「デジタル音声広告のインパクトは、ラジオ広告以上だ」:Spotify 藤井哲尚 ✕ ビッグフェイス 森田一成

音声広告の活躍の場がラジオからスマホに移り変わるなか、デジタル音声広告が大きな注目を集めている。

その潮流を象徴するのが、ACC(全日本シーエム放送連盟)が2018年に行った、同連盟が運営するアワード、「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」の部門名変更だ。当時の「ラジオCM部門」は現在「ラジオ&オーディオ広告部門」に。IoT化の促進を見据え、ラジオCMではない音声広告活用の事例も、審査対象にするとした。

「昨今の音声広告市場は、考え方やクリエイティブの作り方まで、あらゆる側面でデジタル化が進んでいる。そうなれば、ターゲティング活かした『ユーザーに寄り添う』音声広告も実現できるだろう」。こう語るのは、これまでラジオCMを専門に活動し、現在は「Spotify デジタル音声広告」の広告クリエイティブも手がける、株式会社ビッグフェイス 代表取締役・コピーライター・ディレクターの森田一成氏だ。

今回はそんな同氏と、サブスクリプションとデジタル音声広告をはじめとした、広告ビジネスをマネタイズの柱とするSpotify(スポティファイ)の広告事業を統括する、藤井哲尚氏との対談を実施。音声広告市場の可能性と展望を語り合ってもらった。

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藤井哲尚氏(以下、藤井):昨年ごろから、海外でのデジタル音声広告市場の躍進に関する記事が増え、日本でも関心の高まりを感じています。Spotifyとして、日本でデジタル音声広告市場の成長に貢献するためには、まずは同じ意識を共有する仲間づくりが必要だと考えました。そしてそのためには、音声広告の主戦場だったラジオCMの文脈を経験しつつも、いろいろなチャレンジをされている方と繋がるのが良い。そこでアプローチしたのが、ラジオCMでさまざまなチャレンジを続けている森田さんでした。

森田一成氏(以下、森田):1年ほど前でしょうか、藤井さんから「一緒に新しいことをしましょう!」という、熱い想いの込もったメールをいただいたのを覚えています。当時、Spotifyに関しては、正直広告メディアという認識はありませんでした。

ただ、当時すでにラジオのネット配信サービスなども出現して、業界がデジタル化に向かっている感覚はあったので、デジタル音声広告にも注目していた。そんななか、お話をいただいたので「新しい挑戦ができる!」と思ってワクワクしましたね。

藤井:森田さんがこれまでラジオCMでやってきた、情景が思い浮かぶような「語り」を作るテクニックは、ラジオの領域でずっと積み重ねられてきたものです。そうした知見を学ばせていただきながら、デジタルならではの面白いものを作ろうと考えました。

本質的な違いはない

森田:恐縮です(笑)。でも実際、ラジオCMでの経験は、デジタルでもかなり活かせていると感じてます。デジタル音声広告とラジオCMの違いって、クリエイティブに関しては正直ないと思っているので。

藤井:確かに、どちらも音の媒介とした広告という点では、違いはありません。実際、森田さんに制作いただいたSpotifyの自社広告も、間違いなくこれまで培われた音声広告のご経験が活かされているのだろうなと感じます。

森田:僕はどちらかというと、面白い系とか、楽しい系とか、あとは日々のちょっとした出来事とか、人間関係にフォーカスするクリエイティブを書いたり、演出したりしてきました。なので、普段から人間観察をよくしてます。たとえば、デート中のカップルを見かけたら、「いまこのセリフをいったら、相手は喜ぶだろうな」とか「逆にこういったら気まずいだろうなとか」観察しながら考えたり(笑)。人の心の機微を突くのが好きなんですね。こうした経験や趣向は、Spotifyさんの広告を作る上でも存分に活きていると思います。

藤井:なるほど。ちなみに、何か心掛けていることはあるんでしょうか?

