このコラムの著者、マーク・ダフィ(54)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米大手Webメディア「BuzzFeed」で広告批評コラムを担当していたが、2013年に解雇を通達された、業界通コピーライター。今回は機能として役に立たなくなった「広告」について嘆く。
ーーもう全部、場所と時間とお金の無駄なのかもね。何の話かって? 広告だよ。あらゆる種類の広告。インターネット、ネイティブ、テレビ、ビデオ、モバイル、プリント、ブランデッドコンテンツ、プロダクトプレイスメント、サンドイッチ・ボード……全部だ。
このコラムの著者、マーク・ダフィ(54)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米大手Webメディア「BuzzFeed」で広告批評コラムを担当していたが、2013年に解雇を通達された、業界通コピーライター。
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もう全部、場所と時間とお金の無駄なのかもね。何の話かって? 広告だよ。あらゆる種類の広告。インターネット、ネイティブ、テレビ、ビデオ、モバイル、プリント、ブランデッドコンテンツ、プロダクトプレイスメント、サンドイッチ・ボード……全部だ。
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いや本当に、ただの無駄かもしれない。
あんたら、最新のエンゲージメントの数字はいくらだとかって騒いでるけどさ、そうやってありがたがってる数字はどっかの誰かが作った数式にのっとって出されたものでしか過ぎなくて、たいてい偏った内容になっているわけだ。場合によっちゃ、まったくもって信用ならないでっち上げの数字だったりする。しかも、自分でも分かってるだろ。クリック数だとかビュー数だとかが何の意味も持たないこと。ちょっとその事実に「エンゲージ」してみようぜ。
みんな何も覚えていない
ネイティブ広告(とか、ほかのブランデッドコンテンツ)は意味がない。誰もブランドを覚えてない。ある調査によると、ネイティブ広告を見たことがあると記憶している人のうち3分の2は、その広告について、まったく何も覚えていないって答えてるし、なんと95%がスポンサーを覚えていないんだ。
2年前、「アトランティック」が勇気を出してかなりキワドイ質問をしたんだ。それは「インターネット広告って、はたして意味あるの?」ってのだったんだけど、短く回答すると「たぶん意味ない!」ってのが答えだ。もう少し、ちゃんと回答すると「誰も知らない」だな。誰もだ。あんたらが大事にしてる「ビッグデータ」すら知らないんだ。ここで言ってるインターネット広告ってのはFacebook広告もGoogle検索広告も全部含めてのこと。それらの全部が、おそらく役立たずなんだ。で、2016年になってもその答えは変わってない。
ソーシャルメディアの広告はどうかって? リツイートだとか「いいね!」だとか、何かにつながってるはずだと思ってるだろ。残念、まったくもって何の意味もありません。たった5%の人しか、ソーシャルメディアが購買判断において「重大な影響を持っている」と考えていない。これは2014年のギャラップ社(Gallup)のアメリカ消費者レポートによる統計だ。「ある程度の影響がある」と答えた人すら、たった30%しかいなかった。
オレ様のキャリアも台無し
じゃあ、昔っからの伝統的なクリエイティブの広告はどうかって? まぁオレ自身も、昔ながらのコピーライターだからってのもあるけど、やっぱり「クリエイティビティ」ってのが、効果的な広告の魔法のカギだと言いたいわけだ。アルゴリズムなんかでは測れない魔法が存在してるわけさ。もう少し具体的に言うと、意味のある広告、売れる広告っていうのは「予期していなかった素晴らしいビジュアル」ってのがカギになってる。それがあって、はじめて広告ってのは、機能するんだ。
そんな広告が機能するって、何で分かるのかって? それはもう分かるとしか言いようがない。60年代のクリエイティブ革命以来、ずっと機能してきたんだから。でもどっかで軌道がずれてきたみたいだ。
