米国のある大手小売ブランドにとって、新型コロナウイルスに見舞われたのは、今年の繁忙期がちょうどはじまったタイミングだった。そのため、同社も広告戦略を見直しはじめた数多くのマーケターの仲間入りをすることになった。宣伝を行うべきか、行うとしたらどのような方法をとるのか、といった点を同社は再検討している。
米国のある大手小売ブランドにとって、新型コロナウイルスに見舞われたのは、今年の繁忙期がちょうどはじまったタイミングだった。いつもなら、繁忙期の売上を伸ばすために広告支出を増やしながら、新製品の宣伝に取りかかるところだ。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、同社も広告戦略を見直しはじめた数多くのマーケターの仲間入りをすることになった。宣伝を行うべきか、行うとしたらどのような方法をとるのか、どこに広告メッセージを表示すべきかといった点を同社は再検討している。
この小売ブランド(この企業の広告業務を担当しているエージェンシーは、具体的な社名を明かすことを拒否した)は、メディアエージェンシーとともにさまざまなプランを検討しており、広告をそのまま展開する可能性も、すべての広告を取り下げる可能性もあるという。いまのところ、同社がとっているのはハイブリッドなアプローチだ。具体的には、数週間後にもとに戻す前提でテレビ広告を減らす一方、デジタル広告はそのまま継続している。
パンデミックの影響を強く受けた旅行業界、レストラン業界、一部のエンターテインメント業界が広告を停止しているのに対し、まだすべての広告活動を止めたわけではない業界のマーケターは、新型コロナウイルスによる状況に合わせてマーケティングプランを練り直すことが新たな日常となった。このなかには、屋外広告やイベントを別の場所に移すことを計画しているところもあれば、テレビやオンラインの広告頻度を減らすことを検討しているところもある。とくに、ウイルス関連ニュースの横に広告が表示される回数は減らしたいだろう。いずれにしても、広告活動を停止したり見直したりするための万能なアプローチはないというのがエージェンシーらの見方だ。
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「どのような業界であれ、メディアプランを再検討していないクライアントはいない」と、PHDの最高メディア責任者を務めるアンソニー・コツィアスキー氏はいう。「皆がパニックに陥ったり、活動を止めたりしているわけではないのだ。実際、我々も市場で展開するメディアプランやキャンペーンを見直しているところだ」。
あちこちでプランの練り直し
いまも広告を展開しているブランドのために、業界のあちこちでプランの練り直しが絶えず行われている。「そうした例はいたるところで見られる」と、トンブラスグループ(The Tombras Group)で最高メディア責任者を務めるケビン・バンバルケンバーグ氏は、広告の停止や見直しについて尋ねられた際に答えた。「だが現実には、状況に合っていないテレビキャンペーンがあれば、停止しなければならないだろう。誤ったメッセージを声高に伝えたり、ブランドにとって役に立たないことをしたりするのは避けたいはずだ」。
マーケターやエージェンシーは、マーケティングキャンペーンの練り直しを進めるなかで、ブランドにもたらされる可能性のあるリスクや、ブランドにとって役立つ可能性のある分野を探っている。たとえば、米DIGIDAYが以前報じたように、新型コロナウイルス関連のニュースの横に広告が表示されないように、関連の言葉をブロックリストに登録しているマーケターもいれば、屋外広告を見る人がいなくなった状況に対処すべく、オンラインでオーディエンスを獲得する方法を探っているマーケターもいる。また、危機のさなかにある消費者を支援することでブランドの健全性を高める戦略を、エージェンシーとともに検討しているところもあるという。実際、ビールメーカーのアンハイザーブッシュ(Anheuser-Busch)やラグジュアリーコングロマリットのLVMHのように、製造ラインを改造して手指消毒剤を生産している企業のマーケターは、そうした取り組みのおかげでブランドリフトを実現できる可能性がある。
一方、雰囲気が明るすぎる広告や宣伝が多すぎる広告、あるいは現在の状況にそぐわない広告は、すでにクライアントによって中断されていることが多い。「旅行キャンペーンやいますぐ飛行機で旅に出る楽しさを訴えるようなキャンペーンを現時点から行うことはない」とあるデジタルエージェンシーのCEOはいう。「また、人々がすぐに手に入れられない製品やサービスを宣伝することもない。そのような宣伝は別の四半期のために取っておくだろう。いまの時点でそうした宣伝にお金を使う意味はない」。
ひんしゅくを買うことが最大の懸念
冒頭で取り上げた小売ブランドの場合、メディアエージェンシーと検討しているプランのなかで実施が決まったものはまだないという。状況が刻一刻と変化しているため、同社は緊急事態用のプランが数週間後も有効かどうかをエージェンシーとともに見極めているところだ。
問題は、繁忙期がはじまって間もないため、意思決定の参考になる販売データがないことにある。しかも、パンデミックのニュースが24時間報道されているなかで、新製品のキャンペーンに人々がどう反応するのかがわからない。同社は、マーケティングがひんしゅくを買ってブランドが長期的なダメージを受ける事態をもっとも懸念している。さらに問題なのは、日常生活が正常に戻った場合に、今年の繁忙期がその後も続くのかどうかということだ。
「いまの状況をうまく活かしたり、利用したりしようとする人がいる限り、降りることはできない」と、バンバルケンバーグ氏はいう。「いまは人々の気持ちに寄り添い、全世界が一夜にして変わってしまったことを理解する必要がある。やるべきことはまだあるが、仕事がなくなった人やなくなりそうな人、あるいは人生が大きく変わりかねない人の目に、自社ブランドがどのように映るのかを考えなければならない」。
Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)