FOUR PRINCIPLES OF BRANDING IN THE DIGITAL ERA

レイ・イナモト の『デジタル時代のブランド構築 4つの法則』 : その4.「理想的な未来」から「実践的な未来」へ

本記事は、ニューヨークを拠点に世界で活躍するクリエイティブ・ディレクターであり、ビジネスインベンションファーム「I&CO(アイ・アンド・コー)」共同創業者のレイ・イナモト氏による寄稿となります。

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日本の企業のあいだではここ数年、「イノベーション」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」「ディスラプション」「デザインシンキング」などの言葉が飛び交っている。

しかし正直なところ「流行り」に乗っているだけである、もしくは「ほかもやっているからうちも何かやらねば」という同調圧力にのまれているだけで、具体的に何をしたらいいか分からず形やツールばかりに囚われ、なかなか本質的な改革が進まない企業も少なくないだろう。多くの企業が時代の変化にどう付いていったらいいか、どう未来を築いていったらいいかという悩みを共通して抱えており、ご相談もよく受ける。

DXは「ツール」ではなく「文化」

結論からいうと、企業の改革やDXはツールの問題ではない。文化の問題である。

ひとつの例を紹介しよう。話は、デジタルという言葉さえ存在しなかった、第2次世界大戦中の1943年に遡る。

当時のアメリカ空軍は、急速に成長しているドイツのジェットエンジンに脅威を抱いていた。そこでアメリカ政府は、航空機を製造するロッキード社(現・ロッキード・マーチン)にジェット戦闘機の開発を発注した。ロッキード社の経営陣はクラレンス・ケリー・ジョンソンという若きエンジニアをリーダーに起用するのだが、彼は経営陣に対して次のようないくつかの条件を出した:

  • チームリーダーのジョンソンに、本プロジェクトの全権を委譲をする。
  • 報告は中間管理層を通さず、経営層の代表に直接する。
  • 関わる人材はジョンソンが選び、関係者の数も徹底的に減らす。
  • チーム単独のオフィスを用意する。
  • などなど

そしてプロジェクトが始まると、ジョンソンと彼のチームはわずか143日で、「XP-80」というジェットエンジンとドイツの戦闘機より速い「P-80 Shooting Star」と呼ばれる戦闘機を生み出した。半年にも満たない期間だ。日本の一般的な企業であれば、何回もミーティングを重ね、何も決まらないうちに半年経ってしまうことも珍しくはないだろう。

 

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引用:Lockeed P-80 Shooting Star (Wikipedia)

 

このジョンソンのチームには「スカンクワークス(Skunk Works)」という通称が付いていた。由来は動物のスカンクではなく、当時流行していた漫画に出てくる奇妙な匂いのする蒸留所「skonk works」だ。チームの開発室として使われていた場所は、実は建物の外にあるテントだったそうなのだが、ゴムでタイヤを製造する工場が隣にあったため、匂いがよくなかったらしい。

後にロッキード社は秘密開発部門を「スカンクワークス」と呼ぶようになった。また、ジョンソンが連ねた条件は彼の名前にちなみ「ケリーの14カ条(Kelly’s 14th Rules & Practices)」というメソッドとして、同社のサイトに今でも掲載されている。転じて現在「スカンクワークス」という言葉は、主に根本的な革新を目的としてプロジェクトを研究開発する、少数精鋭の特命チームや開発プロセスを示す際にも使われる。

ここにはツールの話は出てこない。むしろ、焦点は組織の在り方やプロセスにある。「イノベーション」や「トランスフォーメーション」などの言葉で語られる改革というのは、ツールの問題ではなく、組織のプロセス、そして文化の問題であることを象徴するエピソードだ。

未来構築の落とし穴

「未来を予測しようとすることは、無謀でがっかりする職業なんです」。

これは、『2001年宇宙の旅』の原作者であるアーサー・C・クラークが、1964年にイギリスBBC社の番組で語った言葉だ。彼はこう言っている:

 

