ユーザーレベルの識別子をGoogleが非難したことを受け、いまだ動揺が収まらないマーケター勢は、見通しが立たないなか、答えを模索している。となれば当然、マーケター勢はどちらを選ぶのか最終決断を下す前に、それぞれの利点とリスクを早急に見極めねばならない。
ユーザーレベルの識別子をGoogleが非難したことを受け、いまだ動揺が収まらないマーケター勢は、見通しが立たないなか、答えを模索している。
どうにかして足場を固めようと、彼らは手元にあるごくわずかな情報にフォーカスしている。わかっているのは以下の2点のみ。ひとつは、たとえばFloC(フェデレーテッド・ラーニング・オブ・コホート:個人ではなくグループでの閲覧パターンを集めたもの)のように、Googleのプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)が提供する技術は、Googleのエコシステムのなかでしか利用できないこと。もうひとつは、Unified ID 2.0のような、その他のソリューションは、Googleのエコシステムの外では利用できるということだ。
となれば当然、マーケター勢はどちらを選ぶのか最終決断を下す前に、それぞれの利点とリスクを早急に見極めねばならない。データの理解や技術スタックの評価から、ほかの識別ソリューションの調査やコンテクスチュアルソリューションの検証に至るまで、するべきことは山ほどある。
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「選択肢はいくつかあるが、ひとつにすべてを賭けるわけにはいかない。何が認められ、何が認められないのか、答えの出てない疑問が多すぎる」と、メディア・キッチン(Media Kitchen)のグループディレクター、フランシス・ジョーダノ氏は言う。「手駒は複数持っていたい。異なるソリューションをあらかじめ試しておき、本格的に導入された段階で、戦略を調整変更できるからだ」。
最終的な勝者はいまのところ不明
目下のところ、FloCとUnified ID 2.0が最有力候補ではあるが、最終的な勝者については、まだ何とも言えない。
デジタルエージェンシー、PMGはマーケティングおよび広告手法多様化の全クライアントにとっての重要性を強調しており、今後も複数の識別テクノロジープロバイダーの評価検討を続けていくと、同社のサーチ、ショッピング&ソーシャル部門トップ、ジェイソン・ハートリー氏は言う。「これからも嗅ぎ回るつもりだ。そのなかで、耐久性のあるアプローチを見つけたい」。
ただ、この思考回路の背景には、依然として――少なくとも、部分的には――ユーザーレベルの識別子が使える、という前提があると思われる。
だが、そうしたソリューションは、一部にとっては、サードパーティCookieの実行可能な代替案ではない。少なくとも、その多くが限定的であるいまの段階では、現実的ではない。現在、米国には約37の、全世界では約55の代替識別子が存在すると、プロハスカ・コンサルティング(Prohaska Consulting)のCEOマット・プロハスカ氏は言う。ただし、利用するパブリッシャーと消費者が十分にいなければ、いずれも形だけで機能しないに等しい。
「これまで、Unified 2.0について腰を据えて話をしてくれたパブリッシャーもアドテクプラットフォームもほとんどおらず、だから我々としては、自分たちで考えを固めるしかなかった」と、米DIGIDAYの取材に公には応えられない、あるベテランエージェンシー幹部は言う。
無難な道を選びがちな大手広告主
一方、そうした面倒を避け、安全策を採る広告主もいる。彼らが選んだのは、無難な道――そう、Googleだ。
「ユーザーレベルの代替識別子探しなんか止めて、Googleがプライバシーサンドボックスでやることにフォーカスしろ、という大手広告主からのプレッシャーは、確かにある」と、この件に詳しいあるアドテク幹部は言う。「『これまで予算の大半をGoogleに割いてきたのなら、不確定要素があまりに多いのに、どうしてわざわざGoogle以外の識別子に投資するのか?』というのが、広告主の言い分だ」。
その場合の未来図は、Googleのウォールドガーデン内におけるコホートベースのテクノロジーの利用となる。そうしたマーケターはすでにGoogleのエコシステムに大量の資金を投入しており、したがって今後もそれを継続することは十分に考えられるし、識別子に対するGoogleの否定的な見方に倣う場合はとりわけ、その可能性が高い。
