Glossy+リサーチはエージェンシーやブランド、小売業者やパブリッシャーなどの組織の業界専門家388人にアンケートを行った。データドリブン型のパーソナライゼーションと自然言語処理を現在どのように使用しているか、そしてこれらのテクノロジーを将来どのように統合する予定であるかを尋ねた。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
これは、もっとも人気のある新興テクノロジーに関する調査シリーズの第2弾である。本シリーズはGlossyの姉妹サイト、DIGIDAYが5年前にまとめたレポートをフォローアップして、以前にレポートしたテクノロジーがどのように進化したかを考察、ブロックチェーンやロボッティクスなどの新しく登場したテクノロジーを探るものである。この記事ではマーケターが自然言語処理とデータドリブン型のパーソナライゼーションのAIツールをどのように活用しているかを考える。
近年ではパンデミックによる休業の影響もありeコマースの売上が急増していることとサードパーティCookieの廃止が迫っているため、データを収集するための新しい機能の必要性が高まっている。この現状に多くのマーケターがカスタマーサービスを自動化して広告ターゲティング用のデータを収集するために自然言語処理(NLP)とデータドリブン型のパーソナライゼーションにますます依存するようになっている。
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Glossy+リサーチによると、マーケターはこの5年間、主にチャットボットの形式でNLPの使用を増やしながらデータドリブン型のパーソナライゼーションを着実に使い続けている。どちらのテクノロジーもAIという大きなカテゴリーに分類されるが、それぞれマーケターに明らかなメリットをもたらすものである。
データドリブン型のパーソナライゼーションにより、マーケターは消費者データを使って製品の推奨事項を調整して広告をターゲットすることができる。エクスペリエンスは、一般的な推奨事項のためにコンテクスチュアルにすることも、個々の消費者からのデータでハイパーパーソナライズすることも可能だ。しかし、ハイパーパーソナライズされたエクスペリエンスを提供するマーケターはデータプライバシー法に違反するリスクを負っている。この点は規制が厳格化しているので留意しなければならない。
「AIはうまく使えば極めて有用だ」と述べているのは、エシロールルックスオティカ(EssilorLuxottica)傘下のアイウェア会社、FGXインターナショナル(FGX International)の最高エクスペリエンス責任者、フレッド・ジェランタビー氏だ。「何にでも使える単独の特効薬はないが、AIでは膨大な量のデータを調べて、人間には不可能な方法でデータを理解することが可能になる」。
マーケターは主にチャットボットの形でNLPを使用して、カスタマーサービスの対応を合理化してeコマースの売上を伸ばしている。パンデミックにより店舗が休業してeコマースの売上が過去最高を記録した際にマーケターによるチャットボットの使用が加速した。また、マーケターはソーシャルリスニングなどのほかの形式のNLPを使用して、ブランドについて言及されているものを追跡して事業や製品に関する意思決定を行うことができる。
マーケターがチャットボットの使用を増やしてデータドリブン型のパーソナライゼーションに引き続き注力しているため、AIの導入はその技術が進化し続ける限り一定のペースで続くと思われる。さらに、(市場・消費者データ企業の)スタティスタ(Statista)によると、世界のマーケティングにおけるAIの市場価値は2028年までに1075億ドル(約14.9兆円)以上に達すると予想されている。
このレポートのために、Glossy+リサーチはエージェンシーやブランド、小売業者やパブリッシャーなどの組織の業界専門家388人にアンケートを行った。データドリブン型のパーソナライゼーションと自然言語処理を現在どのように使用しているか、そしてこれらのテクノロジーを将来どのように統合する予定であるかを尋ねた。
また、Glossyは以下の企業やエージェンシーの幹部にもインタビューを実施した。
• FGXインターナショナル
• ゼネラル・ミルズ(General Mills)
• ヒュージ(Huge)
• IPGメディアラボ(IPG Media Lab)
• リーバイ・ストラウス(Levi Strauss & Co.)
• サイト(Syte)
重要な調査結果
•過去5年間においてデータドリブン型のパーソナライゼーションはマーケターの優先事項であり続けている。2017年の67%と比較して、2022年には回答者の68%が優先事項であると述べている。
• マーケターの主要なフォーカスは、より幅広く魅力的な体験を提供するためにコンテキスト情報に基づいてカスタマイズされた体験を作成すること(36%)よりも、個々のユーザーをターゲットにしてハイパーパーソナライズされた体験を提供すること(64%)である。
•何らかの形式のNLP(主なものはチャットボット)を使うマーケターの割合は、2017年の31%から2022年には44%に増加した。
•チャットボットはカスタマーサービスに実用的に使えるため、マーケターが使う主要なNLPのタイプである。2番目はソーシャルリスニング、3番目はテキストのセンチメント分析である。
•現在データドリブン型のパーソナライゼーションを使用していないマーケターのあいだではそれに将来投資するかについて意見がはっきり分かれた。投資すると回答したのは48%、自社ビジネスには関連していないと回答したのは48%である。
•マーケターはNLPをいま以上に拡大して使う可能性は低いと考えている。現在NLPに投資していないマーケターの55%がNLPは自社ビジネスには関連性がないと回答しており、将来的にNLPに投資する予定があると答えたのは36%である。
パーソナライゼーションの基礎:マーケターは主にファーストパーティデータを利用するためにサードパーティベンダーを使用
マーケターは広告と製品の推奨事項をパーソナライズする前に、まずデータを収集・取得してパーソナライゼーションツールを構築し、パーソナライゼーションの構成要素を確立しなければならない。データ収集・取得とツール構築に関してマーケターは主にサードパーティベンダーを使用している。
Glossyの調査では、マーケターの45%がAdobe AnalyticsやGoogle Analyticsなどのサードパーティパートナーを使ってデータを収集していること、また、マーケターがサードパーティパートナーを使ってデータドリブン型のパーソナライゼーションのためのアプリケーションを構築していることが判明した。社内のソリューションとサードパーティのソリューションを組み合わせて使うことは、データの取得とパーソナライゼーションツールの構築の両方においてマーケターから2番目に使われている手段であり、約3分の1が(データ取得とパーソナライゼーションツール構築の)それぞれのカテゴリーでその組み合わせを選択していると回答した。マーケターがデータ収集とアプリケーション構築に社内オプションのみを使用している可能性がもっとも低かった。
FGXインターナショナルのジェランタビー氏は、同社は独自の市場調査を行うことに加えて外部ベンダーとの協働によっていっそう堅牢なデータプールにアクセスできていると述べている。「ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)のような大手小売業者と協働する場合、これらの小売業者のeコマースはテストと学習の優れた場所であり、データを得るための優れた方法として機能する」。
また、同氏は次のように述べている。「このようなフランチャイズの大部分は、オンライン購入・店舗受け取りと、店舗で購入・カスタマーサービスリクエストやオンラインレビューを管理する側面とを実にうまくつなげている。チャネルの観点からすべてが統合されつつある。客が来店したかどうかにかかわらず、消費者について詳しく理解できるのでいっそう明快な洞察が得られる」。
事実、GoogleがサードパーティCookieの廃止を発表した後、ターゲットやウォルマートなど多くの小売業者が自社をデータプロバイダーとしてブランドに売り込み始めている。ターゲットが2019年にクライアントに送ったピッチデッキによると、同社は当時1億4700万人以上の顧客のプロファイルを持っていたという。これには購入客が購入した場所や支払方法、購入頻度に関するデータが含まれていた。
クリエイティブな成長のアクセラレーションにフォーカスしたデジタルエージェンシー、ヒュージのテクノロジー担当ゼネラルバイスプレジデント、スティーブ・クロール氏は、マーケターには利用できる多数のサードパーティデータ収集オプションと独自の社内機能があるが、多くの企業は依然としてデータ収集のベストプラクティスを調整しているところだと述べている。
「当社のクライアントの多くがデータの収集・整理のファンダメンタルズに苦労しているのをいまだに目にしている」とクロール氏。「企業はパーソナライゼーションに適用できるデータを単一のストレージに整理するのに苦労している。この点こそが当社が役に立てるところだ。これは、環境内にすでに豊富にあるデータを収集・取得して、それを実用的なリポジトリに配置する基本的な部分である」。
調査結果によると、データ収集は主にサードパーティベンダーにより行われているが、マーケターがもっとも頻繁に収集するデータの種類はファーストパーティデータである。回答者の80%以上が顧客から直接データを収集していると述べている。
ファーストパーティデータは、通常、消費者がサイトでメールアドレスと電話番号を登録するとき、フォームやアンケートを記入するとき、多くの場合ロイヤルティプログラムを通じてサイトやアプリ全体で閲覧と購入のアクティビティが追跡されるときに社内で収集されている。マーケターの3分の1以上が社内チームとサードパーティチームの両方を使ってデータを収集していると回答した。
ゼネラル・ミルズのD2Cグローバルeコマース責任者であるカーター・ジェンセン氏は、同社はファーストパーティデータ収集のために社内データチームを立ち上げたと述べている。これによりいっそう効果的な広告ターゲティングと製品の推奨を提供できるようになる。「これは、(消費者に関する)データを収集して、消費者が何を必要としているか、そして我々はどうすればより良いサービスを提供できるかを理解するための優れた方法だ」。
「メーカーの観点からのファーストパーティデータは、ときにはいわれのない非難を受けることがある」とジェンセン氏は付け加える。「多くの人々から『なぜそれが必要なのか。すでに(メーカーは)小売業者を通しているではないか。(メーカーが集めたファーストパーティデータを)どう使うというのか』と批判される。我々が学んだのは、消費者をもっと良く理解できればそのユーザーが購入するためにさらに優れたルートやスムーズなルートを提供できるということなのだ」。
Glossyの調査結果によると、実際にマーケターは自社またはサードパーティベンダーを通じて収集したデータを主に使って広告体験をパーソナライズしている(これを行っていると回答したのは72%)ことが判明している。つまり、製品の認知度と購入コンバーションの向上が重視されていることが示されている。また、マーケターは、コンテンツと製品プレイスメントを優先するために(66%)、製品推奨を優先するために(46%)データドリブン型のパーソナライゼーションを使っている。この2番目と3番目の用途については、マーケターは製品の売上を伸ばすために似たような適用ができる。また、ブランドはこれらを使ってロイヤルティプログラム内での顧客維持を強化し、購入推奨事項を調整したりユーザーインターフェイスを更新したりして、アプリ内体験を向上させることもできる。
事実、サードパーティCookieの廃止が実施されると、ブランドはロイヤルティプログラム向けにデータドリブン型のパーソナライゼーションの使用を加速する可能性がある。たとえば、CVSやウォルマートなどの小売業者を通じて販売しているが、自社D2C eコマースを持っていないメイベリン(Maybelline)のようなマスブランドとって、サードパーティCookieの廃止は切迫した課題である。それゆえ、メイベリンはファーストパーティデータをもっと多く取得して消費者をより理解するために、メイベリンエクスプレス(Maybelline Express)という特典プログラムを2020年11月にローンチしている。
メイベリンの統合消費者コミュニケーション担当バイスプレジデント、マーニー・レバン氏は次のように述べている。「当社は消費者とのつながりを所有して体験をパーソナライズして、消費者データを提供するサードパーティのメディア企業への依存を減らしたいと考えていた。広告費という競争上の優位性を最大化するために顧客データベースを構築する必要があった」。
重要な調査結果
•マーケターの45%がサードパーティパートナーを使ってデータを収集しており、53%がサードパーティパートナーを使ってデータドリブン型パーソナライゼーション用のアプリケーションを構築している。
•マーケターがデータ収集とアプリケーション構築に社内オプションのみを使用する可能性がもっとも低かった。
広告生成・ターゲティング・製品推奨に最適なデータドリブン型パーソナライゼーション
マーケターは過去5年間においてデータドリブン型のパーソナライゼーションの優先順位をほとんど変えていない。これは主に広告をターゲットして製品を推奨するための消費者プロファイルを作成するのに役立つからである。マーケターの68%がデータドリブン型のパーソナライゼーションが2022年の最優先事項であると回答した(2017年は67%)。
広告のターゲティングについては、マーケターがクリエイティブなコンテンツを生成したりメディアプレイスメントを購入・計画するために依存しているエージェンシーはデータドリブン型のパーソナライゼーションの活用にますます精通している。また、業界の専門家は、ファーストパーティデータを使った広告ターゲティングの需要が高まるにつれてAIの使用が増加していると述べている。AIはクリエイティブからセグメンテーションまでアドエージェンシーの一部のプロセスを自動化することができ、また、エージェンシーが単調な作業を削減して広告費を最適化するのに役立つ可能性がある。
本レポートのテーマであるAIをエージェンシーがテストしている方法のひとつに、データポイントを使用してコンテンツを推進するクリエイティブプロセスがある。たとえば、タイソン(Tyson)とマインドシェア(Mindshare)は最近、インテリジェンススタートアップのソーシャルコンテクストai(socialcontext.ai)と提携してインパクトインデックス(Impact Index)というツールを作成した。このインデックスを使って、タイソンは黒人コミュニティにおけるエディトリアルコンテンツの社会的インパクトを測定している。このような種類の洞察により、AIジェネレーターは関連するコンテンツを数分、または数秒で作成できる。また、エージェンシーにはAIツールを使って文章や音楽、そのほかのビジュアルを制作しているところもある。
TBWAワールドワイド(TBWA Worldwide)はAIジェネレーターを使用して一部のクライアント向けのコンテンツを作成している。TBWAのグローバルチーフクリエイティブエクスペリエンスオフィサー、ベン・ウィリアムズ氏は、AIはチームやクライアントにインスピレーションを与えて異なる発想を可能にする現代の「クリエイティブ革命」の一環であると説明する。「これらのテクノロジーとツールの真の力は、クリエイティブに取って代わることではなく、むしろ我々をいっそう効率的にしてくれる点だと信じている」。
マーケター自身が広告コンテンツを超えてデータドリブン型のパーソナライゼーションを使い、消費者のニーズを満たすと思われる特定の製品を推奨することで、顧客のショッピング体験がいっそう容易になっている。また、売上高のコンバージョン率が向上するだけではない。消費者が購入した商品に満足すれば返品する可能性が低くなり、小売業者の収益を改善するのにも役立つ。
たとえば、大型店のウォルマートはデータドリブン型のパーソナライゼーションを最近の数々の技術アップグレードの最前線に置き続けている。同社は9月に、ギフト登録リストを厳選・共有する機能を追加したりEBT(カード形式の困窮者用食料切符)対象製品を表示するフィルターを追加してアプリとウェブサイトをアップグレードすることを発表した。ウォルマートはバッグや靴などコーディネートを完成させるためのアイテムを提案するスタイリング機能をすでに提供している。
「パーソナライゼーションによって(消費者の購入に関する)意思決定を絞り込むのに役立つ。なぜなら、我々は、消費者がどんな人であるか、そして彼らが何を購入するかを知っているからだ」と述べているのは、ウォルマートeコマースのサイトエクスペリエンス担当シニアバイスプレジデントであるブロック・マッキール氏だ。「我々は顧客を深く知ることができる」。
