記事ページ内で自動再生されるコマーシャル、アウトストリーム動画広告は広告主のあいだで一定の人気を獲得した。だがこのフォーマットでは、キャンペーンのパフォーマンスについて正確に把握できないのではないかと懸念を持つバイヤーもいる。
記事ページ内で自動再生されるコマーシャル、アウトストリーム動画広告は広告主のあいだで一定の人気を獲得した。このフォーマットは数が少なく高価な、動画の再生前に流れるコマーシャルなど、インストリーム動画広告枠の代わりとなる存在だ。
だがこのフォーマットでは、キャンペーンのパフォーマンスについて正確に把握できないのではないかと懸念を持つバイヤーもいる。とりわけ懸念されているのが、動画広告が流れてもユーザーが見ていないのではないか、そして視聴されていない広告も再生完了率のなかに含まれているのではないかという点だ。再生完了率は広告効果を評価するため各社の広告主が注視する重要な指標だ。
再生と視聴における矛盾
ここ数週間において、ある広告主が複数のアウトストリーム動画広告ベンダーからモバイルウェブ上のアウトストリーム動画広告を購入したところ、そのうちいくつかで動画の再生完了率がビューアビリティ率を超えていたという。これを受けてこの広告主は、ユーザーが広告が再生されているページをスクロールしており、広告を視聴していないのではないかと結論づけた。これは、広告パフォーマンスの測定基準としての再生完了率の効果を損なうものだ。本記事の執筆にあたりインタビューを行ったエージェンシー幹部らも、これは驚くような話ではないと同意する。
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トレーディングデスク企業ザクシス(Xaxis)の投資パートナーシップ部門でバイスプレジデントを務めるダニエル・マクドナルド氏は「広告の再生は完了したが視聴はされていない、ということは十分にありうると承知している。それは当然のことだ」と語る。
また、PMGでプログラマティックメディアディレクターを務めるジャスティン・スカーブラ氏は、「当社はクライアントに対してアウトストリーム広告は一切行っていない。アウトストリーム広告にはこのような問題がつきまとうと考えているからだ。だが、必ずしもそれを証明できるわけではない。証明するのは難しい」と語る。
判別するための手段
アウトストリーム動画広告が実際に視聴されているかを広告主が判別するためのもっとも有効な手段は、パフォーマンス指標にどれくらい貢献しているかを見ることだ。たとえばキャンペーンにおける再生完了率が高いのにブランド知名度やブランド再生において向上がみられなければ、それは広告が視聴されていないということを意味する。コンサルタント企業のゲイル・パートナーズ(Gale Partners)のメディア部門でシニアバイスプレジデントを務めるアダム・ハイムリック氏は昨年までホライズン・メディア(Horizon Media)のプログラマティック取引の監督をしており、これまでに少なくとも10を超えるブランドのアウトストリーム動画広告によるブランドリフトキャンペーンを担当してきた。そんな同氏も「再生完了率がブランドリフトにつながった例を見たことがない」という。
アウトストリーム動画広告が実際に再生されているかを見るには、再生完了率とビューアビリティを比較するのも手だ。MRC(Media Rating Council:メディアを評価するアメリカの業界団体)が定める動画広告ビューアビリティの基準によると、動画広告の50%以上が表示された状態で2秒以上再生されると、ビューアブルインプレッションとして測定される。広告のビューアブルインプレッション数よりも再生完了数が多い場合、再生はされているものの視聴はされていない可能性が高い。これが、前述の複数ベンダーからアウトストリーム動画広告を購入した広告主が至った結論だ。
この広告主は、ティーズ(Teads)を通じて10042のインプレッションと59%の再生完了率を記録したものの、ビューアビリティは37%にとどまったという。またシェアスルー(Sharethrough)では4685のインプレッションと71%の再生完了率を記録したが、ビューアビリティは48%にとどまっている。動画ネットワークのアンルーリー(Unruly)でも同様に再生完了率がビューアビリティを上回った。とはいえアンルーリーではインプレッション自体が171にとどまっており、サンプルサイズとしては極めて小さい。この広告主はイールドモ(Yieldmo)でも広告を展開したが、DSPではインプレッションに対してビューアビリティを測定できなかったとのことだ。