森田:心掛けているのは、聴いている人が「聴いてラッキーだったな」と思うようなクリエイティブを作ること。広告はタダで聴こえてくるものなので、心に響く内容だったらラッキーじゃないですか。

藤井:まずは知覚を刺激するというか、強い印象を持ってもらうということが大事だということですね。確かに森田さんの広告は、最初に聞いたタイミングでは、どんなブランドを訴求しているのか、イメージが付かないときがあります。しかし、なぜか引きつけられて、最終的にはブランドのメッセージになっているという。「ああ、そうなるのか!」っていう驚きがあります。

 「『ラッキーだな』と感じさせるクリエイティブ作りを心掛けている」と森田氏

「『ラッキーだな』と感じさせるクリエイティブ作りを心掛けている」と森田氏

パーソナライズという強み

森田:細かなジャーニーを考えて、いいアイデアが出るときもありますが、メッセージが届くかどうかは、だいたい第一印象がどれだけ強烈だったかで決まると思っています。なので、第一印象のアイデアをたくさん書き出して、そこから面白そうなものを深掘りする形で作っていますね。

ただ、やはりSpotifyの広告を手がけていて、ターゲッティングがより細かくできる点は魅力に感じましたね。ラジオCMの場合、想定リスナーが20〜30代メインの番組で流すCMであっても、ある程度ほかの年代のリスナーも意識して作らなければならない。しかしSpotify デジタル音声広告の場合、そういった配慮をする必要がない。

藤井:確かに、Spotify デジタル音声広告は完全にパーソナライズされているため、細かなターゲティングが可能です。具体的には、年齢、性別、エリアのほか、プレイリスト、音楽のジャンルなどのデータをもとに、ユーザーのモーメントに合わせて広告を配信することができます。

また、ユーザーの約8割はヘッドホンを使っているので、ラジオCMにおけるユーザーの聴取態度が「広く語られているメッセージを聴く」というものであるのに対し、Spotifyは「私だけに、耳元で語りかけられているメッセージを聴く」といった違いも出てきます。パーソナライズされている分、広告への不快感も抑えることもできる。

モーメントを捉える

森田:なるほど。実際僕もSpotify デジタル音声広告のクリエイティブを作る際、パーソナライズが効くということで、聴き手を具体的にイメージしながら制作できる点に魅力を感じました。僕、個人的には、デジタルなのかラジオCMなのかに関わらず、基本的に万人に受ける広告なんてないと思っているので、広告を作るときはいつも、ターゲットをできるだけ絞るようにしてるんです。

Spotifyさんの広告を手がけているときも、想像が広がって、作るのが楽しかったです。デジタル音声広告は自分に向いてるなとも思いました(笑)。

藤井:そうだったんですね(笑)。直近だと、森田さんには、年末に流すSpotifyの自社広告を制作していただきましたね。

森田:はい。このクリエイティブに関してはターゲットの属性に加え、この時期特有の音楽、たとえばクリスマスソングなどに挿入されることをイメージして、スイートスポットはどこなんだろう、ということを考えて作りました。


森田氏が制作した音声広告

藤井:「Spotify デジタル音声広告」は、聴いているプレイリストやジャンルをもとに、モーメントに合わせたターゲティングが可能です。この曲を聞いているユーザーの気持ちは、きっとこんな感じだろう、といった具合に。加えて、広告は楽曲の間に挿入されるので確実に聴かれることが前提なのです。

森田:随分前の話なのですが、以前僕が師事していた広告の師匠が「広告は聴かれないものと思って作れ」と話していたのを思い出しました。「みんなぼやっとしか聴いてへんのや!」って(笑)。これは、ユーザーはなんとなくしか聴いてないのだから、耳を傾けてもらうように作らないといけない、そういった意図があったのだと思います。ラジオCMとデジタル音声広告では、作り手が押さえておく前提にも違いがありそうですね。

「Spotifyなら、モーメントに合ったターゲティングができる」と藤井氏

「Spotifyなら、モーメントに合ったターゲティングができる」と藤井氏

デジタル音声広告の可能性

森田:実際のところ、国内のデジタル音声広告市場は、どのくらい盛り上がっているのでしょうか? 私は藤井さんから声をかけられたとき、ラジオCMとデジタル音声広告の違いを自分なりに探そうと、街中に流れる音声に注目してみたんです。すると、世の中にはさまざまな音声広告が溢れていることに気付いたんですね。それらが今後デジタル化することを考えると、大きな可能性を感じるのですが。

