消費財(CPG)メーカーの米クロロックス(Clorox)はおよそ2年間にわたり、DTC(direct-to-consumer:直販)部門のバイスプレジデントでゼネラルマネジャーを務めるジャクソン・ジェヤナヤガム氏のもと、直販ビジネスの改革を進めてきた。クロロックスが選んだのはハイブリッドアプローチだ。
消費財(CPG)メーカーの米クロロックス(Clorox)はおよそ2年間にわたり、D2C部門のバイスプレジデントでゼネラルマネジャーを務めるジャクソン・ジェヤナヤガム氏のもと、直販ビジネスの改革を進めてきた。クロロックスが選んだのはハイブリッドアプローチだ。具体的には、ニュートラネクスト(Nutranext)をはじめとする競合他社の買収戦略、オブジェクティブ(Objective)などの新ブランドの開発戦略、ならびにブリタ(Brita)やバーツビーズ(Burt’s Bees)といった既存ブランド向けのD2C戦略策定を組み合わせることで、より直販ビジネスに精通した企業へのシフトを図っている。
顧客理解がD2C戦略の目的
業界内で積極的かつ発展的なD2C戦略を展開しているのは、クロロックスばかりではない。P&G(Procter & Gamble)やアンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)といった大手が直販ビジネスに力を入れ始めているほか、スタートアップスタジオやベンチャー部門を利用して新たなD2Cブランドを立ち上げる例も見られる。2020年に入り、コロナウイルスの影響で多くの消費者が実店舗ではなくオンラインでの買い物を選択するなか、ペプシ(Pepsi)やオーシャンスプレー(Ocean Spray)などの大手CPGメーカーがD2C戦略を大々的に展開する、戦略導入を加速化するといった事例も確認されている。
ただし、クロロックスのD2C戦略は小売戦略全体の見直しというよりむしろ、顧客への理解を一層深めることを目的としたものとなっている。ジェヤナヤガム氏は次のように語る。「D2Cはたしかに極めて重要だが、その売上高は実店舗やAmazonでの売上高に遠く及ばない。つまり、D2C戦略によって、クロロックス全体の売上高の半分を目指しているわけではないということだ」。
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同氏によるとクロロックスのD2C戦略は、顧客との距離を縮め、総合的に見て顧客体験を向上させ、「顧客の購入プロセスと考慮するポイント」への理解を深めて、オムニチャネルマーケティング戦略の全体的な改善を図ることにあるという。同社のD2Cチームでは現在、約50人のスタッフがデジタルな製品体験、クリエイティブ、成長、データサイエンスとアナリティクス、エンジニアリング、R&D、オペレーション、財務、イノベーションといった業務に携わっている。
クロロックスでは、増え続ける顧客データの管理にGoogleのデータアナリティクスプラットフォームであるルッカー(Looker)を最近導入した。同社のようなCPGメーカーにとって、消費者の買い方への理解を深め、顧客とより緊密な関係を築いて管理することがパンデミック下で一層重要性を増している、と指摘するのは、マーケティング支援企業メタフォース(Metaforce)のブランドコンサルタントで共同創業者のアレン・アダムソン氏だ。
フォレスター・リサーチ(Forrester Research)のバイスプレジデントで主席アナリストのディパンジャン・チャタジー氏はこう述べる。「D2C戦略を展開する大手メーカーの大部分は、消費者データの管理を仲介業者に任せることで機会費用が得られることをちゃんとわかっている。パンデミックによって小売業界ではディスラプションが起こったが、今のところはまだ、消費者への供給ラインを失う、あるいは制御できなくなることへの警鐘は鳴らされていない」。
インハウスチームの奮闘
メディア戦略についていえば、クロロックスのD2Cチームはインハウスエージェンシーおよびマーケティングチームと、より緊密な協働を2019年から開始している。米DIGIDAYで報じたように、クロロックスは20年以上前からインハウスエージェンシーを置いているが、最近になってインハウスショップのエレクトロ(Electro)がプログラマティックメディアの買収に乗り出した事実がある。
つまりクロロックスのD2Cブランドについては、D2Cチームが依然としてメディア投資戦略も管理しているのだ。通常なら、クロロックスのD2Cチームはメディア予算の大部分をFacebookおよびインスタグラムに投じるところだろうが、実際にはこれらのプラットフォームへの投資はまだ行っていない。同社のCMOであるステイシー・グライアー氏は7月にアドウィーク(Adweek)で、ヘイトスピーチ抗議キャンペーン「利益のためのヘイトを止めろ(Stop Hate for Profit)」に賛同し、これらの2プラットフォームで2020年中の広告展開は実施しない旨を明言している。
このような事情から、同社D2CチームはGoogleへの投資を増やしつつ、ほかのチャネルへの試験的な投資も進めている。ただしジェヤナヤガム氏は、個々のチャネルへの投資額や各D2Cブランドのメディア予算について具体的な数字は明らかにしていない。「ポッドキャストやダイレクトメール、(インフルエンサーと協働した)アフィリエイト、Google、Amazonを試しているところだ」と、ジェヤナヤガム氏は語る。「これらのチャネルへの投資を増やして、Facebookとインスタグラムに代わる収益源を探したいと考えている」。
GoogleおよびAmazonでのパフォーマンスは安定しているが、ほかのチャネルでは不安定なのが実情のようだ。ジェヤナヤガム氏は次のように語っている。「D2Cの観点から言えば、Facebookとインスタグラムに代わるチャネルを探すのは難しい。どちらも非常に強力かつ安定したチャネルだ。それでも、とにかく代替チャネルを見つけなければならない段階に来ている。Facebookに予算の半分を投じる、あるいはGoogleとFacebookに予算の70%を投じるといったことはできない。潜在性は(他のチャネルに)大いにあると考えている」。
[原文:‘More pressure’ to understand how people are shopping How Clorox is evolving its DTC strategy]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)