本記事は、スマートニュース株式会社にて、ブランド広告責任者を務める菅原健一氏による寄稿コラムとなります。いま、何が起きていて、企業は何を変化させなければならないのか、菅原氏が考える、2017年におけるマーケティングの分岐点について。
本記事は、スマートニュース株式会社にて、ブランド広告責任者を務める菅原健一氏による寄稿コラムとなります。
あらゆるものが目まぐるしく変化をしている。古くは大型コンピューターがパーソナルコンピューターへ、そしてスマートフォンが登場し、当時のパーソナルコンピューターの性能をはるかに上回っている。スマートフォン保有者は日本だけで5000万人を超え、世界では20億人に及ぶ。どんな人も24時間365日、自分だけのコンピューターとインターネットへのアクセスを有するようになった。スマートフォンに通知される情報やアクションを促されることで人間がコントロールされているような錯覚を覚えるほど、実生活でのリアルな24時間と同じ分だけ、インターネット上の24時間の時間が存在するようになった。
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たとえば、Amazonが起こし続けている購買体験の変革は、ECからリアル店舗まで領域を広げた。そのリアル店舗にはテクノロジーが凝縮されており、どの地区にどの商品が必要か、リアルタイムで予測され、陳列される。有人の会計すら要らない、ノンストップな購買体験が提供されるようになる。そう、人はその場に行けば欲しいものが置いてあり、手に取り店を出るだけで購買体験は完了する。こうしてインターネットの世界のテクノロジー企業が実生活の体験にまで浸透している。
キーワードで言えばAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、シェアリングエコノミーそしてフィンテックと呼ばれるかもしれないが、生活者に言葉の理解は要らない。スマホを持ち、アプリをインストールするだけでそんな体験が手に入る。このような体験をした人は、もとの生活に戻れない。いままでを不便と感じるようになる。手元にあるスマートフォンもあらゆる体験を変え続けている。Amazon/Uber/Airbnb/メルカリなど、あらゆるテクノロジー企業が新たな習慣を生み出している。
私もこの数年で目まぐるしく環境が変化した。アドテクノロジー企業のCMOを務めたのちに、マーケティングにデータの力を注入し活性化するために、さまざまな企業のコンサルティングを行い、そしていまはスマートニュースという企業でニュースアプリを通して生活者に新たなニュース体験と新たな習慣を提供している。マーケティングにおいても同様に2016年は、大きな変化・大きな問題が浮き彫りになったと思う。
いま、何が起きていて、企業は何を変化させなければならないのか、筆者が思う、2017年におけるマーケティングの分岐点を記す。この記事を通じて、みなさまがこの変化に社内外のチームと一丸となって変革を進めるようになることを願う。
1. デジタルからデータドリブンへ
昔、パソコンで描いた絵は白黒で解像度も荒く、銀塩写真とは比べようもなかった。これがデジタルでできる表現のはじまりである。しかし、いまではパソコンやスマートフォンの写真で生活者が感動するようになった。解像度が向上し、多様な色彩を表現できるようになったためだ。パソコンやスマホで写真を見て、これはデジタルだと意識することがなくなったように、デジタルというのはもはや特徴ではない。
デジタルとは企業が成長をするために、データとして取得できるものと捉えなければならない。リアルな店舗での来店計測も昔は手動で記入していたものが、自動ドアで自動計測できるようになり、カメラで性別や年齢まで記録できるようになった。まるで解像度の向上に加え、データに色彩がついたようだ。
企業が成長するためにどんなデータが必要なのか、あらためて考え、そのデータを手に入れて欲しい。そして、それをもとに意思決定を行う。これがデータドリブンである。成長に役に立つデータを自らの意思で取得し、そのデータをもとに意思決定の回数とスピードを上げることで、他企業ではできない意思決定の量と質を向上させ、成長へと向かうことができる。
2. 量から質へ
2016年に起きたさまざまな出来事を踏まえ、2017年の企業はインターネットメディアへの広告出稿についてあらためて考える必要がある。
印刷コストという概念が存在しないインターネット上で、メディアは乱立した。まるで、売れるとわかった地域に乱立するコンビニのように、どんどんメディアは増えていった。素人でも記事が書けるブログ、大手企業が自ら手掛けるメディア、ファッション誌のようなメディアも、インターネット上の他メディア・他ユーザーのコンテンツからインスピレーションを受け、どんどん似た記事が派生されていった。その一部はコピーそのものであった。
参入障壁が極端に下がった結果、一部の人間は倫理を失う。PV(ページビュー:ページ閲覧数)が10倍になれば収益も10倍になる。PVが100倍になれば…と、リアルな世界では馬鹿げた妄想がインターネットでは実現できてしまう。誰もが夢中になり、記事が量産された。
しかし、現実世界と変わらない部分がある。インターネット広告のマーケットは、現状1兆円程度、年に20%も成長しない。短期的には、PVが100倍になれば売上が100倍になったとしても、同時期に他メディアも成長していれば、分母となるマーケットの1兆円は変わらないため、収益は比例して伸びるわけではない。こうして日本の総PVが増えるたびにPVあたりの収益性は必然的に下がる。それに抗うように各社がさらにPV数を競うようになり、ますます質の悪いPVが増えていく。
企業は果たしてこのようなページに広告を出すべきなのだろうか。それはつまり、「自社の看板(広告)自体が変わらないのであれば、いかがわしい店の周りに看板を出しても良い」と同じことではないのか。広告出稿企業には倫理が問われる。これはネットか否かに関係なく、広告出稿をするうえで絶対に欠かすことができない事実だ。広告を出稿することで、倫理観なくただPVを煽るだけのネットメディアを支援してしまってはいないだろうか?
