広告で示される「反人種差別」は、なぜ空虚に見えるのか?

ジョージ・フロイド氏の暴行死を背景に、反人種差別をPR活動に組み込む企業が現れている。彼らの発する支援のメッセージは、意味ある変化を生み出すことへの強い決意よりも、どちらかと言えば義務的だ

そうでないなら、少なくとも各社横並びのメッセージは避けられたはずだ。人種差別に口をつぐまないという態度を性急に示そうとするあまり、どの企業も「心からのお悔やみを」という形式的で中身の薄い、社名を入れた白黒のメッセージをSNSにまき散らし、それらはすべて明確な輪郭を持たない、ぼやっとした塊のなかに埋没した。

確かに、企業が発するメッセージのなかには、ほかよりも思慮深いものもある。だが究極的には、みな同じことを、同じように述べているだけだ。どの企業も、人種差別と戦うと表明はするものの、人種差別の根本にある白人至上主義を糾弾する声はほとんど聞かれない。実際、彼らのメッセージの大半は、警察が黒人に対して振るう、生命を脅かすほどの暴力から目をそらすものだ。黒人たちに向けられる、深く体系的な人種差別に反対の立場を表明することに比べれば、人種差別をヘイト行為の一部として語ることは余程容易いにちがいない。企業の発するメッセージがどれも虚ろに響くのは、この人種差別の影響に対する無知のせいだ。

言及されない白人至上主義

ロレアル(L’Oréal)は、自社のフォロワーに対して「黒人社会と連帯する」と表明したが、2017年、モデルのマンロー・バーグドルフ氏がSNSに人種差別を非難するコメントを投稿したとき、同氏を解雇したのもこの大手化粧品会社だった。もちろん、ロレアルに限った話ではない。ナイキ(Nike)は今回の抗議活動に共鳴して、人種差別に対する非難声明を出した最初の企業のひとつだが、アメリカナチ党が使用したアメリカ合衆国の初期の国旗でトレーナーをつくろうとしたのも同じナイキである。ブラックカルチャーから利益を得る企業、あるいはブラックカルチャーに同調して見せる企業が、今回の状況にどう対処するものか。彼らのオーディエンスは注意深く見守っている。

「我々はマーケティング業界でのみ通用する『皆様を支持します』的な表明を脱して、白人以外のための、具体的で意味のある行動に歩を進める必要がある」。そう主張するのは、カルチャーマーケティングコミュニケーション企業として「プラットフォーム13(Platform 13)」を創業したレイラ・ファター氏だ。「黒人文化と伝統的なつながりを持たないブランドやカテゴリーもあるし、顧客に占める有色人種の割合があまり大きくない企業もある」。

そのような企業こそ、ありきたりの言葉を並べる代わりに、あるいは完全に口をつぐむ代わりに、白人優遇の現実について、自分たちのオーディエンスを啓発すべきだろう。

急先鋒のベン&ジェリーズ

アイスクリームブランドのベン&ジェリーズ(Ben & Jerry’s)は、アメリカ国民に対して、「白人至上主義を打ち倒し、過去の過ちと向き合おう」と呼びかけてきた。また、米国法務省に対しては公民権局の復権を、そして議会に対しては、黒人奴隷がはじめて北米に連れてこられた1619年から現在に至るまでの差別の影響を明らかにするため、委員会設置の法案を可決するよう求めてきた。この行動は紛れもなく、白人優遇の歴史的ルーツに関する啓発活動だ。

ベン&ジェリーズはユニリーバ(Unilever)という巨大複合企業の傘下にありながら、社会問題についてもっとも積極的に発言する企業のひとつとして知られる。ユニリーバ傘下の企業としては、独自のCEOと独自の取締役会を備える唯一の組織でもある。このため、同社は、自分たちの価値観に照らしてもっとも重要な問題に関して、もっとも効果的に意見表明できる独立性を持っている。

「ベン&ジェリーズは『Black Lives Matter(黒人の命は重要だ)』というフレーズを口にすることを恐れない。警察の蛮行の犠牲となった人々の名を挙げることを恐れない」。エンジンUK(Engine U.K.)で事業開発とマーケティングの担当役員を務めるハナ・シェリー氏はそう語る。「この会社は、長期と短期の活動を考えながら、反人種差別という理念の真の支持者であろうとしている。だが、行動がすべてではない。この戦いを継続的に支援する道はほかにもある」。

バーガーキングCMOの指摘

今回の抗議活動に対して、多くの企業がコメントしにくいと感じている。その主たる理由のひとつは、これまでにもしばしば議論されてきたことではあるが、経営の上層部や意思決定機関における多様性の欠如だ。バーガーキング(Burger King)のCMO(最高マーケティング責任者)を務めるフェルナンド・マチャド氏は、今週、この問題についてTwitterに投稿し、広告業界がこの問題を適切に捉えることができないのは、この業界が多様性を欠いているせいだと指摘した。

