クライアントたちはエージェンシーのバイヤーに対し、大統領就任式後の1月20日正午以降、自社ブランドの広告がドナルド・トランプ氏に関連するニュースと一緒に表示されないようにしてほしいと依頼している。これは前例のない要請だ。
クライアントたちはエージェンシーのバイヤーに対し、大統領就任式後の1月20日正午以降、自社ブランドの広告がドナルド・トランプ氏に関連するニュースと一緒に表示されないようにしてほしいと依頼している。これは前例のない要請だ。
大手メディアバイイングエージェンシーの幹部(匿名希望)いわく、広告主は通常、政治絡みのニュースに出稿するか、あるいはしないかの2つのタイプに分類できるという。これまではほぼいつでも、そうした分類が選挙期間中にも当てはまっていた。政治関連コンテンツの広告枠を購入するブランドは、各種ニュースの広告枠を買ってきた。「大統領候補がまだ2人いるあいだは、万人に伝えているという感覚をもてた」。
バイヤーらによると、共和党全国大会の会期中、トランプ氏が候補者として正式に指名されると、広告掲載の一時的な見合わせがあったという。だがそれを除けば、ブランド各社は政治ニュースに広告を出すことを当然のように受け入れてきた。
Advertisement
トランプに距離を置くブランド
「だがいま、我々は第3のタイプを目の当たりにしている」と、あるバイヤーは指摘する。「我々の取り引きのなかには、政治関連ニュースに広告を出しても、大統領就任式やトランプ氏に関するニュースには出さないという広告主もいる。トランプ氏だけが残ったので、万人に伝えているふりさえできなくなったのだ」。
具体名を明かさなかったものの、トランプ氏関連コンテンツ全般を敬遠しているのは、比較的高齢でニュースをよく読む消費者を抱えるクライアントだと、バイヤーたちはいう。一部のクライアントはまた、トランプ氏から距離を置くことに「道義的責任」を認めている。
ブランドにとっては難しい線引きだ。トランプ氏関連ニュースは広告主にジレンマをもたらす。新大統領のトランプ氏は、日々大勢のオーディエンスを動かす魅力的なキャラクターだ。あるバイヤーいわく、「誰にでも拭くべき尻がある」。つまり、トイレットペーパーのような商品を売るブランドなら、大勢のオーディエンスから稼ぎたいと思うだろう。それでも、トランプ氏が国民を二極化し対立させているので、ブランドは距離を置くことを選ぶのだ。
苦境に陥るバイヤーたち
ブランド各社は、大統領就任式が地雷原になりかねないと考えている。データ企業のアフィニオ(Affinio)が各種の統計を分析したところ、多種多様な「層」が就任式のボイコットについてツイートしていることがわかった。彼らはまさに、就任式関連コンテンツに広告を出すブランドを敬遠するリスクがあるオーディエンスだ。

ボイコットについてツイートしている層
ブランドは通常、2種類の広告枠を買う。第1はキャンペーンを拡大するための枠。こちらについてバイヤーは、往々にして、掲載面に対して、あまり難しいことを要求はしない。第2は「ブランド」広告で、こちらはどこに掲載されるかが非常に重要になる。第1のタイプが増えたことが主な原因で、偽ニュースサイトや、「ブライトバート(Breitbart)」のような「オルタナ右翼」と呼ばれる白人のナショナリストが集まるウェブサイトに、広告が多数掲載されるようになったのだ。
一方、どのような文脈で掲載されるかが重要なブランド広告は、ニュースサイトにはほとんど配信されない。バイヤーたちは、パブリッシャーの選定で道義的責任を果たしていると実際に見なされる必要があるかどうかを見極めようとして、苦境に陥っている。
アドテクへの圧力が強まる
「偏りのないエージェントとして、我々はパートナーであり、意見を持つかどうかを決めるのはクライアントに委ねられる」と、エッセンス(Essence)でメディアアクティベーション部門のグローバルディレクターを務めるオスカー・ガーザ氏は語る。「政治ニュースは常に強い関心を呼ぶ存在で、その状況は流動的だ。ブランドの多くは、ニュースには肯定的でも、政治の動向には慎重になる」。
こうした状況の副作用として、バイヤーがアドテクへの圧力を強め、フィルターをかけてコンテンツを選び出す手助けをするよう求める可能性がある。大半のプラットフォームはニュースや天気のようなカテゴリー分けを提供しているが、ガーザ氏によると、より細かいフィルター(たとえば「トランプ」など)を求める人が増えているという。
一般的には、ニュースはバイヤーにとって非常に幅の広いカテゴリーだと、ガーザ氏は指摘する。クライアントは、ある種のニュース、たとえば「惨事」などを除外するよう求めるだろう。そして、テロ攻撃のような事件が起きない限り、バイヤーは通常「ニュース」カテゴリーを除外しない。政治については、ほかと比べて特に敏感なクライアントもいるが、ブランドが大統領に不安を抱くようなケースはこれまでほとんどなかった、とガーザ氏は語った。
Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)
Photo by Getty Images