[ DIGIDAY+ 限定記事 ]アシックス(Asics)は、決定的な一線を引くことにしたようだ。この大手スポーツウェアメーカーでは、ある一定時間100%閲覧可能な状態の広告のみ買い付けることにした。その結果、ビューアビリティ(広告の可視性)の計測に対する期待値が上がり続けているという。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]アシックス(Asics)は、決定的な一線を引くことにしたようだ。
この大手スポーツウェアメーカーでは、ある一定時間100%のインビュー(in-view)状態の広告のみ買い付けることにした。そのため、ビューアビリティ(広告の可視性)の計測に対する期待値が上がり続けている。
ユーザーから閲覧可能な状態にある広告のみを支払い対象とするために、アシックスはvCPMというビューアブルなインプレッション1000回当たりの広告単価を採用。vCPMは広告の可視性とインプレッションごとの表示時間を計測するもので、広告主が従来使ってきたすべてのインプレッションの集計値を使うものではない。集計値によるビューアビリティ計測は数年来、堅持されてきたが、この方法では1秒間の広告閲覧と5秒間の広告閲覧の効果の違いを知ることはできない。
Advertisement
半年前、アシックスはアドテク会社のティーズ(Teads)と共同でvCPMの実験を行った。わずか1000分の1秒の差が大きく作用する「見た、見ない」の二択方式から脱却し、エンゲージメントと滞在時間(視聴時間)をビューアビリティの指標として採用する計画の一環だった。
アシックス社内のメディア部門、アシックスデジタルでシニアマネジャーを務めるフィリップ・ブライアント氏は言う。「私たちは、あらためて考える必要に迫られた。広告表示が2秒の壁をクリアしてビューアビリティのチェックボックスにチェックを入れることが重要なのか、それとも広告を見たユーザーが75%エンゲージした、あるいは100%エンゲージしたことが重要なのか」。
注目に値する効果
この転換以来、注目に値する効果が出ている。ユーザーが100%のインビュー状態で最大5秒間表示されたディスプレイ広告への予算投下をはじめたところ、100%のインビュー状態で1秒間表示された標準的なCPM広告と比べてビューアビリティが27%アップした。動画でも同様の結果を得ており、100%閲覧可能かつ最大6秒間表示された広告で、ビューアビリティは43%上昇した。vCPMで支払う限り、アシックスは100%ビューアブルな広告にのみ広告費を支払い、それ以外はすべてフリーメディアだ。
ビューアブルインプレッションは安くない。ビューアビリティが低いと不満げな広告主も、余分な金を払ってまで数字を上げようとは考えない。アシックスにとっても、vCPMでの買い付けはCPMより高くついた。それでも、差額はたかだか5%から10%程度だとブライアント氏は言う。
P&G(Procter & Gamble)、ユニリーバ(Unilever)、ロレアル(L’Oréal)などの広告主がビューアブルな広告への予算投入を増やすなかで、メディアエージェンシーやアドテクベンダーはビューアビリティの基本要件をより具体的に定義しはじめた。2017年、グループ・エム(GroupM)は時間にかかわらず100%閲覧可能な広告のみを買い付けると宣言した。また、ビューアビリティの計測を行うインテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)もこの年、同社が発行する「メディア・クオリティ・レポート(Media Quality Report)」に広告の閲覧時間を示す「タイムインビュー(time-in-view)」という新たな指標を追加した。このような改良の試みと、vCPMの登場を背景に、アシックスをはじめ、より多くの広告主がビューアブルな広告とビューアブルでない広告のエンゲージメントを比較し、ビューアビリティがパフォーマンスに与える影響を分析できるようになっている。
「あくまでも最初の一歩」
ビューアビリティを楽観的に捉えるブライアント氏だが、ビューアビリティがブランドセーフティとトランスペアレンシー(透明性)を担保する指標になるとは考えていない。実を言うと彼は、タイムインビューを軸にアシックスの広告購入を最適化すべきと感じており、このため、年内により大規模なキャンペーンでvCPMのテスト行う計画が進められている。
「時間という側面に共感した。2秒、5秒、あるいは6秒などの単位で購入することにより、広告が集める注目度をもっと深く理解できるからだ」とブライアント氏は言う。「vCPMをテストした最初のキャンペーンは次なる段階への足掛かりで、次はこの計測方法がより大きな予算、より大量のインプレッションでも通用するかどうか検証したい。ビューアビリティはあくまでも最初の一歩だ」。
アシックスは最終的にvCPMのようなビューアビリティ指標とインプレッション指標をひとつのメディアプランで連携させたいと考えている。他のファクターを犠牲にしてビューアビリティをとことん押し上げようとすれば、先般パブリッシャーが明らかにしたような、予期せぬ副作用をもたらすかもしれない。ビューアビリティを高めたい広告主が現在使うやり口と言えば、広告面積の50%を最低2秒間すら表示していないパフォーマンスの低いサイトを単純に切って捨てるだけだ。これでは、堅実な滞在時間を提供できるプレミアムサイトが巻き添えを食らいかねない。
「ビューアビリティ一辺倒になると、滞在時間の長い良質なサイトも排除の対象になりかねず、キャンペーンにマイナスの影響が出るのをしばしば目にしてきた」と、デジタルマーケティングのコンサルティング会社、カントン・マーケティング・ソリューション(Canton Marketing Solutions)を創業したニック・キング氏は言う。「ビューアビリティの予測は知識と経験に基づく推測だ。ビューアブルCPMを軸に最適化を行うのは良いことだが、vCPMのみによる買い付けは機会の損失につながりかねない」。
新たな指標の模索へ
vCPMをこのような機会の発掘につなげることも不可能ではない。vCPMを足掛かりに、ユーザーの注目度をより正確に反映する、新たな指標の模索へと向かうことができればの話だ。たとえば、フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)はすでに5年前、ユーザーの注目度を測る指標を広告バイヤーに採用してもらうため、接触時間に基づく広告単価を他に先駆けて導入しようと試みた。
前出のキング氏はこう続ける。「優秀なバイヤーは必ず結果を出す。彼らはvCPMを意識しながらインプレッションベースで買い付け、しかしビューアビリティ一辺倒に陥ることなく、あくまでもパフォーマンス指標で実績を出すことにフォーカスしているからだ」。
単純なCPMから脱却しようとするアシックスの動きは一部のメディアプランに見られる「クオリティCPM(qCPM)」の台頭とも呼応する。qCPMはビューアビリティや時間帯をはじめ、キャンペーンのパフォーマンスやユーザーの注目度に影響を与える多様なファクターを網羅する多層的なCPMを謳い、ハーツ&サイエンス(Hearts & Science)やエッセンス(Essence)などのメディアエージェンシーが採用している。ただし、アシックスがこのような指標を導入するのは時期尚早だとブライアント氏は言う。「定義も解釈も一定しないうちは、なおさらだ」。
Seb Joseph(原文 / 訳:英じゅんこ)