買い物ができるビデオ「ショッパブルビデオ(Shoppable Video)」は、2010年代初頭からいろいろな形で存在してきた。ブランドにとっての魅力は明らかだ。オーディエンスが「いいな」と思った瞬間から実際にクリック購入するまでの時間を短縮できる。今回はその試みに果敢に挑戦しているブランドを紹介する。
買い物ができるビデオこと「ショッパブルビデオ(Shoppable Video)」は、2010年代初頭からいろいろな形で存在してきた。ブランドにとっての魅力は明らかだ。プロダクトを見たオーディエンスが、「いいな」と思った瞬間から実際にクリック購入するまでの時間を短縮できることである。
最近ではテクノロジーがさらに発達し、企業もさらに投資をするようになり、ショッパブルコンテンツは、これまで以上に高度なものへと進化しつつある。プラットフォームも強く興味を示しており、YouTubeでも「クリック購入」機能が実装され、Facebookもショッパブルビデオ広告の可能性を探っているというウワサだ。
しかし、簡単ではない。Pinterest(ピンタレスト)の画像上に購入ボタンを付けた初期の実験はあまり上手くいったとはいえなかったと、業界では認知されている。今回はショッパブルの試みに果敢に挑戦しているファッションブランドを紹介する。
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テッド・ベイカー(Ted Baker)
イギリスのファッションブランドであるテッド・ベイカー(Ted Baker)は3分間のショッパブルムービーをセルフリッジズ(Selfridges: 英百貨店チェーン)やノードストローム(Nordstrom: 米百貨店チェーン)と並んで、Webサイトで公開した。
テッド・ベイカーのブランドコミュニケーションディレクターであるクレイグ・マッキノン・スミス氏は「直近のいくつかのシーズンにおける取り組みへの様子を見ていると、カスタマーは動画コンテンツを使って商業スペースへと飛び込むことに、以前よりも好意的になってきているようだ」という。
テッド・ベイカーのテイストは風変わりな雰囲気で知られているが、今回のスパイ映画風の動画も同様だ。「ミッション・インペカブル(Mission Impeccable:まったく抜かりのないミッション)」と題されたこのビデオでは、ブランドの新しいコレクションに身を包んだキャストたちが、「ザ・ニードル」という名の悪役がファッション界を乗っ取ってしまう計画を阻止すべく、走り回る様子を描いた。
ビデオ内では、ビューワーは各登場人物の上の「プラス(plus)」というアイコンをクリックすることでページ下にスタイルを保存していくことができる。そうすることで登場人物が着ていたアイテムを確認でき、気に入ったものがあれば買い物カゴに入れられる仕様だ。個々のアイテムではなく、まず登場人物を選ばせることで、品切れのアイテムがあった場合もユーザーを逃さないような仕組みもある。ひとりの登場人物につき、チェックできるアイテムは複数紹介されるからだ。
マッキノン・スミス氏によると、映画の物語とプロダクトのバランスを保つことが重要だったという。片方だけに偏っていてはいけないのだ。「100%成功しているかどうかは分からないけれど、美的なビジュアルの豊かさ、物語に底流しているトーン、そしてショッパブル機能のバランスを良く達成できた。これは良い土台となる」と語る。
このキャンペーンビデオは、370万回のビュー数をYouTube上で獲得(※現在、テッド・ベイカーのYouTubeビデオ上では購入アイコンは表示されていない)。マッキノン・スミス氏は、ここまでの反応は「ポジティブなもの」だと語った。
ディーゼル(Diesel)
日本での30週年を祝うため、ディーゼルはショッパブルビデオ(リンク先が動画)を制作し、東京でのFW16ランウェイショーに先駆けて公開した。映画風の短編動画は「ロードトゥトーキョー(Road to Tokyo)」というタイトルが冠された。監督は数々のファッション映画やコマーシャル制作で知られているアレキサンダー・ターヴェイ氏。音がなく音楽だけであるという点では、これまでのファッション映画と似ているが、今回は東京のランウェイショーに準備するディーゼルのモデルたちを追いかける形の内容となった。
