮する必要があると語っているが、同社の国際戦略の背後にある計算は「とてもシンプルなもの」と付け加えている。
同氏は次のように述べている。「商品について、米国内と同様な販売の拡大を達成すればよい。日本でのトレイルバディ商品の場合、現地市場の規模から考えて、米国での売上の10%を達成すれば成功だろう」。
実店舗とのパートナーシップも、この戦略の重要な要素になる。セラシオの商品はすでにターゲット(Target)、ベストバイ(Best Buy)、ビクトリアズシークレット(Victoria’s Secret)などの小売業者で販売されている。物理的な展開をさらに拡大するため、同社はセキュリティ用ブリーフケースとストレージソリューションのブランドであるアイデアストリーム(IdeaStream)を買収した。アイデアストリームはクリーブランドを拠点とし、ウォルマート(Walmart)、ウォルグリーン(Walgreens)、ロウズ(Lowe’s)、ホームデポ(Home Depot)、CVS、ライトエイド(Rite Aid)、クローガー(Kroger)など、実店舗で主に商品を販売している。
「当社はチーム全体を買い取ったのだから、これは当社にとって標準的な買収ではない」とブックバー氏は述べている。「彼らの会計および在庫管理システムは実店舗にとって重要なもので、近い将来、実店舗の小売パートナーシップを拡大するために、これらのシステムを利用する予定だ」。
セラシオの目標は、オンラインとオフラインの小売のあいだに存在するつながりを利用して収益化することだ。ブックバー氏は次のように述べている。「アラスカの3つの郵便番号にある実店舗に商品を置くと、それらの地域に関連するオンライン検索が指数的に増加することがわかっている。オンラインとオフラインは共食いするものではなく、相互につながっており、相互に補完しあえるものだ」。
オルサム
一方でオルサムは、米国内で販売しているブランドにとって、欧州との架け橋になりたいと考えている。同社は2021年12月、国境を超えた販売の機会を得るため、米国を拠点とするアグリゲーターのフライホイールコマース(Flywheel Commerce)を買収した。オルサムが米国から欧州に輸出することを計画しているブランドのひとつはペット企業のパウファイブ(Paw 5)だ。パウファイブは、ガーナを発祥とする女性主体のNGOであるエシカル・アパレル・アフリカ(Ethical Apparel Africa)が製造する、廃材利用の布地を使った商品を扱っている。オルサムの買収戦略に合わせて、同ブランドはこれらの素材に関するデザイン特許と実用特許を取得している。またオルサムは、ホーム用品を取り扱う企業など中国のブランドも買収している。同社は将来的に、米国、中国、英国において、自社独自の倉庫を保有するなど運用上の利点がある企業をターゲットにしている。
ホービー氏は、国境を超えた販売に関する運用上の課題についても語った。欧州への進出は、6つの税管区、現地の顧客、そして、広告やキーワード検索に影響を及ぼす言語に対応する必要があることを意味する。しかし、オルサムはAmazonの元従業員からなるマネジメントチームを抱えており、合計で6つのAmazonブランドの立ち上げと販売を行った経験があることから、Amazonでの販売について優れたインサイトを保有していると同氏は付け加えた。
「このビジネスにはふたつの側面がある」とホービー氏は述べた。「販売するということと、障害に対応するということだ」。
英国と欧州において数百もの出品者を管理してきた経験から、オルサムのチームはAmazonの内部の働きについて理解しており、プラットフォームから発生し得るエスカレーションにおける問題に対処できる従業員を保有していると、ホービー氏は語っている。同社は2021年5月、Amazonの元従業員であるニッシュ・ウダヤクマール氏を投資担当のバイスプレジデントとして迎え入れた。これは、同氏がAmazonセラーフルフィルドプライムプログラム(自社の倉庫から国内のプライム顧客に直接配送できるプログラム)でチームリーダーとして作業した経験を評価したものだ。
ゴジャ
これに対してゴジャは、中核のAmazon市場である米国、カナダ、メキシコに注力している。「南北アメリカ大陸は十分に大きな市場だ」とゴンザレス氏は述べる。D2Cと卸売小売のパートナーシップは将来的には視野に入れているが、2022年の計画は、既存ブランドの完全な戦力化を進め、自社の製品ラインナップを拡大していくことだと、同氏は付け加えた。
同社がブランドを完全に統合する方法のひとつは、同社のリアルタイムのSKUレベルデータを使用して、ブランドの在庫をより的確に管理することだ。Amazonの補充制限が次々と変更されている現在、クリック課金型広告、製品の価格設定、在庫レベルなどの変数を追跡できるゴジャの能力は、どの品目をFBA(フルフィルメント by Amazon)の施設に送るかを判断するのに役立つと、ゴンザレス氏は説明している。
「当社のデータ分析技術は株式市場の相場のような表示形式で、常に変動し続けている。Amazonから当社に、3万個の商品をすぐ送れると通知があれば、どの商品を送るかについて3万の決断をする必要があるのだ」と同氏は述べている。
同氏はさらに、「このレベルの意思決定は1、2年前には存在しなかった。今では、出品者が在庫を納入するために多くの段階を経由しているのだ」と続けている。
[原文:Amazon Briefing: After raising over $3B, three Amazon aggregators prepare for their next chapters]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu