【AWAsia】 落合陽一 が語る、広告業界が取るべき未来戦略:「マス広告の果たす役割は大きい」

現代の魔術師は、現代の広告をどのように捉えているのか?

5月14日から4日間にわたり、アドバタイジングウィークアジア2018(Advertising Week Asia 2018:AWAsia 2018)が、東京ミッドタウンにて開催された。イベント2日目となる16日には、メディアアーティストであり、筑波大学准教授を務める落合陽一氏が、「日本再興戦略~広告業界が取るべき未来戦略とは」と題されたセッションに登壇している。

「テクノロジーが進み、あらゆるものがパーソナライズ化するなか、広告も同様のことが起きている」と、テクノロジー、アート、経済、政治、教育など、さまざまな分野に精通している落合氏は語る。セッションでは、同氏が2018年1月に上梓した『日本再興戦略』で触れた、広告がこれから果たすべき役割について語られた。

人口減少社会の処方箋

「1945年頃から2000年代初頭の日本では、ハードウェアと物的資源をいかに拡充していくかが戦略の要だったが、状況は大きく変わりつつある」と、落合氏は口火を切る。人口が減り続けるなか、同様の戦略を推し進めるには無理があるという。「我々は、これまで広げきた枝葉をどう切り捨てていくかを考えなければならない。インフラを撤退させつつ、いかに生産性をあげていくかが重要だ」。

また、落合氏は「個々の多様性にハードウェアで対応していた従来のやり方では、コストがかかりすぎて現実的ではない」と続ける。ソフトウェア(仕組み)を活用し、プロダクトをハッカブル(可変可能)なものにすることで、生産性と多様性を担保できるという。

「テクノロジーを活用して、ユーザー自らの手でプロダクトを自身に最適化できるような仕組みを作ることができれば、コストもかからず生産性を向上させることも可能だし、多様性にも対応することができる」。AIという仕組みを活用すれば、義手や義足もエンドユーザーが自分の身体に最適化させられるような、ハッカブルなものにすることも可能なのだ。

広告が果たすべき役割

しかし、「そうしたテクノロジーが発展した世界における自然と人工物の関係は、一周回って限りなく近いものになる」と、落合氏は指摘する。個別最適化されたプロダクトは、もはや身体の一部になり、自然と人工物の隔たりは融解していくのだ。「得体の知れない人工物を目の前にして人々が感じるのは、おそらくある種の『気味悪さ』だ」。

「私が思うに、そもそも広告の本質的な役割とは、人に物事を認知させたり、新規に参入してきたものを世の中に浸透させることだ」と、落合氏は語る。この点で、マス広告はテクノロジーに支えられた社会において非常に大きな役割を果たすという。マス広告は、『得体の知れないもの』を広く社会に認知させ、浸透させてくれるからだ。

みなが同じものを目にし、耳にしていたかつての日本でならば、マス広告は大きな影響力を発揮し、メディアメッセージによって国民の考えをひとつの方向に向かわせることができた。しかし、いまは違う。視覚や聴覚だけでなく触覚までもが情報伝達手段となり、コミュニケーションは旧来の劇場型から個別最適化された形に移行している。人々と情報の接触面は、我々の生活のあらゆるところに組み込まれ、そこでのコミュニケーションも、(デジタル広告に見られるように)パーソナライズされていく。

「いままでの広告というのは、おそらくクオリティコントロールされたひとつのプラットフォームがあってはじめて、大きな影響力を持っていた」と、落合氏は分析する。テレビCMも、テレビというクオリティが担保されているプラットフォームを活用することで、多くの人にリーチすることできたのだ。「いま我々が取り組むべきは、コミュニケーションが分散していくなか、質を損ねずにメディアメッセージ発信していく仕組み作りだ」。

マスとパーソナライズの両輪

では、マス広告はなくなってしまうのか? 落合氏は「いま一度、大きなコンセンサスを得られるようなマスコミュニケーションが必要だ。その絶好のチャンスが、来たる東京オリンピックだと思っている」と、主張する。重要なのは、マスとパーソナライズのどちらかではない。その両方が必要なのだ。「この講演の前にも個別取材で、『マス広告はなくなりますか?』という質問を受けたが、マス広告が完全になくなることはないだろう」。

「テクノロジーにより、『得体のしれないもの』が次々に世に出ていくなか、コミュニケーションの場を提供するという点で、マス広告の果たす役割は大きい。マスとパーソナライズが行き交うのが、これからの広告のあり方だ」。

※DIGIDAY[日本版]は、アドバタイジングウィークアジア2018(Advertising Week Asia 2018:AWAsia 2018)のメディア・パートナーです。

Written by Kan Murakami
Photo from yoichiochiai.com