人工知能の台頭、消費者のパターンの変化、労働文化の変化、そして景気後退のきざし——。
Covid-19による不安から解放されたと感じる間もなく、小売業者には新たな困難が待ち受けている。
小売業者は、マクロ経済の要因に対して買い物客がどのように反応するかをコントロールすることはできないが、自社の小売戦略については、少しは主導権を握ることができる。それでも、特に人材確保や運営に関してさまざまな課題が残っており、小売業者は機械学習、リモートワークやハイブリッドワーク、社内外のコミュニケーションについて、自らのスタンスを決定しなければならない。
それぞれの事業には独自の行動方針が必要だが、バックエンドでいくつかの変更を行うと、フロントエンドでの生産性、リーチ、収益性に好影響をもたらす可能性がある。5人の小売企業幹部がこれらのトピックにどのように取り組んでいるかについて、ニューヨーク市で開催されたザ・リード・イノベーション・サミット(The Lead Innovation Summit)で共有された見識に基づいて紹介する。
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
人工知能の台頭、消費者のパターンの変化、労働文化の変化、そして景気後退のきざし——。
Covid-19による不安から解放されたと感じる間もなく、小売企業には新たな困難が待ち受けている。
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小売企業は、マクロ経済の要因に対して買い物客がどのように反応するかをコントロールすることはできないが、自社の小売戦略については、少しは主導権を握ることができる。それでも、特に人材確保や運営に関してさまざまな課題が残っており、小売企業は機械学習、リモートワークやハイブリッドワーク、社内外のコミュニケーションについて、自らのスタンスを決定しなければならない。
それぞれの事業には独自の行動方針が必要だが、バックエンドでいくつかの変更を行うとフロントエンドでの生産性、リーチ、収益性に好影響をもたらす可能性がある。5人の小売企業幹部がこれらのトピックにどのように取り組んでいるかについて、ニューヨーク市で開催されたザ・リード・イノベーション・サミット(The Lead Innovation Summit)で共有された見識に基づいて紹介する。
KPI(重要業績評価指標)の切り替えを恐れないこと
事業の健全性を表す重要な指標だとして小売企業が主張する新しい略語は、毎年のように生まれている。企業ごとに、プロジェクトごとに異なるものの、これには通常、CAC(顧客獲得コスト)、LTV(顧客生涯価値)、ROI(投資回収率)などの数値が含まれている。
ひとつの測定値に固執したり、細部にとらわれて全体を見逃したりしないようにすることが重要だと消費材メーカーのコルゲート・パーモリーブ(Colgate-Palmolive)でカスタマーエクスペリエンスおよび成長担当のバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーを務めるダイアン・ハウスリング氏は語る。「行うべき作業が非常に複雑なので、ひとつのKPIだけ見ていれば、おそらくほかの10のものを見落とすだろう」と同氏は説明した。
解決策のひとつは、長期的なKPIと短期的なKPIをすべて調べることだが、具体的にどのようなKPIかは小売企業ごとに異なると同氏は強調する。「多くの人が陥る落とし穴は、長期的な指標に集中しすぎるか、短期的な指標を無視してしまうことなので、双方のバランスを取りながら比較検討する必要があると同氏は述べた。
また同氏は、ブランドごとにKPIが異なる可能性があるとも指摘する。消費財製造・販売のコルゲート・パーモリーブはアジャックス(Ajax)、アイリッシュスプリング(Irish Spring)、ソフトソープ(Softsoap)など30以上のブランドを保有している。そのうち、コルゲート(Colgate)などは世間に広く受け入れられている一方で、トムズオブメイン(Tom’s of Maine)など特定の原材料を求めている顧客に訴求するものもある。双方のブランドはそれぞれ異なる層の消費者にアピールしているため、成功の尺度も異なるだろう。そのため、「KPIは多少動的なものとして考える必要がある」と同氏は語る。
たとえばハロー(Hello)は、コルゲート・パーモリーブが2020年に買収した、新興のオーラルケアブランドだ。「ハローを成長させるために下す決断のなかには、短期的に効果が見られないものもあるかもしれない。しかし、このブランド自体のデザイン、品質、体験は、長期的な観点から見て、当社の成長に必要なものを備えているとわかっている」とハウスリング氏は話した。
KPIを規定したら、事業全体のチームにそれらの測定値を周知することが重要だとカミュートグループ(Camuto Group)でeコマースおよびデジタルマーケティング担当のバイスプレジデントを務めるステファニー・アーバン氏は語る。特にクリエイティブチームの場合、「なぜこのような仕事をしているかを把握できる」という。
