近い将来、eスポーツ界のスターがアディダスの世界における顔になるだろう。「eスポーツの舞台で素晴らしい試合がおこなわれれば、そうなっても何の不思議もない」と同社のブランド担当バイスプレジデントを務めるビョルン・イェーガー氏は話す。アディダスはeスポーツを通じたマーケティングにどんなメッセージを込めるのか。
近い将来、eスポーツ界のスターがアディダス(Adidas)の世界における顔になるだろう。あとはその人物に適したキャンペーンが見つかるかどうかだけだと、アディダスの中央ヨーロッパ・ブランド担当バイスプレジデントを務めるビョルン・イェーガー氏は話す。
「eスポーツの舞台で素晴らしい試合が行われれば、そうなっても何の不思議もない」と、同氏は語る。「もうすでにミュージシャンやアーティスト、アスリートらがアディダスの顔になっている。アディダスがマーケティングにどんなメッセージを込めたいのか、それ次第だ」。
いずれそのときが来たら、G2Eスポーツ(G2 Esports)の誰かが、その顔になる可能性は十分にある。
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スポーツではなくエンタメへの投資
事実、アディダスはG2をサポートしており、この関係は少なくとも向こう2年間は続く見込みだ。ただしこの契約は、eスポーツのほかの契約、つまり同社がスポーツ組織と結ぶキット契約ではない。通常はアディダスがセレブやメディアオーナーと結ぶブランドパートナーシップと類似しているのだ。G2との契約は、アディダスのスポーツ部門のマーケティングチームではなく、エンターテインメント/インフルエンサー部門のマーケティングチームによってまとめられたものである。
G2のプレイヤーたちが着るアディダスのロゴ入りカスタムウェアや、eスポーツチームとの提携における最新トレンドに急速になりつつある「ライフスタイルアパレルコラボ」も、もちろん登場するだろう。だがこれらと同時に、社内のプロデューサーやインフルエンサーからなるG2のチームが制作するコンテンツにも重点が置かれるはずだ。いままでのところ、このパートナーシップの開始を告げるティーザー動画以外、この戦略変更が実際に何を意味するのかについての詳細は、ほとんど明らかにされていない。
短いスキットのような展開を見せるこの動画のなかで、G2のスターたちはアディダス・オリジナルス(Adidas Originals)のライフスタイルウェアに身を包んでいる。だが、今回のパートナーシップに表示されているロゴは、オリジナルスのトレフォイルロゴ(三つ葉ロゴ)ではなく、サッカー選手をはじめとするプロアスリートが使用するラインのパフォーマンスロゴ(3本線ロゴ)だ。
「我々はG2と、(eスポーツの)チームとしてだけではなく、エンターテインメント企業としても話しをしている」と、イェーガー氏は語る。「G2はこの6年間でとてつもないリーチを築き上げた。その点から考えて、彼らは世界のエンターテインメント業界、ゲーム業界をリードしている企業のひとつだと考えている」。
現在はプロゲーマー集団として知られるG2だが、彼らが目指しているのは、ゲームに焦点を合わせたメディアビジネス化だ。したがって、アディダスはチームが着るウェアだけでなく、そのコンテンツにも資金を出すことになるかもしれない。ポッドキャスト、リアリティTV、オリジナル番組、ライフスタイルコンテンツ−−G2が目指すのはレアル・マドリードではなくディズニーだと、同社CEOを務めるカルロス・ロドリゲス氏は話す。
ゲームはニッチなトピックではない
eスポーツチームのメディアビジネスへの接近が、アディダスなどの広告主に意味するもの。それは、G2を介して幅広い層のゲーマー、「Minecraft(マインクラフト)」のような、ほかのプレイヤーと競い合うことを目的としないゲームが好きなタイプであろうと、「League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)」のような技を競い合うゲームが好きな、トーナメント参加型のタイプであろうと、リーチできるチャンスになる。もちろん、彼らゲーマーが途中で従来型スポーツのファンになる可能性も十分にある。これら従来型スポーツの多くと、アディダスは利害関係を有している。言い換えれば、子どもたちが、自分が応援しているサッカーチームだけでなく、自分が見ているゲーミングプロパティのシャツに描かれたアディダスのロゴを身につける日が来ても、何も不思議はないのだ。
「チームが勝つことで獲得できる新しいファンも、もちろんいる。しかし、ほとんどの場合は我々が生み出すコンテンツやソーシャルメディアのプレゼンスによって築かれる、感情的なつながりをきっかけに、我々のファンになってくれる」と、ロドリゲス氏は語る。
ゲームがホットな産業であることは、紛れもない事実だ。マーケティングインテリジェントサービスのWARCは2020年7月、同年にeスポーツに投じられるスポンサー費および広告費は総額で8億4400万ドル(約873億円)にのぼる見通しだと発表した。その額は、今後2年間で10億ドル(約1035億円)を突破する見込みだという。
「この提携によって、アディダスにはゲームカルチャーへの真のリーチがもたらされる。G2が拠点とするドイツなどの我々にとっての『国内市場』だけでなく、世界的にもだ」と、イェーガー氏は語る。
こうしたリーチを得るには、時間も金もかかった。2019年、アディダスは有名ゲーマーのニンジャ(Ninja)と複数年のアパレル契約を結んだ。昨年は、ライブスポーツが行われないなかで、サッカーゲームの「FIFAシリーズ」でキャンペーンを展開した。ゲームはもはや、単なるニッチなトピックなどではない。
「大半のマーケターはまだ理解していない」
「G2のプレイヤーがアディダスなどの企業に起用されるときが、きっと来るはずだ。リオネル・メッシのようなサッカー選手がシューズの発売に起用されるのと同じように」と、ロドリゲス氏は語る。「G2のプロゲーマーがアディダスの最新技術を宣伝し、G2のエンターテイナーがライフスタイルアパレルを宣伝するようになるかもしれない。そうなる可能性は十分にある」。
アディダスなどの有名スポーツブランドが、キャンペーンの顔としてゲーマーをプッシュしているという事実は、多くのことを示唆している。ゲームカルチャーの「汎用性」をうまく活用すれば、ほかのスポーツやエンターテインメントよりも、はるかに幅広い層にアピールすることができる。それは、いままさにまとめられているさまざまな契約のなかにも反映されている。
「eスポーツにおけるスポンサー契約のあり方についていえば、企業は今後、個人のスポンサーになるべきか、それとも組織のスポンサーになるべきかを考えるように変わっていくのではないか」と、ゲームサイト「スロッツアップ(SlotsUp)」の広報担当者は語る。「スポーツや音楽のレジェンドたちとまったく同じように、プロモーショナル契約はeスポーツのメリットだけでなく、好感度にも基づいている」。
ただし、すべての広告主が、アディダスのような見方をしているわけではない。少なくとも、いまはまだ。
「マーケターの大半はまだ、このエコシステムを理解し、アディダスが取り組んでいるように、それをうまく活用できる地点には到達していない」と、エージェンシーのストライブ・スポンサーシップ(Strive Sponsorship)でマネージングディレクターを務めるマルフ・ミンズ氏は語る。「彼らはeスポーツとの関わりを求める一歩手前まできているが、スポーツチームのスポンサーになることに慣れてしまっているため、eスポーツとの関わりが何を意味するのかをまだ理解していない。たしかにアディダスもスポーツマーケティングを行っている。だが彼らは、自分たちはカルチャーの一部であることも理解している」。
[原文:Why Adidas treats esports deals like media partnerships, not sponsorship deals]
SEB JOSEPH(翻訳:ガリレオ、編集:分島 翔平)