重要な調査結果
•マーケターは、過去5年間においてデータドリブン型のパーソナライゼーションを引き続き優先している。2017年の67%に対して、2022年には68%の回答者が最優先事項であると述べている。
•マーケターは収集したデータを使用して消費者プロファイルを作成する。それを利用して広告のターゲットを設定して製品を推奨できる。
プライバシーの懸念にもかかわらず、マーケターはハイパーパーソナライゼーションに注力
カスタマイズされたユーザーサイトと広告体験はさまざまなパラダイムから生み出せる。消費者向けにクリエイティブと製品の品揃えを調整する際、マーケターは個々のデータに基づいたハイパーパーソナライズされたエクスペリエンスで個々のユーザーをターゲットにすること(64%)と、タグやほかのセマンティックデータに基づいてページコンテキストをターゲットにすること(36%)に主にフォーカスしている。
ハイパーパーソナライズされたエクスペリエンスは高度にカスタマイズ可能で、顧客の特性や好みに動的に合わせることができる。インスタグラムやTikTokが提供するようなフィードベースのコンテンツはハイパーパーソナライゼーションの最高水準を表している。インスタグラムはユーザーのアクティビティに基づいてユーザー投稿を表示する。アクティビティにはつながりや気に入った投稿、保存した投稿やコメントした投稿などが含まれる。また、ユーザーは提案された投稿を見たくない場合にはインスタグラムに通知することができ、それを行うと将来のフィード提案からその投稿は削除される。このようにしてアルゴリズムは個人やその人の好みについてもっと詳しく知ることができるのである。
マーケターにとってコンテンツをハイパーパーソナライズするもっとも単純な方法は、顧客にどの製品に興味があるかを直接尋ねることである。オンラインパーソナルスタイリングサービス、スティッチフィックス(Stitch Fix)では、サービスに登録する前に一連の服が自分のスタイルにどれだけ近いかについて包括的なアンケートに答えるように顧客に求めている。その後同社は顧客の好みをもっと知るためにその人が保持・返品するアイテムを追跡している。
また、スティッチフィックスはスタイルシャッフル(Style Shuffle)というモバイルゲームを開発した。このゲームではプレイヤーはアクセサリーや服、シューズに対して好きか嫌いかを表示する。そして、同社は嗜好が似ているほかのゲームプレイヤーの好みに基づいて、その顧客が興味を持つかもしれないほかの製品を予測するアルゴリズムを作成した。
スティッチフィックスのCMO、ロレッタ・チョイ氏は次のように述べている。「実質的に社内で製品を構築するためにデータを使っており、またブランドパートナーとデータを共有してもいる。なぜなら、当社が(取り扱っている複数の)ブランドを成長させ、彼らの製品を当社の顧客につなげるためにパートナー(ブランド)の成長を支援したいからだ」。
サードパーティAIプラットフォームのサイト(Syte)は、ラグジュアリー小売業者のプラダ(Prada)やダイヤモンドジュエラーのデビアス(De Beers)などのクライアントにビジュアルAIテクノロジーを提供して、ブランドが顧客向けの服やアクセサリーの推奨事項をハイパーパーソナライズできるように支援している。このテクノロジーは、購入客がブランドのウェブサイトにアップロードした写真や閲覧中にクリックした画像に基づいて消費者が好む可能性のあるほかの製品を予測するものだ。たとえば、ユーザーが特定のスタイルや長さや色のドレスの写真をアップロードしたりクリックすると、そのユーザーがウェブサイトを閲覧しているあいだにそれに似たドレスが表示されるようになっている。
サイト(Syte)のCEOであるヴェレッド・レヴィ=ロン氏は、この形式のハイパーパーソナライゼーションはマーケターがプライバシー基準を遵守するのに役立つと同時に、ターゲットを絞った製品の推奨で売上を増加できる可能性があると述べている。「ユーザーは、性別や居住地といった理由ではなく(画像を見て)何を選んだかによってパーソナライズされる。その人のサイズの似たようなドレスが表示されるので(顧客が求めていないものが表示されて)閲覧が止まってしまうことはなく、ユーザーエクスペリエンスが向上して売上が増加する」。