「未来を予言しようとすると、ふたつのパターンに陥ります。まずひとつ:ある予言者の言葉が現実的に聞こえるなら、20年、あるいはせいぜい50年で、科学や技術の進化がその予言をに簡単に超えるはずです。その一方、予言者の言葉が非常に馬鹿げているように聞こえ、誰もがその予言を嘲笑するようなら、その予言は的確なものになるでしょう。」

[ 映像:Arthur C. Clarke predicts the future in 1964 ]

 

50年以上たった2021年、クラーク氏の言葉がいかに的を射たものだったかが分かる。たとえばクラーク氏は、「イギリス・エジンバラの脳外科医が、ニュージーランドの患者を手術を出来るようになると、私は真剣に思います」と言っている。その当時の人々にはかなり信じがたい言葉に聞こえただろう。ところがコロナ禍で世界が変化し、リモートワークなどが一般化した今、彼の言葉はほぼ現実となっている。

未来といえば、コロナ以前から「人の仕事がAIに奪われる未来」といった記事の見出しや話題をよく耳にするようになった。では実際に、AIが人の頭脳を超えるまでにどれだけかかるだろうか?

以下の図は、人工知能の専門家達が集まったあるカンファレンスで「人間を超える人工知能は、どの時間枠で実現されると思いますか?」というアンケートをとった結果だ。

 

h+ Magazine

引用:h+ Magazine / James Barrat, 2011

 

約4割が「20年以内に人間を超える」と予測したのに対し、2.5割が20年〜40年、2割が40年以上、そして1割が2100年以降になるだろうと予測している。シンプルに聞こえる質問だが、未来というのは非常に予測し難いものであり、専門家のあいだでも意見がバラついていることが伺える。

「新しい価値」の創造

2年以上の開発を要したDisney+。ここ10年で一気に飛躍したウーバー(Uber)やリフト(Lyft)のようなライドシェア。食卓の一品として使える高級料理キットを提供する高級レストラン「NARISAWA/ナリサワ」の新しいオーダーサービス。

今回の連載で紹介させて頂いた事例にはひとつの共通点がある。すべてが実践的なのだ。どれもが絵空事でなく、これまで解決されてこなかった生活者ニーズや社会的ニーズを見つけ出し、新たな市場機会を切り拓くソリューションを見つけ、構築されている。

我々はそれを、手を伸ばせば届きうる「実践的な未来」と呼んでいる。

Practial Future

あるふたつの軸で考えてみよう。ひとつは「時間」、もうひとつは「憶測」だ。描いている未来の時間軸が長ければ長いほど、それは不的確になり憶測になる。映画やサイエンスフィクションの世界ならまだしも、現実的ではないし、ビジネスやマーケティングにとっては実践的ではない。ゴルフでたとえるなら、目に見えぬグリーンをイメージしながら、適したゴルフクラブを選び打つようなものだろうか。

逆に、あまりに直近の未来を描くことは「推論」の域を出ず、差別化にはなりにくい。

未来は完璧には想像できない。かといって常にある程度先を見こなさないと、競争には勝ち続けられない。ここ1年、コロナがすぐ収まるだろうという憶測や希望的観測をよりどころとしていたビジネスはどんどん消えてしまった。逆に、この状況がこのまま続いたらどうなるかという仮説を立て舵を切り、実践的に考えて行動したビジネスは生き延びている。

「理想的な未来」から「実践的な未来」へ。理想や願望だけでは未来は築けない。実践に移していかなければ意味はない。そして5年、10年前にはなかった技術やテクノロジーを使い、新しいビジネスモデルを作れる人や会社は伸びる。この「実践的な未来」を作れる人たちが、「新しい価値」を世の中に生み出していける人たちなのだろう。

最終回となる次回は、この連載で考えてきたポスト・コロナ、そしてポスト・デジタル時代の4つのパラダイム・シフトに基づき、今後のブランド構築の在り方をまとめてみたい。

 

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Written by レイ・イナモト
Image from I&CO(アイ・アンド・コー)