「トニー・ザ・タイガー」を模して作られた「フォーニー(詐欺師の、偽物の)・ザ・タイガー」。イギリスのグラストンベリーで撮影。イギリスで広まっている「ブランダリズム」活動のひとつ。「トニー・ザ・タイガー」の広告は、うまく行った(子どもたちの健康にとっては、残念なことだったけれど)。
ミレニアル世代ってのはどうも、なぜか広告が効かないみたいだ。クリエイティブ広告やビジュアルの優れたビデオや良いコピーも効き目がない。おかげさまで、オレ様のキャリアも台無しってわけ。
ブランドは売る姿勢を改めろ
じゃあブランドは何をすればいいって? ふむ……とりあえず、プロダクトを広告するのにお金を使うのを止めることだね。いますぐに。あとマーケティングMBAとやらに価値があるとかって考えてる奴は、いますぐ考えを改めること。ハードセルだとかソフトセルだとか、意味無い! セル(売る)ってことが、もう無いんだ。
もう残ってるオプションは、「セル(売る)じゃなくす」ことしかないよな。いくつか、例を挙げよう。
ひとつは「広告でない広告(Un-ad ads)」だ。とは言っても、どう見ても広告であることは一目瞭然なんだけれど、若い世代にはまだこのスタイルはウケるみたいだ。有名な「広告でない広告」に1999年のスーパーボールで流されたイー・トレードのCM「私たちはこれで200万ドルをドブに捨てました」がある。ただ、これも終わりに、まだまだセル(売る)するためのコピーがたくさんあるので完璧じゃない。
もっと良くて最近なのは、セス・アンド・ライリーのガレージ・ハード・レモンの広告だ(下図)。「一案:とにかく下らなくて馬鹿げた広告を作る。それによって人々が『一体こんなクソな広告にお金を払ったのは誰なんだ』と、広告の下をチェックしたくなるようにする」と、書かれた広告の下にプロダクトが存在しているというもの。自虐ネタ風なタグラインも素晴らしい。エージェンシーはデュバル・ギョーム (Duval Guillaume) 。こちらでは「広告でない広告」の例がもっと見られる。
ガレージ・ハード・レモンの広告。Y世代にはまぁまぁ受けたようだ。
100%信じ切れるメッセージを
それからもうひとつは「売らない広告(non-sell ads)だ。これは成功させるのが難しい。やり方のひとつとしてあるのが、何か社会的な問題や大義名分を掲げて、広告に使うこと。いまでは「コーザバタイジング(causevertising:大義[cause]と広告[advertising]を掛けあわせた造語)」なんて呼ばれたりもする。
こいつは誠実性にかけるようなやり方でやると必ず失敗する。ちゃんと100%信じ切れるメッセージを掲げないといけない。うっかりブランドのロゴや馬鹿なタグラインやハッシュタグを最後に見せたりなんかしてもいけない。ちゃんとメッセージが共感されれば、どのブランドの仕事かなんて、すぐに若い世代は調べ出してしまうものだから、安心しろ。
売ることをダイレクトに目的にした広告で言うなら、潜在的な顧客に情報を与える、もしくは楽しませるという方法がある。流行りの「物語を伝える(ストーリーテリング)」ってやつをやるんだ。ここでも自分のブランドは忘れないといけない。誰もあんたのブランドの車/ビール/痔の薬の「伝説」のお話なんて見たくもないんだ。笑える、もしくはへー、と興味を持って見てもらえる「短い映画」みたいのを作る必要がある。
広告なんて役に立ってない
それとかクールなビデオゲームや便利なアプリを作って無料で配信するとかしないといけない。ミレニアル世代はとにかく無料で何かもらえるってことに慣れてる(本当だから。BuzzFeedに居るときに、イヤってほど分かった)。でも、何作るにしてもめちゃくちゃ笑えるか、めちゃくちゃ良い物にしないといけない。じゃないと、デジタル・ネイティブなコメンターたちに凄まじく罵倒されるからな。
予算? 心配するなって、古い広告予算のなかで、十分にこういったプロジェクトは制作できるから。もし、いまのレガシー、もしくはデジタルのエージェンシーが、あんたの新しい戦略を気に入らなかったら、そいつらはクビにすればいい。新しい所を雇うか、フリーランスのチームを編成して制作してしまうんだ。
広告は死んだ……か死んでないか、分からないけど、とにかくほぼすべてのフォーマットで広告なんて役に立ってないんだ。
Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)