ゼネラル・ミルズのジェンセン氏は、データドリブン型のパーソナライゼーションテクノロジーへの投資はマーケターの収益にメリットをもたらせるが、その取り組みが本当に役立つのは優れたカスタマーエクスペリエンスが提供される場合に限られると述べている。「より効率的でターゲットを絞ることができ、あらゆるタイプの当面の支出に対してROIが大きくなるという経済的なメリットがある」と同氏。「だが、(データドリブン型パーソナライゼーションの)結果を期待する消費者もいる。消費者にとって嫌な経験であれば、彼らに避けられたり離れられてしまうだろう」。
一方、IPGメディアラボのエグゼクティブディレクターであるアダム・サイモン氏は、多くのマーケターがハイパーパーソナライゼーションの尽力が効果的かどうかについて消費者にフィードバックを求めるという次のステップを取っていないと述べている。「パーソナライゼーションに対する消費者からのインプットを取り込む優れたフィードバックループを作成している企業はほとんどない。体験をパーソナライズするためのアルゴリズムを設計したら、それがどれだけうまく機能しているかについて消費者からフィードバックをもらいたいと思うはずだ」。
全体的にデータドリブン型のパーソナライゼーションは現在の自動化機能の制限を克服する必要がある。消費者が最近閲覧した製品を宣伝する広告など、エクスペリエンスの特定の部分は動的に調整できるが、製品にカテゴリーを手動でタグ付けするなどウェブサイトのバックエンドでマニュアルでアップデートしなければならない部分もある。
2022年には回答者のほぼ半数がコンテンツのパーソナライズに手動アップデートと自動アップデートを組み合わせて使用していると答え、36%はコンテンツのパーソナライゼーションは完全に自動化されていると答えた。ユーザーエクスペリエンスはマニュアルでアップデートしていると回答したのはわずか15%である。
パーソナライゼーションは個人レベルで動的に行われるため、ハイパーパーソナライゼーションにはきめ細かく調整された更新システムとインフラストラクチャーが必要である。一方、コンテクスチュアルターゲティングは製品のタグ付けなどの手動アップデートにもっと依存している。調査結果では、マーケターの多くが手動アップデートと組み合わせて、または単独で自動アップデートを使う傾向にあることが示されており、マーケターがターゲティングにコンテクスチュアルターゲティングを使用するよりも様々なレベルでハイパーパーソナライゼーションを使っているという調査結果を裏付けるものとなっている。
重要な調査結果
•マーケターは主に個人のデータに基づいてハイパーパーソナライズされたエクスペリエンスを使用して個々のユーザーをターゲットすることにフォーカスしている(64%)。
•ハイパーパーソナライズされたエクスペリエンスは高度にカスタマイズ可能で、顧客の特性や好みに対して動的に適合できるが、プライバシー規制に違反するリスクの可能性がある。
マーケターは必ずしも(eコマース)サイトを所有しているわけではないため、コンテクスチュアルパーソナライゼーションはあまり行わない
マーケターは自社のクリエイティブまたは製品の品揃えの大部分が個々のユーザー向けにハイパーパーソナライズされていると回答している(64%)が、回答者の3分の1(36%)はページのコンテキストに基づいてコンテンツが調整されていると述べている。つまり、コンテクスチュアルパーソナライゼーションはあまり人気ではないパーソナライゼーションの形式だといえる。
コンテクスチュアルパーソナライゼーションは、ユーザー自身に関する特定の情報を収集するのではなく、購入客が閲覧しているページから情報を収集することによって広範囲の消費者をターゲットにしている。コンテクスチュアルパーソナライゼーションは正確な個々の消費者情報を必要とせず、収集すべきデータがはるかに少ないため、ブランドがコンテクスト関連のコンテンツを作成する方が容易だと感じることがしばしばある。だが、通常マーケターは広告を出したり商品を販売するウェブページを所有していないため、一般的なサイトやカテゴリーのターゲティング以外にコンテクスチュアルパーソナライゼーションを利用できる頻度は低くなる。
