マーティン・ソレル氏がCEOから退いたあと、WPPグループのCEOに就任したマーク・リード氏は、ここ3年間、ワンダーマン(Wunderman)の舵を直接取ってきた。いまでは、彼らのホールディングカンパニーにおいて、ワンダーマンは高く評価された部門としての地位を確立している。
マーティン・ソレル氏がCEOから退いたあと、WPPグループのCEOに就任したマーク・リード氏は、グループがよりスリムに、敏速になる必要があるという方針を明確にしてきた。彼はY&RとVMLを統合して新エージェンシーVMLY&Rを作ったが、これもこの取り組みの一環だ。しかし、残されているものがある。それが、ワンダーマン(Wunderman)だ。派手なY&Rが抱える、ダイレクトメールや店内広告といった落ちぶれたビロウ・ザ・ライン部門として、ワンダーマンは以前は認識されていた。
しかし、ここ3年間、リード氏はワンダーマンの舵を直接取ってきた。いまでは、彼らのホールディングカンパニーにおいて、高く評価された部門としての地位を確立している。デジタルとコマースの重要性、特にAmazonがそのカテゴリーにおいて最高位に位置するリーダーとして君臨すると読んだことが、その取り組みを躍進させた。前CEOのソレル氏はかつて、Amazonの存在が悩みのタネで夜も眠れないと、繰り返し発言していた。しかし、その悪夢を避けるのではなく、受け入れることがワンダーマンにとっては、成功の鍵となったようだ。
いまでは、ワンダーマン・コマース(Wunderman Commerce)は22億ドル(約2475億円)の広告会社として、FacebookとGoogleに対抗する、WPPにおける拠点となった。そのことは、リード氏がCEOとして昇進したこと、またワンダーマンが昨年行った数々の買収からも明らかだ。ワンダーマン・コマースは2017年6月に、WPPが2013年に買収したエージェンシー、サーモン(Salmon)を含む新部門として開始された。当時サーモンが抱える従業員数は、850人であった。いまではグローバルで、ワンダーマン・コマース内に1300人が所属している。ワンダーマン全体では9000人を超えるという。
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「リーダー層における変化は、何であれ混乱を生む。しかし、彼らふたり、それぞれが関わってきた偉業を実証していると思う」と、ワンダーマン・コマースのCEOであるニール・スチュワート氏は語る。
成長が著しい買収企業
コマースマーケティング・クラウドのヨットポー(YotPo)で新規ビジネス部門バイスプレジデントを務めるラージ・ニジャー氏は、彼の会社がコマース体験エージェンシー、ゴリラ・グループ(Gorilla Group)と近しい関係で働いていると語った。ゴリラ・グループは、ワンダーマンが最近買収した会社のひとつだ。WPPが持つ強みを理由に、来年はその近しい関係をさらに強化すると、ニジャー氏は言う。
「分野に特化したエージェンシーたちが台頭してきており、エンドツーエンドでサービス提供に成功していることから、ワンダーマンはデジタルネイティブたちに特にアピールしたいと考えている。消費者ブランドだけでなく、これらのブランドにサービス提供するエージェンシーたちも含めての統合だ。デジタルファースト、デジタルネイティブのこれらの会社たちが集まるこの分野を率いる位置に存在している。彼らの決断はすべて適切で、適切な行動を起こしている。実際に売上につながるような顧客中心の体験を届けることを、ずいぶん長い間ブランドやエージェンシーたちは議論してきた。ワンダーマンは有言実行している」と、ニジャー氏は言う。
16年前、スチュワート氏は、彼のエージェンシー、サーモンがeコマースの台頭についてクライアントに話し続けていた、と言った。サーモンは、2017年6月にワンダーマン・コマースの参加となっている。当時はオンライン注文、実店舗でのピックアップを導入するようにブランドを説得することを意味していた。いまではそのニーズは自明となった。ウォルマート(Walmart)や他の店も導入している。もうひとつの普及した行動は、消費者のAmazonでの購入だ。そしてこれもまた、サーモンはブランドがAmazonと協働することの助けをここ5年ほど継続してきている。
「5年前ならブランドにとって、コマースとはコンテンツを意味していた。Amazonにどうやってコンテンツを載せるのか? という具合だ。しかし、私たちにとっての主眼は、常に売上だった。Amazonに載せない、という判断は勇気があることだが、少なくとも戦略は持たなくてはいけない。複数のチャンネルを統合する戦略を。チャンネルは無視すれば良いのではなく、理解しなくてはいけない」と、スチュワート氏は述べる。
Amazon販売における難しさ
ワンダーマン・コマースが実行しているのは、Amazonのような大手企業に関する知識をブランドに提供するだけではない。複数のチャンネルに取り組むためのアプローチの必要性をも売り込んでいる。ワンダーマン・コマースが提供できるサービスの幅を広げるため、WPPは複数の大きなエージェンシー買収を行ってきた。9月にはeコマースエージェンシーの2セールス(2Sales)を買収している。先日はマーケティングパフォーマンス企業Eマーク(Emark)の過半数の株式を確保した。2017年5月に行われたマーケットプレイス・イグニション(Market Ignition)の買収は、Amazon関連の業務を向上させるうえでもっとも重要なもののひとつだとスチュワート氏は語った。