「忙しいプロモーションの時期や大きなキャンペーンの立ち上げで、従業員がたくさんの仕事をこなし、夜遅くまで勤務しているときに、チームを訪問し、期間内でもっとも成績が良かったメールや、Facebookで最高の成果を出した広告について説明して、一緒に成功を祝えば、共同作業をより協力して進めるのに大きな助けになるだろう」とアーバン氏は付け加えている。
コンテンツ作成戦略を一貫したものにする
多くの小売企業、なかでも小規模や新興の企業は、マーケティングキャンペーンのルック&フィールをより効率的にするために、クリエイティブチームを社内に置く。ビタミンとサプリメントのブランドとして2016年にオンラインで発足したリチュアル(Ritual)もまたこのような企業のひとつだ。リチュアルはその後、ターゲット(Target)や、ホールフーズ(Whole Foods)などの小売店でも販売されるようになった。
リチュアルの事業モデルは、原材料のトレーサビリティと透明性に依存していると、CEOで創設者のカテリーナ・シュナイダー氏は語る。同氏によると、リチュアルはクリエイティブと製造のプロセスでも同様のアプローチを導入していると語った。独自の技術スタックを構築し、20人の科学者を従業員として雇い、社内のコンテンツスタジオを運営している。同社は自社のオーディエンスインサイトを収集し(同社は4月に、女性が妊活中に、ブランドに話を聞いてもらえたり自分の存在を認めてもらえたりしたと感じた割合はわずか4%であることを発見した)、その情報を自社のクリエイティブな決定に活かしている。この夏には、最初のCTV広告をローンチする。
「当社が成功したのは、これらの人々すべてをひとつにまとめたからだと思う。よくある失敗は、これらの要素の多くを外注してしまうことだ。そうすると、すべてのメールや、コミュニティとの対話のなかで一貫性を保つことはできなくなってしまう」とシュナイダー氏は述べている。
アスレチックブリューイングコーポレーション(Athletic Brewing Co.)は2022年末の時点で米国におけるノンアルコールクラフトビールの売上の半分近くを占める新興企業だが、クリエイティブとコミュニティ形成のほとんどを社内で行っていると最高マーケティング責任者を務めるアンドリュー・カッツ氏は述べる。同ブランドはスポーツを中心としたマーケティング活動に加えて、TVや屋外広告のようなメインストリームのチャネルも使用している。「責任を押し付けるのは簡単なことだ。私は多くの大企業で働いてきて実際に見てきたが、仕事を自分でやって結果の責任も負う方がはるかに楽しいことだ」と同氏は述べた。
一方、複合企業や非常に大規模な企業で、いくつもの部門にわかれた商品が数多く存在する場合、代理店を使用する方が効果的で、時間を節約できる場合もある。しかし、小売企業はこのような代理店を必ず自社の延長として扱う必要があるとカミュートグループのアーバン氏は強調した。
「これは不可欠なことだ。代理店の人々と良好な関係を築けなければ、代理店はあなたのために働こうとは思わないだろう。そのため、可能なら実際に会うようにし、可能なら飲みに行って、できるだけ多くのことを共有し、自社のビジネスを理解してもらうことだ」と同氏は説明した。
Z世代の共感を得たければ雇用せよ
現在、小売企業は、Z世代の注目(とそのお金)を欲しがっている。ジェンジープラネット(Gen Z Planet)によると、2021年にこの年齢層の買い物客は約3600億ドル(約50兆4000億円)を支出している。小売企業は、それがオンラインであれ、店舗やメタバースであれ、買い物客が時間を費やす場所であればどこにでも進出しようと急いでいる。
しかし、商品やプロモーション戦略をZ世代に合わせるだけでは十分ではない。小売企業はZ世代にも職務を与えるようにすべきだと経営幹部らは強調する。実際、最近の調査によると、Z世代とミレニアル世代は全世界の労働力の約38%を占めている。この割合は、2030年には58%に増加すると予測される。
たとえばパックサン(PacSun)は、Z世代に属する店員を5000人ほど雇用している。「毎日このすばらしい人材に刺激を受けられるのはすばらしいことだ。当ブランドの従業員は最高の顧客でもあり、当社をさらに進歩させる多くのアイデアをもっていると私は常に語っている。Z世代は驚くほどクリエイティブで革新的だ。これは大きな財産だと思う」とパックサンのプレジデント兼CEOを務めるブリアーン・オルソン氏は語った。
決定的な点として、Z世代の従業員は、ミッションベースの観点から、Z世代の顧客が望むものを知っているとオルソン氏は付け加えた。これらの層は本物らしさがあり、特定の価値感に立ち、企業責任の度合いを理解しているブランドから買い求めることを望んでいる。
「Z世代は、バランス、自分たちに重要なもの、コミュニティの一員であること多様性と包含性について何を求めるか、という点で、異なる基準を持っている。彼らは、人々や、人々との関係を重視するブランド、価値あるブランドの一部になりたがっている」とオルソン氏は述べた。
[原文:3 operational changes that retail executives recommend to improve reach and productivity]
Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)