先日来日した米アドビ システムズ マーケティング担当バイスプレジデント、ジョン・メラー氏への独占インタビューをもとに、DIGIDAY[日本版]が書き起こしたコラム。2002年にソルトレイクシティで開催されたオリンピックの経験をもとに、2020年の東京オリンピックに向けて、日本のマーケターがどんな準備をしておくべきか考察する。
この記事は、先日来日した米アドビ システムズ マーケティング担当バイスプレジデント、ジョン・メラー氏への独占インタビューをもとに、DIGIDAY[日本版]が書き起こしたコラムとなります。
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長くマーケター職に就いている私が、マーケティングのあり方に大きな変化を感じた出来事のひとつは、故郷であるソルトレイクシティ(米ユタ州)で開催された2002年の冬季オリンピックだ。ちょうど5年後の2020年に東京オリンピックを控えた日本の皆さんに、今後の日本で起きるであろう、テクノロジーとデジタルマーケティングの変化についてお話ししたい。
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まず、オリンピックのような一大イベントがあるタイミングでは、テクノロジーは劇的に変化する。グラフで表すなら、連続的な直線を描いて進化するのではなく、イベント毎に突然新しいものが登場して、階段状に急激な進化をするといったイメージだ。
思い返すと2002年は、TwitterやFacebookはもちろん、iPhoneも存在していなかった時代。そもそもネットワークの帯域が不足していたこともあり、当時はモバイルマーケティングをやろうと思ってもテクノロジー的に不可能だった。しかしその後、大きなスポーツイベントのたびに、SNSや動画配信が記録的な成長を見せるようになったのは周知の通りだ。
2年で100倍になった、ネット動画閲覧数
ここで、特に目覚ましく成長したテクノロジーである動画配信について、近年のスポーツイベントをもとに具体例を挙げよう。
2012年のロンドンオリンピックでは数万人規模だった、ネット動画のコンカレントユーザー(同時視聴者)数。これが、たった2年後の2014年ワールドカップ・ブラジル大会では数百万人にまで急伸している。この要因としては、携帯端末、タブレットあるいはPCといった、さまざまなデバイスからライブ動画にアクセスできるようになったという背景がある。
また、同時期の2014年ソチ冬季オリンピックでは、NBCがすべてのイベント・競技のライブ放送を実現し、動画コンテンツを量的にも一気に充実させた。さらにモバイルアプリに好みの競技や現在地のタイムゾーンを入力させることで、よりパーソナルなユーザー体験(エクスペリエンス)をも作り上げたのだ。
日本のマーケターや関係者たちは、こういった前例を基準として、来たるべき2020年に向けて、どんな進化が期待されているのかを考えていかなければならない。
2020年、動画コンテンツのあるべき姿
おそらく東京オリンピックでは、すべてのイベントや競技のリアルタイム放送はもちろんのこと、会場周辺での出来事まで感じられるようなユーザー体験の構築が望まれることになるはずだ。たとえば、競技以外の場面で選手が何をしているのか、自分のホームタウンでどんな種目が実施されるのか、といったことを「まるで自分がその場にいるかのように」あらゆるデバイスで体験できるような進化が求められると、私は予想している。
これを実現するには、動画コンテンツのさらなる量的な充実が不可欠である。より多様なニーズにあわせたユーザー体験を大量に提供するため、テレビ放送よりはるかに小規模な動画の放送手段(Microbroadcasting)が、続々と登場するだろう。
このように細分化された大量のコンテンツの時代になると、メディアの広告スポットをとにかく買うといった、かつてのブランドマーケティングの手法がうまく機能しなくなるのは間違いない。しかし一方で、それぞれの競技を視聴するユーザーの属性がまったく異なることを理解していれば、よりきめ細かいターゲット化がしやすくなるのも事実だ。
東京五輪でマーケターがやるべきこと
ただし、いまの世代のシビアなユーザーが関心を持っているのは、あくまでも「そのコンテンツによって、いかに良質なユーザー体験を得られるか」ということであって、自分に向けてどんな広告が発信されているか、ではない。
だからこそ今後のブランドマーケターは、従来のマーケティングだけでなく、ひとりひとりのユーザーに対して具体的にどういった製品を届けなければならないのか、というところまで含めて考えていく必要があるし、広告主もただ見た目がきれいな広告を作るといった発想から、顧客を引き込むようなユーザー体験の構築へと、アプローチを変えていくことになるだろう。
これはオリンピック体験でいうなら、ユーザーが競技を見ていてより身近に感じられるような、よりインタラクティブな接点を、ターゲティングされたユーザー体験としてたくさん作り上げていくことに、ほかならない。それが最終的にブランドマーケティングへと紐付いていくという形になるのである。
オリンピック開催まであと5年、すでに新しいマーケティングのために使えるテクノロジーは揃っているし、顧客もより良いユーザー体験を求めている。こうした状況は、顧客との関係構築に長けたマーケターにとって、大きなチャンスとなるはずだ。
ジョン・メラー / John Mellor
アドビのデジタルマーケティング事業部に関する戦略、ビジネスディベロップメントおよびマーケティング担当バイスプレジデントとして、Adobe Marketing Cloudの戦略を率いている。
(文:ワタナベダイスケ)
Photo by Thinkstock / Getty Images