匿名性を保証する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回はフリーのクリエイティブディレクターがエージェンシーとの関係性、支払い問題、時間管理、そして、問題が多々あるにもかかわらずフリーランスが依然として魅力的な理由について、本音を聞かせてくれた。
市場の主流がエージェンシー主導型からプロジェクトベースに移行するなか、多くの企業が以前にも増してフリーランスに依存している。フルタイムの正社員を使う代わりに、プロジェクトの期間だけフリーの人材を加えれば、必要に応じて契約期間を調整するなど、エージェンシーにはより柔軟な対応が可能になる。
匿名性を保証する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回はフリーのクリエイティブディレクターがエージェンシーとの関係性、支払い問題、時間管理、そして、問題が多々あるにもかかわらずフリーランスが依然として魅力的な理由について、本音を聞かせてくれた。
なお、読みやすさを考慮し、発言には多少編集を加えてある。
Advertisement
──なぜフリーになろうとしたのか?
エージェンシーの社員としてしていることは、独立してもできると気づいたからだ。それと、いくつかのエージェンシーで男性からセクハラを何度も受けた、というのもある。(セクハラについて)私には何もできなかった。人事部に訴えられないのはわかっていたし、クリエイティブディレクターになる前は、特にそうだった。とにかく[社内]政治には巻き込まれたくなかった。それで、フリーになれば、(そういう劣悪な)環境を我慢しないで済むと思ったのだ。いまは、傭兵として行き、終わったら去るわけだから、気楽だ。それと、いろいろなプロジェクトに加わって、垣根を越えてさまざまな経験もできるのもいい。エージェンシーでは普通、[決まった数の]ブランドとしか仕事ができない。でも私は、1年を通じてさまざまなプロジェクトに関わりたい。それなら、スキルも磨き続くことができるし。フリーになったいまは、エージェンシーの良い所と悪い所がよくわかる。
──セクハラに対して声を上げられないと感じた理由は?
パンドラの箱を開けることになるからだ。そういう人間がいるということは、誰もが知っている。でも、それが許されている文化がある。思い切って内部告発者になるのか。そのせいで、みんなから変に注目されて、多くの人をトラブルに巻き込むことになるのか。(そうやって悩むくらいなら)さっさと辞めて、新天地でやり直すほうがずっと楽だ。もしもセクハラを訴えたら、パンドラの箱が開いて、絶対に面倒なことになるし、そうなったらもう、仕事どころじゃなくなる。嫌でもそれと向き合うことになるし、どっちみち会社を辞めることになるだろうから。
──エージェンシー時代よりも、フリーのほうが儲かる?
ビジネスとして割り切れて、景気が良ければ、稼げるのは確かだ。ただ、仮にそうだとしても、馬車馬のように働かされることにはなる。広告エージェンシーはフリーの人間を自分の所有物だと勘違いしているから。ハマったら最後、仕事が終わるまで家には帰れない。でも、私の場合は、自分の時間のほうが大切だ。エージェンシーに縛られず、自分自身のプロジェクトや、いろいろなことができる自由な時間が持てるほうがいい。エージェンシーにいると、健康管理もままならない。17時にはまず帰れない。それをさせてくれるエージェンシーは、ないに等しい。
──フリーランスへの支払いは遅いのでは? クライアントからエージェンシーへの支払い窓口がいわば長くなったことで、フリーランスへの支払い時期にも影響が?
確かに、それはある。昨年仕事をしたエージェンシーでは、60日も待たされた。フリーの身にとって、2カ月はあまりに長いし、これは受け入れるわけにはいかない。フリーの場合、たいていのものは自分で買わないとならないからだ。必要なツール、保険、ソフトウェア、もちろんPCも。諸経費はかなりの額に上る。機材も医療費や健康維持費もすべて自分持ちだ。休暇もなければ、病欠制度もない。誰も何も保証してくれない。病気で働けなくなったら、それがそのままお財布に響く。
──プロジェクトベースの仕事が増えるなか、フリーランスへの依存度が高まっている気がする。エージェンシーとの関係性に変化は?
実際、多くの企業がフリーランスを頼りにしている。新しい仕事を勝ち取って、それをすぐさまはじめる必要がある場合や、仕事量が多すぎて手が回らない場合、彼らはフリーの人間を起用する。多くのエージェンシーは実質、フリーランスが動かしていると思うが、それは誰も口にしない公然の秘密だ。もっと言うと、フリーランスが手がけた作品を出展して、カンヌライオンズで賞を獲ったエージェンシーもいくつか知ってる。バレたら、面目丸つぶれだが、これも誰も口にしようとしない。賞を獲る仕事をしているのは、結構な割合で、フルタイムの従業員じゃない。私のような傭兵がやってるのだ。
Kristina Monllos(原文 / 訳:SI Japan)