藤井:注目度は確実に高まっていると思いますね。象徴的なのが、ACC(全日本シーエム放送連盟)が運営するアワード、「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」の「ラジオCM部門」が、2018年に「ラジオ&オーディオ広告部門」に名称変更されたことが挙げられます。デジタル音声広告の出現は、これまでラジオ主体であった音声広告全体の捉え方も変えつつあります。

森田:音の体験というだけでも、色々な可能性がありますからね。

藤井:はい。たとえば、ペアマイクやダミーヘッドを使用して音を収録する、「バイノーラル録音」という手法は非常に面白い。これで録音した音をヘッドホンで聴くと、まるでその場にいるかのような、自然な音が聞こえます。あとは、沈黙をどう取り扱うかといった切り口も、個人的には興味があります。メッセージを届けるということと、気持ちを動かすというところで、ラジオ広告以上のインパクトを作ることができる、という手応えは強く感じています。

生活のすべてに寄り添う

森田:今後、デジタル音声広告が一般化していくと、やはり将来的にはスマートスピーカーが主要な広告媒体になっていくのでしょうか。

藤井:そう思います。ただ、我々はスマートスピーカーに関わらず、新しい音声デバイスが登場すれば、すぐに対応できるような柔軟性が大事だと考えています。仮に、IoTによってテーブルを音声広告媒体にすることができたら、そこにはSpotifyが接続されている、そんな世界観を目指しています。さまざまな媒体と繋がりながら、「生活のすべてに寄り添う音体験」を提供していけるというのも、我々の大きな可能性だと思います。

森田:実際、すでに複数のデバイスをまたぎながらSpotifyを愛用している人も多いですよね。

藤井:だからこそ今後は、ユーザーがどのデバイスを使っているかが、非常に重要になります。いまでも、使用しているデバイスからそのとき聴き手がどこにいて何をしているのか、おおよその予想は可能です。しかし、今後その精度はますます高まっていくでしょう。いずれ、ユーザーが置かれているあらゆる状況に対して、最適なコミュニケーションすることが可能になるのではと考えています。

森田:僕は、ラジオCMを作る際ターゲットを絞るタイプなので、藤井さんが予測する音声広告の流れは、作りやすさという意味では歓迎すべき展開のような気がします。今後はいま以上に、ユーザーの深いインサイトに寄り添った広告作りを目指したい。

ただ、広く、多くの人にメッセージを響かせることも、広告の大事な役割です。ターゲティングによって、入り口は最適化されつつも、ユーザー同士でふとしたときに共通の話題になる、そんな広告を実現したいですね。

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▼藤井 哲尚(写真左)
スポティファイジャパン株式会社 広告事業統括

 

1999年より 2017年まで、株式会社博報堂 および株式会社博報堂DYホールディングスにて、統合コミュニケーション・デジタル・グローバルビジネス・事業開発の領域で活動。2017年10月より現職にて、Spotifyのフリービジネスの統括を担務。人の生活活動に関心を持ち、哲学・文化人類学・経済学・経営学などを修めつつ、フィールドワークも続けている。最近は、開墾と登山が趣味。

▼森田 一成(写真右)
株式会社ビッグフェイス 代表取締役/コピーライター/ディレクター

 

主な受賞歴として:ACCゴールド(2016・2015・2012)、ACCクラフトプランナー賞(2017)、ACCクラフトディレクター賞(2017・2012)、TCC新人賞(2014)、ギャラクシー賞 選奨(2018)、ギャラクシー賞 奨励賞(2018)、ACCシルバー(2017・2016・2013)、ACCブロンズ(2019・2018・2017・2016・2012・2010・2009)、民放連 最優秀賞(2019・2018・2017・2016・2015・2014・2012)など。

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Written by 内藤貴志
Photo by 合田和弘
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撮影協力 by シアターギルド代官山®︎
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