マチャド氏の投稿の内容はこうだ。「クリエイティブ関係者各位。空虚な言葉でアフリカ系アメリカ人社会への連帯を示すのはもうやめにしてほしい。そんなことより、エージェンシーはもっと多くのアフリカ系アメリカ人を雇用するべきだ。さもなくば、私の会社で多様性を促進するための行動計画でも考えてくれたまえ(私たちにはそれが必要なのだから)。広告ではなく、行動を望む」。

マチャド氏のような幹部クラスのマーケターたちは、取引先のエージェンシーに対して、これを実現させるだけの力を持っている。もし彼らが、ユニリーバでグローバルなマーケティング活動を統括し、ダイバーシティとインクルージョン(多様性と包摂)の最高責任者を務めるアリーン・サントス氏に倣い、多様性を改善できないエージェンシーとは大きな取引をしないと要求すれば、改革の普及を求めるマチャド氏の声は、もっと現実味をともなって聞こえるだろう。だが現状では、前途遼遠というしかない。

エージェンシーも見て見ぬふり

「現在、私が働くエージェンシーは、人種的に多様な職場ではあるが、それはある範囲に限られる」。グローバルなメディアエージェンシーに勤務する、ある上席メディアプランナーは匿名を条件にそう語った。「上級職では、私と同じ外見の人間は多くない」。

英国の広告業界団体IPA(Institute of Practitioners in Advertising)が199社のエージェンシーを対象に行った調査によると、英国のエージェンシーにおけるエスニックマイノリティ(民族的少数派)の従業員比率は、2018年は13.8%で、2019年は前年より微減の13.7%だった。民族的にもっとも多様なのは入社数年のジュニアレベルで、2018年は16.9%、2019年は若干増えて17.7%だった。一方、いわゆる「C」の付く役職者(CEO、COO、CMOなど)に占めるエスニックマイノリティ出身者の割合は、2018年は5.5%、2019年はさらに落ちて4.7%にすぎない。民族的な多様化で遅れをとるエージェンシーの人間が、自分たちが見て見ぬふりをしている問題について、顧客企業に助言するのは容易でない。

「人種差別に関して議論するなら、本来有色人種のスタッフが参加してしかるべきだが、メッセージの内容を決める場に、常に彼らは不在だ」。ポッドキャストの多文化ネットワーク「PODデジタルメディア(POD Digital Media)」で最高経営責任者(CEO)を務めるゲイリー・コイチー氏はそう語る。「この状況を鑑みるに、多様性と包摂の問題に適切な対応がなされているとは思えない」。

プラットフォーマーたちの責任

先月、ジョージ・フロイド氏が警察による拘束中に死亡し、その結果、警察による人種差別的な暴行に対して、大規模な抗議デモが起こった。この目の前の現実と、企業の発するメッセージのあいだには乖離がある。ドナルド・トランプ大統領の問題投稿に対して、Facebookが無干渉の態度を取ったことにも同じことが言える。この投稿は抗議デモの参加者に対する暴力を示唆するもので、1960年代にある警察署長が発した人種差別的な言葉(「略奪がはじまれば、銃撃もはじまる」)を引用している。それにもかかわらず、抗議デモに支持を表明した企業の多くが、いまもFacebookで広告を買いつづけている。

現状、会社の倫理基準に反するプラットフォームで、これ以上予算を使えないと決断した広告主はほんのひと握りだ。

カリフォルニア州の不動産業者、アシュビー&グラフリアルエステイト(Ashby & Graff Real Estate)は、2019年、Facebookに投じていた5桁におよぶ広告予算の凍結を決断した。その前年、Facebookとその経営陣が、ホロコースト否定論や個人データの取扱に関するプライバシー違反など、支離滅裂な失態を演じたことが原因だった。次は、同社のFacebookビジネスページを全面的に削除するという。

「政治的な分極化と不協和音を悪化させ、民主主義の縫い目を力まかせに引き裂くような商品を輸出する巨大企業の収益に、たとえどれだけ少額でも貢献するのを良しとするのか。最終的に、我々の会社はそのような判断を迫られた」。アシュビー&グラフのジョン・グラフ最高経営責任者はそう打ち明けた。

「Facebookページを持つことに価値はあるのか。その価値は、Facebookが蒔く不協和音という危険な種を補って余りあるものなのか。どちらの問いに対する答えも『否』だ」。そうグラフ氏は言う。「たとえ莫大な価値があったとしても、我々のビジネスが、アメリカ合衆国の団結よりも大切なわけがない」。

SEB JOSEPH(原文 / 訳:英じゅんこ)