ECツールの ビッグコマース 、上場書類から分かったこと:「適切なマーケティングチャネルがない」

ソフトバンク(Softbank)が出資しているECプラットフォームのビッグコマース(BigCommerce)は、競争の厳しいEC業界のなかで、ショッピファイ(Shopify)らに対する競争力を高めようと取り組んでいる。

ビッグコマースは7月第3週のはじめ、新規株式公開に向けて米証券取引委員会に証券登録届出書(S-1)を提出した。これにより同社の事業内容がより詳細に分かるようになった。2009年以降、ビッグコマースはウールリッチ(Woolrich)やキャメルバック(Camelbak)、クラークス(Clarks)、ジレット(Gillette)といったクライアント向けにデジタルコマースのサービスを提供してきた。届出書には、同社は120カ国、6万以上のオンラインストアを支援していると書かれている。

ビッグコマースもショッピファイも出来たばかりの企業ではないが、ここ2カ月でEC企業として得られるものは大きかった。たとえば調査会社のeマーケター(eMarketer)によれば、米国では今年のEC支出が18%増加しており、これは昨年の同14.9%を上回る。そんな状況下で、プラットフォームとして拡大するため各社の積極的な取り組みが続いている。

本稿では、今回の届出書から見えてきたビッグコマースの事業内容についてご紹介しよう。

ECの波に乗る

ビッグコマースの2019年度の収益は1億1210万ドル(約120億円)で、これは前年度より22%増だった。2020年度の第1四半期の収益は3320万ドル(約35億5000万円)で、同30%増となっている。なお、ショッピファイの第1四半期収益は4億7000万ドル(約503億円)で、同47%増だった。

一方、ビッグコマースは2019年に4260万ドル(約45億6000万円)の純損失を報告している。2020年度の第1四半期の損失は400万ドル(約4億3000万円)で、前年同期では1050万ドル(約11億2000万円)だった。ショッピファイでは、第1四半期の純損失は3140万ドル(約33億6000万円)となっている。

ビッグコマースは届出書のなかで、第1四半期のあとにさらに収益の伸びが加速したと報告している。届出書には「2020年3月からエッセンシャルプランの新規売上が大幅に増加し、3月、4月、5月の売上は前年比で33、106、86%増となった」と記載されている。同社のエンタープライズプランの5月の売上は、前年比で60%増となった。

D2Cブームに乗る

いま、ビッグコマースなどのプラットフォームに勢いがあることに疑いの余地はない。届出書のなかで同社はeマーケターとフォレスター・リサーチ(Forrester Research)のレポートを引用しつつ、ECの伸びやD2Cブランドの台頭を指摘している。

同書には「これまで消費者向けブランドの商品の流通は小売企業が必須だったが、ECではデジタルネイティブブランドが垂直統合型の直販モデルが実現した」と書かれている。

このようにD2Cについて述べている同社だが、これまでD2Cのクライアントはあまり多くなかった。2PMの創業者ウェブ・スミス氏は「従来のEC企業は、裏方に徹することが多かった」と指摘する。「たとえばアドビ(Adobe)やセールスフォース(Salesforce)も長年この手法をとってきた」。これまで10年以上にわたり、ブランドとしてではなく裏方のプラットフォームとしてのSaaS戦略が主流だった。

だが、いまでは、中小デジタルブランドをメインターゲットとして、ともに成長するショッピファイのような企業も登場した。ショッピファイは、Appleの戦略にならってパートナー企業と独自のエコシステムを構築している。「これが成功モデルとして認識されはじめている」と、スミス氏は語る。ショッピファイの手法を目の当たりにしたクライアントや開発者のなかには、そのやり方の信奉者になった者もいる。一方、同氏はビッグコマースが「大手ばかりで、中小ブランドは相手にしてこなかった」とも述べている。

世界規模での成長を目指す

米国のECプラットフォームはいま、国際展開に取り組んでいるところが多い。ショッピファイもまた着実に他国でローンチを進め、いまや175カ国に展開している。ビッグコマースも同様に、120カ国でサービスを提供している。

同社は国際市場の秘める大きなポテンシャルについて述べている。同社は届出書のなかで「6月24日時点で、当社の店舗の25%は米国を除く市場にある」と述べており、「ビルトウィズ(BuiltWith)によれば1月7日時点でECウェブサイトの約58%は米国外にある」と記載している。このことからも、国際市場で成長できるプラットフォームほど競争力を発揮しやすいことが分かる。

「オープン」なプラットフォーム

ビッグコマースはこれまで柔軟性を強みとしてきた。すぐにローンチできることよりも、アップデートを続けるオープンなツールキットを使って、クライアントがカスタマイズできるソリューションを重視してきた。同社は届出書のなかで、この長年に渡る戦略について「どの企業も独自性があり、大企業はカスタマイズ必須な要件があることが大半だ。当社の商品戦略は『オープンSaaS』を重視している」と述べている。

実際、アドビやセールスフォースといった大手企業のあいだではこの戦略が好評を博している。ビッグコマースにとって、この点が競争優位性といえるだろう。オープンプラットフォームでは、時代遅れになった技術を捨てて、新しいソリューションとともに成長することができる。同書では、「当社のプラットフォームはフォーブス・グローバル2000のうち30社以上が利用しており、各分野のリーディングカンパニーのクライアントがますます増えている。これはこのプラットフォームが、従来のソフトウェアよりも成長や進化に順応しやすいためだ」と書かれている。だが、同時に使いこなすのには時間と技術、マンパワーが必要で、中小企業にとっては大きなハードルとなる場合も多い。この点からも、ビッグコマースとショッピファイは商品面とブランディング面において差別化されているのだ。

大企業向けのマーケティング

ビッグコマースは、成長戦略のなかで企業収益を重視してきた。同社はフラッグシップ商品のエンタープライズプランについて「収益、マーケティング、エージェンシーとの提携、プロフェッショナルサービスチームが中規模から大規模企業のニーズに合わせたソリューションを提供する」としている。同社は中小企業についても言及したものの、「中小企業の7割以上はセルフサービスモデルを利用しており、売上には貢献していない」としている。

だが、ビッグコマースが企業クライアントを重視していることに疑いの余地はない。同書には「当社のエンタープライズプランはオンラインで年に5000万ドル(約54億円)以上を売り上げる大手企業サイトとの競争においても優位性を示している」と記載されている。

「ビッグコマースの一番の課題は、適切なマーケティングチャネルの欠如だ」と、スミス氏は語る。これは同社のマーケティング費用を見れば明らかだ。2019年、ビッグコマースは売上総利益の71%を販売とマーケティングにあてた。一方、ショッピファイがこれまでかけてきた費用は総利益の50から60%だ。

いまやEC業界の競争は激しくなる一方で、ビッグコマースはIPOによって資金調達を行い、より盤石な立ち位置を確保する狙いがある。だが、そのためには適切なプロセスが必要となる。ビッグコマースは届出書のなかで規模の大小を問わずブランドの知名度向上を目指すとしているが、これは容易ではない。

スミス氏は、こう指摘する。「ビッグコマースは自分たちを純粋なSaaS企業のようにマーケティングしており、逆にSaaS企業は自分たちをブランドのようにマーケティングしている」。

[原文:‘A lack of marketing flywheel’ BigCommerce’s S-1, annotated

Cale Guthrie Weissman(翻訳:SI Japan、編集:長田真)