米ビジネス調査企業のL2が4月13日にニューヨークで会合を開き、Amazonの勢いに対抗しようと考えているファッションブランドが集まった。ここで議論されたのは、ブランドはAmazonのもつ力を自社の利益のために活用できるし、Amazonに直接対抗することもできるということだ。その考察ポイントを3つにまとめた。
ブランドのオンラインパフォーマンスを追跡しているビジネスインテリジェンスプラットフォームのL2が、4月13日(米国時間)にニューヨークで会合を開いた。集まったのは、台頭著しいAmazonに対抗しようと(あるいは、どうにかうまくやっていこうと)考えているファッションブランドだ。
Amazonが最近大きな話題となっているのには、それなりの理由がある。同社は2010年以来、総売上が640億ドル(約7兆円)増加した。さらに、米国人の52%が現在、Amazonプライムを利用している。これを比較すると、毎月教会に行くアメリカ人の割合は51%、固定電話をもっているアメリカ人の割合は49%だと、L2は指摘している。
Amazonがファッション業界への進出を狙っているという話に疑いをもつ人は多い。また、そうしたところでうまくいくかどうかは不明だ。それでも、Amazonはすでにこの業界に宣戦布告をしたも同然だと、L2の創設者スコット・ギャロウェイ氏は確信している。「Amazonは、消費者やテクノロジーを味方につけてブランドを破壊してきた」と、ギャロウェイ氏は語った。この発言は、Amazonの低価格戦略や、Amazonが活用している高度なアルゴリズムが消費者に受け入れられていることを示唆するものだ。
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だがブランドは、Amazonのもつ力を自社の利益のために活用することもできるし、Amazonに直接対抗することもできる。この点について、3つのポイントをまとめて考察した。
1. Alexaを味方にする
音声起動プラットフォームの人気が高まっている。エージェンシーのレイン(Rain)で戦略担当ディレクターを務めるグレッグ・ヘッジ氏は、この市場のユーザー数は、2015年の3億9000万人から、2021年には18億3000万人に増加すると予測。この来たるパラダイムシフトを「Age of the Ask(声で尋ねる時代)」とさえ呼んでいる。
Amazonは現在、 Alexa(アレクサ)のおかげで音声起動プラットフォーム分野で先行者利益を享受し、利用者や購入者、そしてリーチを拡大している。Alexaは、同社の音声アシストデバイスのEcho(エコー)シリーズに搭載された音声認識機能だ。L2では、Amazonがこの市場を今後も支配し続けると見ている。
したがって、ブランドがAlexa用のスキルやアクション(音声版アプリ)を開発せず、音声市場への参入に必要な取り組みをしない場合、Amazon自身がそのツールを使って、誰もが知っている多くのブランドを根絶やしにしてしまうだろう。

AmazonのEcho Dotでは、音声起動が可能なAlexaを利用できる
L2が指摘しているように、Amazonはすでに、消費者へWebサイトよりもAlexaを使って買い物をするように働きかけている。同社が音声経由で購入できる商品のディスカウントを拡大しているのは、このためだ。Alexa経由で買い物をしてもらえば、ほかのブランドの商品がユーザーの目に入ることがないため、Amazonは自社のオススメ商品をプッシュしやすくなる。
「彼らは少しずつ、ユーザーの好みをコントロールするようになるはずだ。そうすれば、Amazonがもっとも多くマージンを取れる商品やAmazonのプライベートブランドを、ユーザーの好みの商品にすることができる」と、ギャロウェイ氏は示唆する。
ブランドがこの状況に少しでも対抗しようとするなら、前述のスキルやアクションを開発する必要がある。Amazonのサイト経由で購入するのと同じくらい手軽に、ブランドの商品をAlexa経由で購入できるようにならなければならない。たとえば、ECサイトのエバーレーン(Everlane)が、すべてのベストセラー商品をAlexaで購入できるスキルを開発すれば、Amazonのオススメ商品だけでなく自社の人気Tシャツやローファーに消費者を誘導できるようになる。
ただし、ヘッジ氏は警告する。「音声認識機能は、キャンペーンや単発の企画ではなく、ひとつのプロダクトとして考えるべきだ」という。「Alexaは代理人に過ぎず、Alexaがブランドメッセージまで届けられるかは確かめる余地がない」。
2. そもそもAmazonが得意としないブランドもいる
コーウェン・アンド・カンパニー(Cowen and Company)のシニアリテールアナリスト、オリバー・チェン氏は、Amazonの支配を受けにくい小売ブランドもあると考える。これに当てはまるのが、ティファニー(Tiffany & Co)など、感情に訴える商品やショッピング体験を提供しているブランドだ。また、愛する人に結婚指輪を送るときに選ばれるようなブランドも含まれる。

エルメスのようなブランドは、比較的リスクが少ない Photo by HERMES <33
エルメスやルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)といった伝統ある高級ブランドも、絶大な力をもつAmazonに対抗できる力をもっている。こうしたブランド商品の購入の決め手となる要素に「信用」と「クラフトマンシップ(職人の技)」があるからだ。このどちらも、Amazonにはないものだ(ただし、偽造品の問題はいまも続いている)。また、そのような高級品で一定レベルのブランドコントロールも必要になるが、そうしたブランドコントロールは「Amazonでは、ほとんど不可能だ」と語るのは、かなり前からAmazonサイトで宝飾品を販売しているアレックス・アンド・アニ(Alex and Ani)の元CMO、ライアン・ボニファシーノ氏だ。
体験やサービスを提供するような製品を販売している企業も、Amazonに対抗するうえで有利な立場にいる。たとえば、カスタムメイドのデニムを販売するスリーバイワン(3×1)や、ブロー専門ヘアサロンで関連製品の販売も出がけるドライバー(Drybar)といったブランドだ。
3. 生活必需品を限定的に販売
ブランドがAmazonと提携することを決めた場合は、提供する製品を、そのブランドの生活必需品的なものに限定することが重要だと、L2で最高戦略責任者を務めるモーリーン・マレン氏はいう。紅茶や下着などの生活必需品はAmazonでよく売れている製品だ。したがって、同じ市場で競うなら、ブランドも同じやり方を検討する必要がある。「こうしたカテゴリーで、5~10個の製品を含むセット商品に集中すべきだ」とマレン氏。また、ライセンス商品は特にうまくいく可能性があるという。

Amazonの稼ぎ頭は生活必需品だ
さらに、こうした販売商品を絞ることによって、ブランドは自社のイメージをある程度コントロールできるし、消費者を自社のeコマースプラットフォームに呼び込むことも可能になる。
マレン氏はまた、ブランドが扱ったことのない製品セグメントでAmazonを利用することも可能だと指摘する。たとえば、標準より大きめのサイズや小さめのサイズの製品だ。リーチするのが難しいこうした特徴のある消費者は、Amazonで普段からショッピングをしている。そのため、わざわざ時間とお金をつぎ込んで彼らを追いかけるくらいなら、Amazonを使った方がはるかに簡単にリーチできるとのことだ。
Jessica Schiffer(原文 / 訳:ガリレオ)
Image by GettyImage