さまざまな危機が続き、人々の生活や仕事のあらゆる側面に影響を及ぼしているこの半年間に、マーケティングのパラダイムシフトが起こりつつある。マーケティング責任者らが述べているように、暫定的に実施された変更の多くが今後も継続されるだろう。そうしたパラダイムシフトのなかでも、もっとも大きな3つについて解説する。
コロナ危機が発生したばかりの半年前、マーケターやエージェンシー幹部は、数週間も自宅で仕事をすればオフィスに戻れるようになり、生活も仕事もある程度元どおりになると予想していた。だが、そうならなかったことは明らかだ。企業の幹部らは、すでに新しい仕事のやり方を作り上げ、しかも以前よりすばやく低コストで仕事を進める方法を見つけ出した。つまり、ニューノーマルが生まれたのだ。
さまざまな危機が続き、人々の生活や仕事のあらゆる側面に影響を及ぼしているこの半年間に、マーケティングのパラダイムシフトが起こりつつある。マーケティング責任者らが述べているように、暫定的に実施された変更の多くが今後も継続されるだろう。
本記事では、そうしたパラダイムシフトのなかでも、もっとも大きな3つについて解説する。
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1. 緊急時のための緊急時対策プラン
マーケティング責任者らに仕事がどのように変化しているのか尋ねれば、新たな危機に備えて予備のプランが必要になったというような話が聞かれるはずだ。そのようなプランを準備しておくことが、マーケターやエージェンシー幹部らのニューノーマルになっている。「2020年は、緊急時対策プランに取り組む年だ」と、あるメディアエージェンシー幹部は語った。「そのための準備をしっかり行わなければならない。私が社内外で話をしたソーシャルチームの人たちはみな、プランA、プランB、そしてプランCの作成に取り組んでいる」。
さまざまなシナリオに対応したプランが必要だという話は、もちろん今に始まったことではない。だが、プランを作成すべきシナリオの種類が大きく増え、しかもすぐにプランを実行に移せる能力が求められるようになったのは初めてのことだ。そして、このような状況はメディアプランニングとクリエイティブ制作の両方に影響を及ぼす。たとえば、米国のマーケターは今、ハロウィンや感謝祭といった祝日が今年はどのようなものになるのかを思案している。社会の常識がどのように変化していくのかを見極めて新しい広告に反映させる取り組みを、刻々と変化する状況のなかで続けていくには、マーケターやエージェンシー幹部らが「創造性を新しいレベルに引き上げる」ことが求められると、ある幹部は語った。
2. 完全なeコマース機能
パンデミックが発生して自宅待機命令が発令される前から、P&G(Procter & Gamble)やアンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)といった大手ブランドは、eコマースやパフォーマンスマーケティングを得意とするD2Cブランドを買収していた。しかし、数カ月前からは、完全なeコマースチャネルを構築しようとする動きがますます加速している。人々が対面よりオンラインで買い物をすることを好むようになったためだ。
「この半年間に、マーケターのビジネスモデルの中心はeコマースとデータに変わった」と、R3ワールドワイド(R3 Worldwide)のプリンシパルであるグレッグ・ポール氏はいう。「優れたエージェンシーは、フリクションレスなショッピング体験の提供に役立つ分析調査やオンライン販売コンサルタントを活用して、自社のチームを改革している」。
パフォーマンスマーケティングを手がけるテイク・サム・リスク(Take Some Risk)の創設者で、戦略部門責任者を務めるデュアン・ブラウン氏も同じ考えだ。「これまでeコマースに携わってこなかった人々やエージェンシーが、この分野に参入してビジネスを成功させようとしているのを、我々は目の当たりにしている。なぜなら、実にたくさんの仕事とお金がそこにあるからだ。eコマースやD2Cに力を入れていなかった人は、今がそのタイミングだ」。
3. 少ないリソースで取り組みを拡大
筆者が先日のマーケティング関連記事で指摘したように、マーケティングをより迅速かつ柔軟にしようとする取り組みは何年も前から行われてきた。だが、この混乱した難しい時期において、マーケターやエージェンシー幹部らは、延ばし延ばしにしてきた対策を徹底的に進めざるを得なくなった。レイオフや予算の縮小、納期の短縮などだ。そのため、彼らが一緒に仕事をしている社内のチームは、以前より規模が小さくなった。ところが、ブランドの最高財務責任者や調達担当幹部は、以前より少ないリソースでより多くのマーケティング戦略に取り組めることに気づくようになった。したがって、予算やチームの規模が危機前のレベルに戻る可能性はほとんどないだろう。
「我々はしばらく前からエージェンシービジネスの変革を進めていたが、新型コロナウイルスがその動きを加速させている」と、フォレスター(Forrester)のプリンシパルアナリスト、ジェイ・パティサール氏はいう。「一時帰休やレイオフといった措置は今後も続く可能性がある。危機から回復したあとにすべての仕事が復活すると考えるのは、おそらく誤りだろう。一部の仕事は復活するだろうが、すべての仕事が元どおりになると考えるのは現実的ではない」。
[原文:2020 has been the year of contingency plans’: The new norms of marketing]
Kristina Monllos(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)