パンデミックに対応した多くのブランド同様、アドビは即座に主要年次カンファレンスを対面型から完全なバーチャルへと変更した。同社CMO、アン・ルネス氏は2022年の通常の生活がどうなるかまだわからないため、バーチャル空間での実験を続けるだろうと述べた。米DIGIDAYはルネス氏と今後の展開について議論した。
米国では、新型コロナワクチンの接種が加速し、パンデミックのトンネルに出口の光が見え始めている。ブランドやエージェンシーのなかには、この秋から対面式イベントにデジタル要素を組み合わせたハイブリッドモデルではあるが、対面型イベントの企画に戻り始めたところがある。だが、対面型イベントに正式にコミットするのをまだためらうマーケターは多い。
パンデミックに対応した多くのブランド同様、アドビ(Adobe)は即座に(アドビ・マックスやアドビ・サミットのような)主要年次カンファレンスを対面型から完全なバーチャルへと変更した。アドビのCMO、アン・ルネス氏は将来に目を向け、2022年の通常の生活がどうなるかまだわからないため、同社はバーチャル空間での実験を続けるだろうと述べた。米DIGIDAYはルネス氏と、バーチャルイベントを開催することでアドビが学んだことや、今後の展開について議論した。
このインタビューは読みやすさのため、若干の編集を加えてある。
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──世界でまだパンデミックは続いているが、アドビは2度目のアドビ・サミットをバーチャルで開催したばかりだ。感想は? 経験から得た教訓は?
正直なところ、これまでで最高のサミットだったと思う。これは、パンデミックの発生とは対極にあることは分かっている。そのメリットのひとつは、事前にできる準備が圧倒的に多いということで、実際多くのビデオコンテンツを事前に録画し、編集することができた。
そして次に規模だ。より多くの人々にコンテンツを見てもらうことができる、ラスベガスのホテルのボールルームには2万人の参加者を詰め込める。だが、オンラインイベントでは、コンテンツが最高であれば、何十万、いや、何百万人を集めることさえできる。非常に多くの人々が事前登録してくれた。これはすばらしいことだ。何百万もの人がすべての動画を視聴し、視聴数は2000万に達したが、これは異常とも言うべきことだ。規模の大きさ、準備のしやすさ、追加のアジェンダに対応できることや、より多くの人々により多くのコンテンツを見てもらえることがメリットだ。
──対面型イベントのほうがよかったと思うことは?
バーチャルイベントに欠けているものは、もちろん仲間や同僚、ネットワーク、特にビジネス対ビジネスの親密な交流だ。大きな取引を行う際には顧客との関係が非常に重要になるため、顧客とのミーティングは本当に重要だ。我々は皆、それを逃している。ライブイベントをおこなってこそ、エネルギーとダイナミックな感覚を得ることができる。
──パンデミックが始まった2020年3月に、イベントの完全なデジタル化に取り組んだ背景には、どのような戦略があったのか? チームはメッセージングについてどうアプローチしたか?
狂気じみていた。2020年3月11日のことだ。世界中でオフィスを閉鎖すると決定し、全社員にステイホームしてもらうためには、想像以上に並々ならぬコミュニケーションの努力が必要だった。オフィスを閉鎖する数日前に、「イベントは開催できないだろう」という電子メールを送った。それから、あらゆるコンテンツを制作しなければならなかった。猛烈な勢いで作業した。基調講演者には動画制作用の機材を送り、より質の高いコンテンツを作ることにした。
当時我々は、人々が(バーチャルカンファレンスのコンテンツを)どのように見るかという点で、イベントのベースとなる基準を設定し、手探りで作り上げていった。とはいえ、当時といまを比べれば、やり方を理解している分、(バーチャルカンファレンスの開催の仕方は)何倍もうまくなっている。
(昨年は)皆が失望していて、「ああ、がっかりだ」というソーシャルメディアでの投稿はあったが、「何をやっているんだ? このイベントはおかしい」と言う人はいなかった。旅行をしたくないと誰もが思い始めており、イベントがリアルではない理由についてはみんなが理解してくれた。2万人が集まるラスベガスのホテルのボールルームに行きたいと誰が思う? パンデミックのさなかに一番行ってはいけない場所だ。
──パンデミックはまだ継続していて、ワクチン接種が開始されたとしても、今年もデジタルイベントを継続することになるだろう。2021年と2022年のアドビのイベントはどんなかたちになりそうか?
2022年についてはまだわからない。2022年初めまでに、人々はいまより安心できるようになるだろうか? 注意することはまだたくさん残ると思う。ちょっとした旅行でどこかに行くのと、とても混雑したビジネスイベントに行くのとでは、まったく意味合いが違う。旅行が盛んになり、夏季休暇の計画を立て始めている人もいるが、それは広い会場で大勢の人々と顔と顔を突き合わせたいことを意味するわけではない。そうしたこともあり、2021年後半には大きな計画はない。
──規模や企画の面で、デジタルファーストのイベントにはさまざまなメリットがあるが、なぜこれまで業界がもっとやらなかったと思うか?
信じてくれるかどうかわからないが、(バーチャルイベントの開催は)安上がりではないし、簡単でもない。それがデジタルの誤った考えだ。多くのデジタルイベントが開催されており、目玉となる企画をめぐる競争が激しく、素晴らしいコンテンツを作らなければならない。
我々は以前、オンラインで登録して視聴できるライブストリーミングイベントを試したことがある。基本的に、サミットの基調講演として放送された内容がそのまま動画になったようなもので、それ以外のセッションには一切アクセスできなかった。アーカイブされた動画も含めて多くの人が視聴したものの、内容はワンパターンで完成度は信じられないほど低かった。時間とコストをかけて我々が今おこなっているバーチャルイベントと比べてはるかに魅力に欠けるものだった。
──プロセスを合理化し、使えるツールも増えた。今後のイベントはどうなると思うか?
オンラインイベントはなくならないだろう。パンデミックが終息しても、イベントのやり方の大きな部分を占めることになるだろうと、人々は気づいている。とはいえ、いつかは人々とともに参加したいと思っている。私は人々に会いたいのだ。
KIMEKO MCCOY(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島 翔平)