FOUR PRINCIPLES OF BRANDING IN THE DIGITAL ERA

レイ・イナモト の『デジタル時代のブランド構築 4つの法則』 : その1.「スケール」から「スピード」へ

本記事は、ニューヨークを拠点に世界で活躍するクリエイティブ・ディレクターであり、ビジネスインベンションファーム「I&CO(アイ・アンド・コー)」共同創業者のレイ・イナモト氏による寄稿となります。

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「デジタルでブランドを作るのって、可能なんですかね…」。こんなご相談をいただいた。日本に本社をおく某大企業の、マーケティングディレクターの方からの相談だ。

ソーシャルメディアなるものが世の中に現れて10年以上が経ち、日本にもようやく「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が定着してきた。そんななか、コロナというパンデミックでデジタル化が一気に加速し、菅義偉首相が就任後初の記者会見で「デジタル庁」の発足を明言するなど、日本もいよいよ変わり始めている。世界に目を向けると、アメリカのEC業界ではこの10年をかけてようやくなし得たのと同じくらいの成長を、この春から夏にかけての10週間ほどで遂げていることがデータで明らかになっている

こうした背景から、全世界の大企業をはじめとする多くの企業が、マーケティング予算をデジタルにシフトしている。一方で、いわゆる『今までのやり方』でもある程度効果が出てしまっていたり、デジタルといえばパフォーマンスマーケティングに偏ってしまったりと、人の心をつかむコミュニケーションとデジタルは結びつき難い。そして「やっぱりリアルじゃなくちゃね」と、デジタルの力を疑う人もまだまだ多いのが現状だ。

リアルが消えることはない。そしてデジタルはもっと成長する。そんな21世紀にどうやって人の心を掴み、ブランドを築き、ビジネスを成長させれば良いのだろうか?

2020年、世界でコロナが猛威を振るい、時代が大きく前に進んでいる。もちろん、企業も前に進まざるをえない。そんななか、ポストコロナ、そしてポストデジタル時代のブランド構築の在り方を、4つのパラダイムシフトを基に考えてみた。

 

 

今回の寄稿連載では全5回に渡り、この4つのパラダイムシフトを紐解き、総括をしていきたいと思う。

法則その1.「スケール(Organizational Scale)」から「スピード(Functional Speed)」へ

「大企業病」という言葉に甘える日本企業

世界はコロナに襲われたおかげで10年後の未来を目の前に突きつけられた。それこそ企業が数年かけてやろうと思っていたDXが…。あたふたしている会社が今、世の中に溢れている。

変革に迫られたとき、「組織のスケール(規模)」はいろいろな意味で強みになる。一方で足かせにもなり、大きな企業は恐竜のようになりかねない。実際、日本の企業は「大企業病」に見舞われている場合が非常に多い。だが、多くの企業がこの「大企業病」という言葉に甘え、「大きな組織=遅い」という事実をある意味で当然のこととして受け入れてしまっているのではないだろうか?

スポーツの世界に「ファンクショナルスピード(Functional Speed:機能に応じたスピード)」という言葉がある。その象徴が、1980年代から90年代に大活躍をしたジェリー・ライスというアメリカン・フットボールの選手だ。彼は決して足の速い選手ではなかった。しかし一番必要な時に加速したり、そうではない時には減速する、その見極めを本能的にできる選手であった。

デジタルが完全に当たり前になった今ものをいうのが、この臨機応変なスピードの使い分けだ。特に世の中がコロナのような災禍に晒される状況下では、その規模に関係なく、会社そしてブランドの本質的な強さが浮き彫りになる。

GoogleとFacebookの迅速なスピード

コロナ禍でこの「ファンクショナルスピード」を見せたのが、超大企業であるGoogleそしてFacebookだろう。コロナ禍が始まってすぐの頃は「Zoom(ズーム)」が一歩先を行き、私の肌感覚ではあるが、オンラインのコミュニケーション手段としてもっともよく耳にするサービス名となった。

Zoomが多くの人に受け入れられた理由のひとつが、「ギャラリービュー(Gallery View)」という機能だ(もちろん映像の質が良いという事実もあるが)。参加者を横並びではなくマス目状にレイアウトする「ギャラリービュー」は、多くの参加者を同時に見られるところが使い易いと人気になった。オンライン会議システムとしてはGoogleが2013年にGoogle Hangout(現Google Meet)を、Facebookは2016年にグループビデオチャット(Group Video Chat)を発表していたにもかかわらず、Zoomの「ギャラリービュー」のような機能にあまり注力していなかったため、一気に追いつかれたのである。しかし、それを脅威に感じたGoogleとFacebookのスピード感もまた見事であった。パンデミックの猛威が始まり数週間が経った2020年5月後半には、Zoomのギャラリービューとほぼ同じ機能を発表したのだ。

図1

引用:Zoom

ソフトウェアやデジタルプロダクトのデザインや開発に携わった経験のある方ならお分かりだと思うが、このような機能のアップデートは1年以上かかってもおかしくない。ところがGoogleとFacebookの両社はほんの数週間でZoomという競争相手に対応している。

コロナは、GoogleやFacebookが超大企業でありながらもこの「ファンクショナルスピード」を持ち備えている組織であることを証明した。もちろん常時すべてのことに対して素早く動けるに越したことはないが、それは非現実的である。GoogleとFacebookの両社は、見事にその力を発揮した。

だが理解していただきたいのは、ここで重要なのが「速さ」そのものではないということだ。もうひとつ事例を挙げよう。

速さよりもクオリティを重視したディズニー

アニメーションに始まり映画、遊園地、コンテンツなどエンターテインメントの世界的リーダーであるウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company)が2017年9月、ストリーミングに参入することを発表した。しかし、当時すでにNetflix、Hulu、Amazon Primeなど複数のストリーミングサービスが存在していたため、世間の反応は「いくらディズニーでもストリーミング戦争に勝つのは難しい」という冷たいものだった。その後、ディズニーはデザインと開発に2年以上の時間を費やし、2019年11月12日に「Disney+(ディズニー・プラス)」を発表する。

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引用:Disney

それから2〜3カ月も経たないうちに世界がコロナに襲われ、人々が家に籠らなければいけなくなり、ストリーミングのビジネスに予期せぬ成長の機会が訪れたのは周知のとおりだ。このときローンチから1年足らずだったディズニー・プラスは、なんと7000万人のユーザーの獲得に成功した。歴史上もっとも成功したビジネスの立ち上げのひとつだろう。

参入のタイミングも開発にかけた期間も、「スピード」があったとは決して言えない。このときの勝因は、しっかり時間をかけて良いものを作ることを決断し、実行した点にあったといえるだろう。当時のディズニーの社長ロバート・アイガーは、経営者として見事に「スピード(Functional Speed)」を使い分けたのである。

そして、ブランドが自己のスピードを使い分けることに、実は組織の規模は関係ないのだ。

これからの時代におけるブランド構築の姿

 「スケール(Organizational Scale)」から「スピード(Functional Speed)」へ。「スケール」に頼り、多大なブランドキャンペーンにお金を費やしていたのが今までのやり方だとすれば、Googleやディズニーのように「スピード」を使い分け、お客様のニーズを理解しデジタル上で答えていくことが、これからのブランド構築の姿だといえる。

つまり「デジタルでブランドを作る」ことは可能なのである。

「デジタル時代のブランド構築、4つの法則」の次回は、『「独自の売り(USP)」から「独自の視点(POV)」へ』について考えてみたいと思う。

Written by レイ・イナモト
Image from I&CO(アイ・アンド・コー)