ハッシュ化したIDは明らかに、eメールおよびメールアドレスを含め、ユーザーのアイデンティティを覆い隠す完璧な方法ではない。ゆえに、これを利用した場合、Unified ID 2.0やLiveRamp(ライヴランプ)の識別子といった代替案が消費者および当局に受け入れられるとは、Googleは見ていない。実際、Googleのブログには、一部の広告主に対する同社の懸念がはっきりと現れていた。
「クライアントには、ハッシュ化した個人情報に依存する代替識別子への投資を止めるよう、勧めている。理性的にも商業的にも、サステナブルではないからだ」と、同じく米DIGIDAYの取材に公には応じられない別のエージェンシー幹部は言う。「業界中が我々のあとに続くと確信している。さもなければ、サードパーティアドレサビリティに関して、開拓時代の米西部のような荒れ地に放り込まれることになりかねないからだ」。
Googleに疑問を抱くマーケター
一部のマーケターはしかし、eメールベースの識別子については意見を同じくするが、Googleに関しては違う。Googleのプライバシーサンドボックスは確かに、消費者にとっては、多くの代替案よりもありがたいものかもしれない。だが同時に、それは市場におけるGoogleの強大な力をさらに強めることにつながりかねない、との懸念も高まっている。実際、Googleの最新発表は疑問に答えるどころか、さらなる疑問を生んだ。
「識別ソリューションの中心的存在としてeメールに依存するのは賢いやり方ではないし、その点では我々も[Googleに]賛成だ。ユーザーの同意の問題もあるし、信頼性がどこまで保つかにも疑問が残る」と、ハヴァス・メディア・ノースアメリカ(Havas Media North America)のビッダブルメディア部門トップ、アンドルー・グッド氏は言う。「ただし、Googleにはひとつ、見当違いな部分もある。Cookieの代替は基本的に、Cookieに似たアトリビューションおよび効果測定ソリューションしかないと決めつけている点だ」。
Googleの論はこうだ――一部の企業がデータおよび機密情報を広告主に開示しない以上、消費者のオンラインエクスペリエンスは生まれない。それが生まれるのは、マーケターがプライバシーに配慮した、同意に基づく形で人々にオンラインで効果的にリーチできる場合に限る。
「認証済ユーザーに基づくIDソリューションがサポートするのは、トラフィックの20%程度となる。残り80%を占める匿名トラフィックは、現在開発を進めている新たなIDテクノロジーが担い、分類法によってセカンドパーティデータセットの分割をサポートしていく」と、グッド氏は言う。「FloCは、パブリッシャー個々の資産の利用を認めない。各々のセカンドパーティデータを共有するほうが、それぞれのデータベースに対する理解も深まり、パブリッシャーにもより有意義だと確信している」。
単一の識別子ソリューションには、それがどれほど大規模であっても、Googleウォールドガーデン外において、このレベルでの広範なターゲティングは不可能だ。だからこそ、Unified IDといったソリューションは現在、他ソリューションとの壁を越えた協力体制を目指し、異なる企業間でデータを適切に共有する同意フレームワークの構築を急いでいる。
ファーストパーティデータの方が先
このように両者がそれぞれの方策を押している結果、当局がいずれにも否定的な反応を示していることもあり、デジタル広告市場の未来は予測がきわめて難しくなっている。
「次に何をすべきなのかがわからず、広告主勢は大いに混乱している」と、デジタルエージェンシー、インフェクシャス・メディア(Infectious Media)のストラテジー部門マネージングパートナー、ジェームズ・カルソン氏は言う。「[サードパーティCookie代替]ソリューションは現在、必ずしも明快なものではないため、ファーストパーティデータの体系化がクライアントとの話題の中心となっている。この先何が市場に出てくるにしろ、それと折り合いを付けるのが必須になるからだ」。
SEB JOSEPH and KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)