ロシアのウクライナ侵攻が始まってから3週間以上が過ぎたが、米国や英国、EUはロシアのラグジュアリー市場を対象に新たな経済制裁を講じた。その一方でウクライナのファッション業界は、ビジネスへの長期的な影響に対して覚悟を決め、ウクライナ拠点のデザイナーは国際ファッションコミュニティからの継続的なサポートを求めている。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ロシアのウクライナ侵攻が始まってから3週間以上が過ぎたが、米国や英国、EUはロシアのラグジュアリー市場を対象に新たな経済制裁を講じた。その一方でウクライナのファッション業界は、ビジネスへの長期的な影響に対して覚悟を決め、ウクライナ拠点のデザイナーは国際ファッションコミュニティからの継続的なサポートを求めている。
ラグジュアリー製品の対ロシア経済制裁
英国は、3月15日、EUとG7諸国に加わって、高級品の経済制裁を決定、来週から高級車やラグジュアリーファッション、アートなどの品目の輸出禁止が実施される。また、追加の輸入関税が銀や銅、毛皮や人工毛皮に課されることになる。まだそのリストは最終的ではない。英国財務大臣のリシ・スナック氏は声明の中で、「この新しい関税は、ロシア経済を世界貿易からさらに孤立させ、ロシアが尊重しない規則に基づく国際システムの利益を受けられないようにする。これらの関税は英国の既存の取り組みに基づいており、ロシアの国際金融へのアクセスを枯渇させ、プーチン大統領の仲間を制裁し、彼の政権に最大の経済的圧力をかけるものだ」と述べている。
Advertisement
G7諸国とEUが協調して3月11日に最初に実施された制裁措置は、ロシアでの高級品の主な購入者であるオリガルヒやプーチン大統領の仲間にさらなる圧力をかけることを狙ったものだ。以前の高級品の経済制裁も議論されたが、今回の新しい制裁は各国からの特定の商品の直接の輸出を対象としている。米国の場合は、1000ドル(約1.2万円)以上の価値のある化粧品ブランドやスニーカー、セーターやスキースーツ、高級時計などがリストされているが、衣類カテゴリーのすべてが含まれるわけではない。
米国商務省の声明の中で、輸出管理の商務長官補佐であるセア・D・ロズマン・ケンドラー氏は次のように述べている。「これまではラグジュアリー製品の規制は無法国家の北朝鮮だけが対象だった。それは、国民が困窮しているのに指導者とその政治的仲間が贅沢な生活をしている政権だ。今日のこの行動は、プーチン氏と、ロシアとベラルーシの彼の仲間たちに、彼らが引き起こした恐怖は世界から強く非難されていることを思い出させるだろう。米国、そして米国の同盟国やパートナーは一致団結して、ウクライナ侵攻を続けるロシアとベラルーシに厳しい措置を課していく」。
欧州のラグジュアリー業界は世界最大であり、推定価値は8000億ユーロ(881億ドル、約11兆円)、EUの輸出の10%以上を占めている。欧州委員会によると、EUの制裁によるロシアへの影響は米国による制裁よりももっと深刻になる可能性があるという。3月11日、ベルサイユ宮殿で行われたこの戦争に関するEU首脳会議後の記者会見で、EU委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏はEUの生産量の60%以上がEU以外への輸出用に販売されていると言い、「プーチンの戦争システムを維持する人々は、ウクライナの罪のない人々が爆撃されているあいだは贅沢なライフスタイルを楽しむことはできない」と述べている。ロシア人観光客は海外でラグジュアリー製品を購入しているが、LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)やケリング(Kering)、リシュモン(Richemont)のような主要ブランドは追加の経済制裁によるさらなる影響を経験することになり、一時的であるが、店舗を閉店している。
ウクライナのファッション業界の国際社会への訴え
国際ファッションコミュニティと海外在住のウクライナ人による継続的な尽力は、侵攻での防衛線を強固にするのに役立っている。キエフを拠点とするデザイナーのクセニア・シュナイダー氏は、当初ソーシャルメディアでウクライナについて取り上げられなかったことにショックを受けたという。「ヨーロッパの真ん中でこんな恐ろしい戦争が起こっているのに、それが無視されていることに衝撃を受けた。私はインスタグラムに投稿したりして、必死だった。いまでは、ヨーロッパ最大の国のひとつ(パリからフライトで2時間ほどの距離)が危機に瀕しており、人々が苦しんでいることに気づいてもらえた。ファッションメゾンからの寄付や、ブロガーの投稿や、業界人からの支援の言葉が寄せられている。本当にありがたい。私が言いたいことはただひとつ、『支援を続けてくれ。この戦争が終わるまで、平和のために戦い続けてほしい』」。
ウクライナのデジタルファッションデザインハウスらは、同国で起こっている侵略行為とこの4週間の情勢に対して、とくに資金調達と教育への取り組みに力を入れている。ロシアのウクライナ侵攻に関して、ヴォーグのシンガポール版(Vogue Singapore)とウクライナ版(Vogue Ukraine)が協力して、ウクライナ出身のデザイナーとアーティスト6人による「平和のためのファッション(Fashion for Peace)」NFTコレクションを立ち上げた。その収益はセーブ・ザ・チルドレン(Save The Children)に寄付される。ウクライナ版編集長であるフィリップ・ウラソフ氏は、3月16日のTwitterスペースで、世界中のヴォーグ誌が未発行のヴォーグウクライナの印刷版からの記事を掲載するよう取り組んでいると述べた。
ほかのデジタルファッション企業はこの機会を利用して、収益の向上と新規のパートナーシップの構築にコミュニティを関与させることを目指している。ウクライナのARデジタルファッションブランド、FFFACE.MEのCEOであるディミトリ・コルニロフ氏は次のように述べている。「我々のコレクションリリースのPRキャンペーンを行っている間に戦争が始まり、驚いた。そのプロセスを中止しなければならなくなった。だが、相手に弱体化されたり、自分たちの計画を台無しにはさせてはならないと思った。我々はもっと強くあらねばならない」。
同社のこの戦略は現在拡大しており、ウクライナとウクライナ人を支援する基金に収益を寄付したり、タイムリーなプロジェクトにもフォーカスしている。コルニロフ氏は、「我々は強くあり、仕事を続けて、平和な世界の再建に積極的に貢献しなければならない。なので、我々は、国際的なブランドからのデジタルファッションコラボレーションの要望に応じて、(移転先の)ベルリンで会う準備がある」と述べている。
[原文:Fourth wave of sanctions by the US, UK and EU on Russia bring ban on luxury products]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)