ここ10年という単位でみれば、爆発的に増えたPVの大半がこのようなメディアが量産したものである。広告出稿側の企業が安易に「量」を追求すると、この活動が助長されてしまう。広告出稿企業にとっては、ブラックリスト(悪いメディアへ出さない)からホワイトリスト(良いメディアにだけ出す)へ転換が必要である。
極端なたとえになるが、そうした転換を行った場合、もう日本のインターネットのPVの20%にしか広告を出せないとしよう。そうすると各社の出稿が集中し、PVあたり単価は5倍になる(1兆円の分母が変わらないため)が、同時にその広告出稿にあなたは5倍の価値を見出さなければならないということを意味している。そのためにもデータが必要になってくる。
マーケターは自社にとってどの媒体が価値があるのか、メディアの質や、そのメディアから得られるユーザーの質について、データを用いて説明ができなければならないのだ。
3. ファネルの下部から、上部も含めた、全体へ
広告出稿はマーケティングにおいて投資である。短期的な指標で評価すればするほど蓄積される効果は見落とされていく。では「蓄積される効果」とは何か。それはブランディング効果である。従来のマス広告とインターネット広告との大きな違いは読者の捉え方にある。
雑誌・新聞・ラジオ・TVには固定読者がいた。今月と来月同じ雑誌に出稿すれば、ほぼ同じ読者が読む。こうして同じ読者へ広告が届けられ、ブランディング効果は蓄積されていた。インターネット広告はこの点があいまいだ。
不特定な場所へ広告を今月と来月1000万円ずつ出稿しても、同じ読者へは届かない。不特定な場所への広告出稿では同じ読者に広告を届けられないからだ。特定の良質な媒体20%へ絞る理由はここにもある。
4. バナーからネイティブアドへ
ファネル上部で認知や理解を得たいとき、バナー広告では難しい。すでに多くの生活者はバナーのある広告掲載箇所を自分の無意識下で目線を向けないようになっている。
インプレッション(広告表示)で課金をしていると気づかないが、「表示されている」ことと「見ている」ことは違う。「見ている」ことは、いまのデバイスでは基本的に測定できないため、「表示されている」ことへ広告対価を支払うなら、すべてネイティブアドへ移行すべきだろう。ユーザーがコンテンツを読もう・見ようとしているタイムライン上へ広告を出し、目線と意識のなかへ入り込む。そして、その広告が選択されるよう、広告のコンテンツ自体をユーザーにとって有意義な情報にすべきである。
2016年のトランプvsヒラリーの選挙でユーザーは自分が好む結末が書かれたフェイクニュースをそれと知らずに読んだが、企業はユーザーに正しく商品を選択してもらうため、常にオーセンティックな情報を出すべきだと私は考える。ユーザーを誤認させてその瞬間のパフォーマンスを得ても、その先の広告効果はなんら得られないどころか、これまでに蓄積されたブランディング資産を無価値あるいはマイナスにするだけである。
5. インプレッションからアテンション時間へ
企業が広告費を投じるときに重要なのは、広告の表示回数ではない。企業が得たいアテンション時間を提供できるメディアへ広告を出し、そのメディアが持っている読者の視聴時間を分けてもらう必要がある。分けてもらった時間がアテンション時間である。
当然、分母は読者1人当たり1日何分みているかである。企業が作る30秒の動画や1分のブランデッドコンテンツやスポンサードコンテンツを見てもらうのに相応しい媒体は、1日あたりの視聴時間が5分のメディアと10分のメディア、どちらだろうか。コンテンツを見に来た読者が広告についてもどちらにアテンションを割くか、それは自明である。企業がインプレッションからアテンション時間へ移行しないと、濫造される1秒だけのインプレッションを大量に購入することになる。
いま、あなたの企業はどのくらいこれを理解し、移行できているだろうか。2017年のマーケティングの分岐点を経て、企業の成長を実現して欲しい。
Written by 菅原健一
Photo by Thinkstock / GettyImage