テッド・ベイカーのビデオと同じように、動画のなかでアイコンがモデルのうえに登場する。それをクリックするとモデルが着ているアイテムを表示してくれる。ユーザーは「自分用ルックブック(カタログ)」にそれらのアイテムを保存していくこともできるし、そのままリンクをクリックしてディーゼルストアに飛び、すぐに購入することも可能だ。
「#forsuccessfulliving(成功した生活をおくるため)」キャンペーンの一環であるこのビデオ、ランウェイショーに先駆けて公開されたという点で通常とは異なっている。ユーザーはプレスやショー参加者よりも先にコレクションの一部を覗いて購入することができるのだ。これはニューヨークファッションウィークで多用されたトレンドである。
東京ディーゼルスタイルにようこそ。ストーリ全部を楽しむためにバイオ部分をクリックしてください。
ビデオはディーゼルのインスタグラムといったソーシャルチャンネルでも予告編が流された。インスタグラムでは1万7000回も再生されている。
マッチズ・ファッション(Matches Fashion)
派手なキャンペーン動画を作るのではなく、マッチズ・ファッションは自社サイト用にプラットフォーム「シネマティーク(Cinematique)」を活用した「触れるビデオ(Touchable Video)」を制作してきた。そこではいくつかのフォーマットを実験的に試してきている。そのひとつが「デジタルトランクショー」である。ブランドの独占コレクションをシェアしたり、各アイテムのインスピレーションなどが語られたりしている。ビデオを見ているユーザーがアイテムをクリックすると自動的にそれが買い物カゴに追加されることになる。ビデオを一旦停止したり、別のサイトページに飛ぶ必要はない。
「ブランドやリテーラーはビューワーにプロダクトを当然買ってもらいたいと思っている。それを達成するためには、(ビデオを見るという)経験を途切れさせることなく、ユーザーのペースでプロダクトを吟味できるようにすることが、もっとも効果的である」とシネマティークの共同創業者であるカイル・ヘラー氏は述べる。
MATCHESFASHION.COM Womanさん(@matchesfashion)が投稿した動画 –
ついに到着! #MFxJWANDERSONは#MATCHESFASHIONで生放送中。@JW_ANDERSONの#PIERCE BAGの#独占リリースをここで購入できる。ファッション特集エディターであるジェーン・マクファーランドのインタビューを読むこともできる。#TheStyleReportの撮影を覗こう。バイオのなかのリンクをクリックしてね。
これまでマッチズがこのシリーズで取り上げてきたデザイナーたちは、J.W.アンダーソン、ジョセフ・アルチュザラ、エミリア・ウィックステッドなどだ。VIPアクセス以外では、マッチズはツイッターでのQ&Aといったほかのプラットフォーム上での企画もプロモートしている。
「ビジネスへの架け橋を作るにはもっと多くのビデオを作り、多くの情報、より詳細なストーリー性が役に立つ。そうすればビューワーも常に何かを売りつけられているという感覚がなくなるはずだ」と、ヘラー氏は付け加えた。
バーバリー(Burberry)
トレンチコートで有名なバーバリーも、長らくショッパブルビデオを試験的に試してきたブランドのひとつだ。
2012年6月、バーバリーはミュージシャンであるルー・ペインズ(Roo Panes)と4部からなるショッパブルビデオを制作した。バーバリーの3つのコレクションのアウターウェアやアクセサリーなどのアイテムを直接、そのキャンペーンビデオから購入することができた。しかし、いまとなってはそれはオンライン上から消えてしまっている。
今年に入り、バーバリーはそのフォーマットに新しい命を吹き込もうとしている。プラットフォームはなんとAppleTVだ。「見てすぐに購入できる」アプリとしてリリースされる。
「ビデオは、1950年代から基本的に同じフォーマットに留まっている。なので、そこまで固まってしまって確立されているものを変えるのは、いつも困難が伴う」と、シネマティークのヘラー氏は語る。
ランウェイでモデルたちが披露するアイテムを見ているユーザーたちは、バーバリーのカスタマーサービスを経由してリクエスト申請できる、そして、ショーでまさに披露されているプロダクトを、その場でプレオーダーできるという。2016年9月からバーバリーのすべてのコレクションが、シーズンごとのショーの直後からオーダーが可能になるそうだ。
Grace Caffyn(原文 / 訳:塚本 紺)