コンテクスチュアルパーソナライゼーションを使っているマーケターにとって、コンテクストに基づいてキュレーションされたコンテンツのもっとも一般的な例はeコマースページでの「気に入るかもしれない」や「外見を完成させる」ための推奨事項である。推奨事項には購入客が現在表示しているアイテムに基づいて推定される関心に関連付けられた製品が表示され、ユーザーが追加の製品をクリックするように誘導して、購入の増加につなげることを目指している。
数年前、当時はライクトゥノウイット(Like To Know It)として知られていたインフルエンサープラットフォーム兼アプリのLTKは、顧客が製品を検索するとアプリのネットワーク内のインフルエンサーからの投稿結果を提示する機能を提供し始めた。これは、顧客が製品を検索していて「本筋から離れていろいろなものを閲覧してしまい」、元の製品の横に表示されているアイテムに刺激されて、検索と購入を続けるという考えに基づいていた。
LTKの親会社、リワードスタイル(RewardStyle)の当時の製品担当バイスプレジデントで、現在はスティッチフィックス(Stitch Fix)の製品担当シニアディレクターを務めるベン・ニューウェル氏は次のように述べている。「インフルエンサーからの情報や製品についての彼らの発言すべてを検索データに含めたいと思っていた。商品ではないが、たとえば『クリスマス』で検索することができる。これは検索されるものの1つだ。…消費者がジーンズやブーツの検索に慣れてきたらほかのものも検索もするように促している」。
もちろん、個別化されたデータがなければ、コンテクスチュアルパーソナライズされたコンテンツがハイパーパーソナライズされたコンテンツと同じようにいつも消費者の共感を得るとは限らない。また、ブランドは、変化する顧客のニーズや好みに応じてリアルタイムで製品の広告や推奨事項を調整して対応することもできない。
一般的にコンテクスチュアルパーソナライゼーションだけにこだわって満足しているマーケターは競合他社に取り残されるリスクがある。たとえば、IPGメディアラボのサイモン氏は、ユーザー固有の推奨コンテンツではなくコンテキストに応じた推奨で知られているNetflixは対応に苦労する可能性があると述べている。
「(Netflixの)レコメンデーションが優れているとかつては話題になったが、Netflixの発展はあまり速くなかった」とサイモン氏。「これは、ストリーミング分野で差別化要因になる可能性のあるもののひとつだ。ユーザーがある番組や映画を見終わったときにユーザーに新しいコンテンツを提示する方法、それらのインターフェイスがどのように見えるか、(ユーザーに)次に視聴するものを推奨することについて(ストリーミングサービスは)どれほどスマートであるかなどが考えられる」。
FGXインターナショナルのジェランタビー氏は、コンテクスチュアルパーソナライゼーションは単に関連製品を提案するだけにとどまらずそれ以上のものに進化しなければならないと述べている。「優れたAIは『あれを買ったので、これが気にいるかもしれない』と言うだけではなく、最終的には(消費者が)どこで躊躇するかを理解できるようになると思う。AIが『この製品を断念した。…では、こちらが、簡潔に自信を持って決断するのに役立つ動画または補足コンテンツだ』と言えるようになるかもしれない」。
「(今までの)例の多くは非常にバーティカルだ。動画を配信するための動画、購入製品を提供するためのショッピング」とジェランタビー氏は付け加える。「それらが組み合わせられたときに魔法が起こるのだが、私はまだその実例をあまり見たことがない」。
重要な調査結果
•マーケターの36%は自社のコンテンツはそれが表示されているページのコンテキストに基づいて調整されていると回答した。つまり、コンテクスチュアルパーソナライゼーションはパーソナライゼーションのあまり一般的な形式ではないといえる。
•コンテクスチュアルパーソナライゼーションは実行するのが容易であるが、消費者からあまり共感されない可能性がある。
CATHERINE WOLF and LI LU(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)