「(マーケットプレイス・イグニションは)Amazonで売り上げることの複雑さを理解していた。ただ、Amazon上に存在するだけではダメだ。コンテンツの戦略、ロジスティクスの戦略、適切なプロダクトが適切なときに、入手可能な状態になっていることが重要だ。でなければメディア予算を無駄にしているだけだ」と、スチュワート氏は言う。
ブランドが繰り返し直面する問題のひとつに、複数のコマースプラットフォームを横断したメディア取引に関する、社内でのマネージメントのミスがある。スチュワート氏によると、ブランドのなかには自社の入札と競争して、入札してしまうところもあるようだ。
「たとえば、ブランドにとってみれば、冷蔵庫は洗濯機と競争して入札することになる。我々が実施しようとしているのは、すべてのチャンネルを横断して、均質なメディア支出と顧客獲得が達成できるような、均質な戦略だ」と、彼は述べる。
システムを理解する「施術者」
Amazonは広告プロダクトをよりシンプルにしようと試みているものの、ワンダーマン・コマースのクライアントからはそれほど反応は出ていないと、スチュワート氏は言う。というのも、クライアントたちはシンプル化の影響を直接は受けにくい点がある。スチュワート氏のエージェンシーは、Amazonが提供するテクノロジーをただ使うだけ、以上のものを提供するからだ。常に進化するシステムを理解している「施術者」として、ワンダーマンは自社をブランディングしている。
「クライアントたちは幅広くなったメディアミックスを理解しようと、いまだに苦労している。Facebook、インスタグラム(Instagram)、そしてGoogleで何が起きているかは理解できているが、いまや他の山が現れてきているのだ。クリックひとつで商品購入ができる、大きな検索エンジンが現れたわけだ」と、Amazonを指して説明した。
もちろん、Amazonそしてオンライン・オフラインを越えた全体的なリテールシステムにフォーカスを据えたエージェンシーは、ワンダーマン・コマース以外にも存在している。他の大手グローバル・マーケティング・エージェンシーやコンサルティング企業がいる。それでも、スチュワート氏がアンテナを張っているのは、従業員50人以下の比較的小規模な、他のヨーロッパ諸国に位置しており、特定のマーケットプレイスに特化したエージェンシーだという。これらの競合他社も、また彼にとっては買収先としてのポテンシャルを持っている。コンサルティング企業に関しては、直ちに入ってくるお金ではなく、クリエイティブや企業が持つ歴史についてより注意を払うとのことだ。スチュワード氏によると、ワンダーマン・コマースのスローガンは「クリエイティビティとデータを組み合わせる」ことと「コマースによる駆動」となっている。
エンドツーエンドのコマースが必要
「消費者の変化について我々は常に考えている。私たちの企業戦略はクライアントに能力を与えることだ。我々はアクセンチュア(Accenture)でも、デロイト(Deloitte)でもない。我々の仕事は、ブランドが売上を伸ばすことの手伝いだと考えている。マーケットでは、クライアントに能力を与えると、そのクライアントを失うことになると、信じられている。しかし、それは真実ではない」。
スチュワート氏は、ビジネスの海外展開を拡大することを将来的な目標としている。アジアが念頭にある。アリババ(阿里巴巴)といった、Amazon以外のeコマースプラットフォームが存在するなかで、アジアの構造は異なっている。ラテンアメリカでも拡大したいとスチュワート氏は語る。Amazonはラテンアメリカにおける投資を継続しており、メルカドリーブレ(MercadoLibre)と競争を展開している。
eコマースの台頭、複占状態の動揺のなか、Amazonもまたワンダーマンの業務について調べて、その手助けをしている。
「Facebookやインスタグラム上の広告で成功してきたデジタルネイティブたちをどうやって手伝助するか、WPPは見極めつつある。彼らはエンドツーエンドのコマースが必要だ。これらのブランドたちは、小さなエンドツーエンドのAmazonのようにマーケット、売上、配送とすべてをどのように実施すれば良いかを学ぼうとしている。すべてを自社内ですることは不可能だ」と、ニジャー氏はヨットポーについて語った。
ブランドが確実に成功すること
それでもワンダーマン・コマースが手助けをしているブランドたちにとって、Amazonは脅威でもある。そのことは、Amazonがワンダーマン・コマースにとっても、脅威であることを意味している。
「Amazonがこれらのブランドを全部殺してしまったら、我々も殺されてしまう。私たちの仕事はブランドが確実に成功することだ。それがなければ顧客ベースを持てない」と、スチュワート氏は語った。
Kerry Flynn(原文 / 訳:塚本 紺)