テレビCMは、いかに指数化するべきなのか? 〜境界線なくなるデジタルとアナログの広告世界

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このコラムは、デジタルインテリジェンス代表取締役・横山隆治氏へのインタビューをもとに、DIGIDAY[日本版]編集部がテキストにまとめたものになります。

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昨今、デジタル広告はリターゲティング広告(サイト訪問歴や行動履歴から商品への興味関心が顕在化したユーザーに打たれるディスプレイ広告)に偏重しています。CPA(顧客獲得単価)という単一の評価基準に釣られ、皆がひとつの顕在化した行動に寄ってたかるようになりました。

こうした広告は、いくばくか顕在顧客を「刈り取れる」部分が存在するので、投資対効果をあげていると評価されています。ですが、何度も画面に現れるせいで、ブランドを毀損している広告もなかにはあるでしょう。しかも、CPAはスケールを担保する数字ではありません。

広告とはそもそも、関心なり行動を喚起するものであり、潜在層へいかに訴えかけるかを問うものです。そのためにはテレビCMは大きな効果があります。しかし、その活用方法には見直しが必要であり、デジタルと融合を図っていくことも重要です。現代のメディアプランニングには、アナログとデジタルをまたいだ高度な知識が必要とされるのです。

前回の記事では、テレビの視聴「質」について触れました。今回はその部分を掘り下げ、米国の先行事例に目を向けます。

テレビCMの新しい捉え方

ディスプレイ広告や動画広告で用いられる指標「ビューアビリティ(可視性)」。実は、米国においてはテレビCMにも応用されています。さらに近年、アテンション(関心)も採用され、「視聴質」を測る方向にシフトしてきました。

たとえば、マサチューセッツ工科大学(MIT)のベンチャーで起業されたテレビジョンインサイトという企業。2015年6月から東京においても100世帯で実施しているのですが、Xboxシリーズの専用周辺機器「Kinect(キネクト)」を利用して、テレビ視聴者の顔を認証し、家族のうち誰がみているか調べられるのです。

具体的には、Kinectで肩と顔の向きを認識して、視聴者がちゃんとテレビ画面を専念視聴しているのか、それともスマホなどを操作しつつ「ながら視聴」しているのかを、テレビCMの映像のコマと音声を掛け合わせて計測しているのです。また視聴者の表情も、スマイル、サプライズ、ネガティブ、ニュートラルの4つに分けて、記録することができます。

クリエイティブを指数化

この調査では、テレビのスイッチがオンの状態のことを「視聴」と定義し、テレビが点いていてテレビの視聴できる範囲に視聴者がいる状態をビューアビリティ、画面を注視しているのをアテンションとして指数化。これにより、番組やCMの視聴質を測定するのです。

加えて、アテンションがブランド認知と態度変容(購入意向など)に相関することを被験者へのアンケート調査で確認。多くのサンプルを通して、なにがアテンションに寄与するのかを分析すれば、クリエイティブに関する知見が溜まっていくと期待されているのです。

これまで私は、数々のテレビCMのパフォーマンスを分析してきましたが、クリエイティブはメディア数値を含めた変数の中でも最大の変数だと考えられます。ところが、クリエイティブパワーを数値化することは、ずっと課題のままでした。

ネットとテレビは比較できない

以前、とあるブランドの宣伝部長の依頼で、ブランドサイトの特定のURLのページビュー(PV)数と、ブランドのショップの送客数に相関関係があるかを調べたことがありました。その結果、それらには相関があったので、これを中間指標として、テレビCMやネット広告の予算配分を見直すことになったのです。

そのとき、クリエイティブをいかに変数として数値化するべきか議論となりました。そこで試しに、素材A、B、Cをオンラインで配信し、秒間離脱データを計測してみました。それぞれ、10万ストリームくらいでしょうか。

