国際広告賞「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」のグラスライオン(Glass Lion)賞で、性差別の問題に取り組む広告キャンペーンをどれだけ表彰したところで、エージェンシーでは性差別が依然として健在だ。
フリーランスのクリエイティブ・ディレクターで、レオ・ブルネット(Leo Burnett)やBBDO、ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)といったエージェンシーで働いた経験があるリサ・レオーネ氏は、業界で過ごした15年間に味わったつらい経験を「Medium(ミディアム)」で詳細に記した。
国際広告賞「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」のグラスライオン(Glass Lion)賞で、性差別の問題に取り組む広告キャンペーンをどれだけ表彰したところで、エージェンシーでは性差別が依然として健在だ。
フリーランスのクリエイティブ・ディレクターで、レオ・ブルネット(Leo Burnett)やBBDO、ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)といったエージェンシーで働いた経験があるリサ・レオーネ氏は、業界で過ごした15年間に味わったつらい経験を「Medium(ミディアム)」で詳細に記している。
記事には、昇進候補から外されたこと、クリエイティブパートナーから言い寄られたこと、会議で発言しないようはっきり言われたこと、ある年の「女性採用枠」が埋まってしまったので採用できないと言われたことなどが書かれている。
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レオーネ氏は、米DIGIDAYの取材に対して、次のように語った。「私はいつでも、自分の体験を人々に話してきたが、こうしてひとつの記事にまとめてみるまで、それがどんなにおぞましいものだったのかがわからなかった」。
男性のように考え、振る舞ってきた
レオーネ氏によると、仕事場で過ごす時間は、基本的に自分の女性らしさを出さないようにしていたという。男性と同じになることが出世するための唯一の方法だったからだ。同氏は、次のように記している。
私は、キャリアのほとんどを、自分が女であるという事実を隠すよう努力しながら過ごしてきた。15年以上ものあいだ、女性向けのプロジェクトやブランドの仕事は断っている。そのような仕事の話は毎年あり、男女どちらがやっても問題ないといえそうなプロジェクトもあったが、私は断り続けてきた。私は型にはめられたくはなかった――ただ、男性と同じ道を男性と一緒に走りたかった、男性と同じように行動したかっただけだ。だが、実際に彼らと同じ行動をとると……私は「面倒なやつ」と呼ばれるようになった。
女性の進出に関して、エージェンシーの世界で横行するリップサービスは、諸刃の剣になりうる場合が多い。そんな厳しい現実を思い出させる例をレオーネ氏は、ひとつ紹介している。
クリエイティブディレクターの採用面接を受けに行ったときのことだ。「あなたの仕事は実に素晴らしい。だが、このレベルの女性クリエイティブディレクターは募集していないんだ」といわれた。その年の女性採用枠は一杯になってしまったに違いない。どうやら悪いのは私の方のようだ。
「君は我々のようになれるか?」
大手エージェンシーのグローバル最高経営責任者(CEO)が最高コミュニケーション責任者(CCO)からセクシャルハラスメントで訴えられ、どこからどう見ても性差別と思われる広告が、カンヌライオンズで銅賞を獲得するような年に、レオーネ氏の記事は、創造性や多様性を擁護すると謳っている業界に身を置く女性の、なんとも気の滅入る現実を思わせる。
ここに挙げたような問題は、この業界にいる多くの女性にとってお馴染みのことなのだろう。米DIGIDAYでは2012年、広告業界に生きる女性の生の声を伝える記事を「告白」シリーズの1本として掲載した。最初は匿名が条件だったが、掲載から1週間がたったとき、取材対象者が実名を公表する決意をした。その人物とは、当時はソーシャリスティク(Socialistic)のCEOを務めていて、現在はワイデン・アンド・ケネディ(Wieden and Kennedy)の共同エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターであるコリーン・デコルシー氏だ。
デコルシー氏は、何度もセクハラに遭った経験を思い起こし、記事にこう記した。「非常に活気に満ちたクリエイティブ業界に浸透している、『ガイズ・ガール』(男性のように振る舞うことのできる女性)の精神構造について、決して語られることのない、微妙なニュアンスが存在する。私は、自分のキャリアにおいて『男性に混じっている』を、深く考えたことがなかった。それはすでに、私のパーソナリティーの一部だったからだ。だが、この話を私が耳にしたことがないという事実は、女性のなかにはそれができる人と、できない人がいるからだと思う。エージェンシーの幹部たちが従業員に言い続けていることは結局、『君は我々のようになれるか?』ということだ」。
無理解は解決に向かうのか
レオーネ氏は、ジェンダー問題に注目が集まるようになったことは、女性にとっていくつかの点で、良い面も悪い面もあると指摘する。職場での言葉遣いや行動について、人々の認識が高まる一方で、昔ほど露骨ではないにせよ、よくないことは起こり続けているという。
「そうした文化の加害者たちが、ジェンダー問題を先導する方法を見つけてしまった」と、レオーネ氏。同氏はこの件について、法的手段に訴えることができるかどうか調べてみた。しかし、彼女の身に起きたのは明らかに間違ったことだなのだが、多くのケースでそれは厳密な違法行為ではないといわれたと、レオーネ氏は付け加える。
代理店、ピュブリシス香港(Publicis Hong Kong)のアソシエイト・クリエイティブ・ディレクターであるアミット・グルナニ氏もまた、4月に米DIGIDAYが掲載した論説文のなかでこの問題に触れている。現在の広告業界における性差別は、ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)のCEOであるグスタボ・マルティネス氏が性差別で訴えられたことが問題なのではない。世界最大の代理店複合企業、WPPのCEO、マーチン・ソレル氏が、性差別が業界に「はびこっている」ことを公に認めたことが問題なのでもない。
むしろ、レオーネ氏が指摘した事実を広めることが重要で、差別やハラスメントがより微妙かつ悪質になり、エージェンシーの文化に深く根付いていることの証だ。グルナニ氏は次のように述べている。
ときおり、男性は愚かにも、女性の同僚を人間としてではなく「女性」として見てしまい、その結果、性差別に当たる状況が生まれる。新ビジネスに向けてワクワクするような提案会議を開くのに、男性のアカウントディレクターでは食事の手配に気が回らないようなものだ。そうした役目は、女性であるプロジェクトマネージャーに回ってくる。なぜなら、彼女は「母親役」だからだ。
業界平均では、広告業界で幹部や管理職に就いている女性は全体のわずか11%に過ぎない。
Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)
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