ベンダーサイドの説明
ティーズは、同社の動画プレイヤーは視聴されていなくても広告は流れ続けることを認めているが、広告が再生されるのはプレイヤーが表示範囲に入ってからであり、「表示されると再生がはじまる」タイプのプレイヤーだとしている。ティーズのプレジデントを務めるジム・デイリー氏によると、この「表示されると再生がはじまる」プレイヤーは2018年に97億インプレッションを達成しており、広告が視聴される平均再生時間は11.27秒だという。この記事の執筆時点でアンルーリーからのコメントは得られなかった。
本記事の掲載後に、シェアスルーCEOのダン・グリーンバーグ氏からメールにて次のような回答を得た。「当社のコアビジネスは動画のネイティブアドだ。当社が使用するデフォルトのプレイヤーは広告が表示外になると再生を停止するようになっている。アウトストリーム商品の提供を開始したのは最近のことだが、アウトストリーム動画広告が表示されていないときには一時停止し、そしてクライアントが期待する動画再生完了率もそれに基づいて設定することをバイヤーに強く勧めている。いまはアウトストリーム広告の再生停止を設定せずに再生完了率を高めることを好むバイヤーが多いが、当社の希望は、将来的に再生停止が標準的なものになることだ。そして現実にそうなっていくだろうと考えている。だが現時点では当社のカスタマーはアウトストリームについていずれのモデルも選択できる形を望んでおり、それに応えて両方の選択肢を残している」。
また、イールドモで最高売上責任者を務めるジェレミー・ステインバーグ氏は「表示外になったアウトストリーム動画は再生を停止している」と語っている。
広告主たちの動向
とはいえ、広告主が一斉にアウトストリームの動画広告を避けるようになったわけではないことは明記すべきだろう。マクドナルド氏によると、ザクシスのクライアントのデジタル動画への広告支出のうち、10から20%がアウトストリームの動画広告だという。だが同氏によると、クライアントのこうした支出は、アウトストリーム動画への興味や、ティーズやシェアスルーといったベンダーがアウトストリーム動画を推進するため投資を増やすと業界イベントで発言していることを受けて、実験的に行っている側面が大きいという。
広告主は、表示されてすらいないアウトストリームの動画広告のために金を払っているわけではない。ザクシスはグループ・エム(GroupM)の定める基準に従い、広告の50%が表示されていなければビューアビリティにカウントしておらず、クライアントに料金も請求していない。ティーズでは、「表示されると再生がはじまる」プレイヤーを、広告主が選択できるようになっている。しかも、表示領域が50%を下回ると再生が停止し、再生完了数分しか料金が発生しない仕組みだ。
いずれにせよ広告主はアウトストリーム動画広告をある程度購入しているが、その需要は高いとはいえない。またパブリッシャーのアウトストリーム動画のインベントリのみを買うのではなく、より広範な動画広告商品の一部として購入するケースも多い。ウォルトン・イザークソン(Walton Isaacson)でデジタル部門のマネージングディレクターを務めるアルバート・トンプソン氏は「それは、パートナーから与えられるプログラムの一部でしかない。パフォーマンスへの影響が薄いため、これこそ欲しかったものだという広告主は少ない」と語る。
同氏は動画広告全体のクリックスルー率は0.75から1%になることが多いなか、アウトストリーム動画広告であれば0.2%程度となる場合も少なくないため、「数値として非常に低いから、それなら代わりにバナー広告を出せばよかった、となる」と指摘する。
カスタマー体験への課題
表示されていないのに再生完了数にカウントされてしまうというパフォーマンス上の懸念以外にも問題が存在する。動画に対して興味を示してもいないユーザーに向けて動画広告を強制的に流す、というのはユーザー体験として問題なのだ。
「アウトストリームの現状を見る限り、このままでは動画広告として今後主流になっていくのは難しいだろう」と、マクドナルド氏は語る。「ビューアビリティと再生完了率の問題以上に、カスタマー体験として良くないのは大きな問題だ」。
Tim Peterson(原文 / 訳:SI Japan)