実際に測れたデータで、A、B、Cのクリエイティブを比較して、ネット広告について議論することはできました。しかし、その結果を、テレビCMに参照することはできませんでした。オンラインで取得したデータは、オンラインにおけるABCの相対比較でしかなく、オフラインのCMにそのまま当てはめることはできないはずだからです。

サンプルテストにも疑問

とあるグローバル消費財メーカーは、テレビCMに対してとても厳しいクリエイティブチェックを行います。ある一定の基準を越えないと放送しません。そのチェックには、サンプルの人間を集めて、クリエイティブを視聴させるという手法をとります。

しかし、この手法の有効性に、私は疑問を持っています。無理やり「観て」と言われ、感想を求められるのと、実際のテレビ視聴という極めて受動的な環境で観るのでは、全然状況が異なるからです。

ユーザーの反応を科学するには

生活習慣上、朝帯より、ゴールデンタイムの方がビューアビリティが高く、必然的にその時間に放映されるテレビCMのビューアビリティも高い。では、朝帯でCMを打つことは効率がよくないかといえば、そうではなく、たとえば化粧品であれば、朝は身支度しているの時間帯なので、女性はお化粧の最中でしょうから、広告を打つにはいいタイミングといえます。そこで、朝帯向けのCM素材はプッシュ力のあるナレーションや音楽に工夫を加えると提案することができます。

テレビのプッシュ力の根源は音。この重要な特性を活かすべく、テレビCMを作る際は、あらためて視聴の質を想定したオーディオ要素とビジュアル要素を掛けあわせて考えるべきなのです。ハリウッド映画やNetflixもそうですが、映像を作る際に視聴者の脳波や心拍数を計測して、どんなシーンや音に反応するのかを科学しています。

アクチュアル保証という仕組み

テレビCMの場合、広告枠の買い付け時に想定された視聴率によって、価格が決まります。放送後に想定と実際の視聴率に差異が生まれるのは当たり前なのですが、その差異に対する補填が米国では行われています。これをアクチュアル保証と呼びます。

いまアメリカではこの補填を、テレビCMでするか、オンラインでするかを局におまかせというプログラムもあります。ある意味テレビCMとオンラインの動画CMを一緒に考えたもの。なぜなら、アメリカのテレビは、日本よりも劇的に到達力が落ちていて、広告主が到達目標を達成するためには、どうしてもオンラインのインプレッションをかき集めなければならないからです。

残されている課題とは

ターゲット若年層においては、到達させたいマーケティング目標に、テレビCMだけでは到達できない時代となりました。広告主は一生懸命、ほかの在庫を探しています。

留意すべきは、昨今、人々のメディア消費行動がさまざまなデバイスによって断片化(フラグメンテーション)していることです。ただし、テレビでウケたクリエイティブは、YouTubeに転載されても力を発揮できると思いますが、タブレットやスマホの画面で、テレビ画面ほどの訴求力を得られるかは疑問が残ります。

また、業界の流れを変えるのにも時間がかかるでしょう。たとえば、広告効果に関して厳しい基準を設けるグローバルブランドはすでに、米インタラクティブ広告協議会(IAB)が定めるような緩いビューアビリティに関するルールより厳しい基準を設け始めています。

個人インプレッション数

これからは、テレビとデジタルの架け橋となる指標が必要なのです。そのために、テレビ視聴の取引通貨を、GRP(延べ視聴率)ではなく、ターゲットインプレッション数(表示回数)に移行してみるべきだと思います。これによりリーチとフリクエンシーの「数」の掛け算になり、個人がCMに接触した総数を導き出すことができる。私はこれを個人インプレッション数と呼んでいます。

人口減少を加味したり、エリアをまたぐ到達量の評価には、個人インプレッション数での測定が有効。アメリカの業界では10年も前から、スーパーボウルを1億何千万人観たと表現していました。現行の視聴「率」には見えない部分が、絶対数での評価により担保できるのです。

Interviewee is 横山隆治
Text by DIGIDAY[日本版]編集部
Photo by Thinkstock / Getty Images