「体験」と「販売」を融合した、サムスンの店舗戦略

サムスン(Samsung)は2月20日、ベストバイ(Best Buy)などの家電量販店を飛び出し、初の常設小売店舗を米国のショッピングモールにオープンした。店舗があるのは、ロサンゼルスのアメリカーナ・アット・ブランド(The Americana at Brand)、ニューヨーク州ロングアイランドのガーデンシティにあるルーズベルトフィールド(Rooselvelt Field)、テキサス州ヒューストンにあるガレリア(The Galleria)だ。

米国サムスン電子でプレジデントとCEOを兼任するYHオム氏によれば、同社のストアコンセプトはテクノロジーの「遊び場」だ。顧客が従業員と雑談したり、スマートフォンやタブレット、ウェアラブル、テレビ、コネクテッドデバイスを試す場を目指しており、ゲームや4KVRを活用して、テクノロジーの可能性を体感させることに重点を置いているという。店舗のオープンと同時に、スマートフォンの新モデル「ギャラクシーS10」も発表された。

サムスンは、常設店舗のオープンの前から、下準備として実店舗販売の可能性を模索してきた。ここ数年の試みとしては、ダラス、ロサンゼルス、シカゴ、ワシントンDC、ラスベガスに開設されたポップアップストア「ギャラクシースタジオ」や、1400店舗のベストバイで展開されたショップインショップなどがある。2016年にはニューヨークにマーケティング拠点「サムスン837」をオープン。ここでは製品販売は行わず、インタラクティブ体験、展示、イベント用のスペースとして活用されている。モールに出店した店舗は、837と同じくVRやディスプレイを利用したマーケティングの要素をもっているが、837とは違って、顧客は商品を購入したり、カスタマーサービス担当者と雑談したり、修理を依頼することができる。

Apple Storeとの比較

「(新たな店舗は)コミュニティの中枢の機能をもつが、スケール可能なモデルでもある。サムスン837はスケール可能ではなく、実物以上の体験が売りだった」と、体験型リテールインキュベーターのウェアアバウトスタジオ(The Whereabout Studio)の創業者、ガブリエラ・ベイター氏はいう。「彼らは、Apple Storeには完全に欠落している、こうした新鮮な発見の感覚を取り入れるべきだ」と、同氏は指摘する。Apple Storeは製品機能に重点を置いているが、サムスンはそこから一歩進んで、店舗でのディスプレイや相互作用を通じ、テクノロジーの使い道のイメージを膨らませる手助けをしたいと考えているのだ。

ベイター氏によれば、Appleはリテールにおいて、実務的な「純粋主義アプローチ」で知られる。Apple Storeでの体験は、製品やサービスを効率的に提供することに重きが置かれているのだ。だが、顧客が他社の体験型リテールの概念に馴染んできたいまとなっては、Apple Storeのモデルはやや古臭いといえるだろう

しかし、VRやゲームディスプレイを導入することは、サムスンにとって、仕掛けに頼りすぎるリスクを冒すことにもなる。

キャンバスとしての店舗

「演出、優れたユーザー体験、機能性を融合しなければならない」と、ヒュージ(Huge)で最高デザイン責任者を務めるデレク・フリッドマン氏はいう。「ただインスタ映えするだけではなく、顧客とブランドのより深いつながりを築く必要があるのだ」。

そのため、実験的でテクノロジーに重点を置いた店舗は、ブランドとたくさんのオーディエンスを結びつける役目を担っている。そこには、製品購入を検討していなかった顧客、最新テクノロジーに惹かれる忠実な顧客、何よりも使い勝手のよさを重視している顧客がすべて含まれる。ただし、体験型コンセプトの開発にあたって、サムスンは顧客の期待の進化に対応しなくてはならない。常設の体験拠点であっても、ポップアップの柔軟性を備え、展示をすばやく解体・改装する用意が必要だと、フリッドマン氏はいう。

「店舗に関して、備品からテクノロジー、ハードウェアから実施計画に至るまで、すべてをブランドストーリーを伝えるための黒いキャンバスとして見る必要がある」と、フリッドマン氏。「変更のきかない『ハードコード』を、空間に埋め込むべきではない」。

投資利益率と効果測定

また、投資利益率と効果測定も問題だ。ベイター氏によれば、究極の目標は、ユーザーのフィードバックデータを得てプロダクト体験を進化させられるようになることだ。しかし、一度きりの体験でブランドの忠実な顧客に転向するというのは、現実的ではない。

「VRやARの実用的な使い道は、価値の創造だ。価値を生み出していないなら、目新しいだけの飾りにすぎない」と、フォレスター(Forrester)の主任アナリスト、ブレンダン・ウィッチャー氏はいう。「誰も新しい体験のためにわざわざ店に来るほど暇ではないのだ。新奇性と持続可能性の区別は重要だ」。

Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:ガリレオ)