700億ドル規模の米テレビ広告ビジネスはデジタル広告に習って、プログラマティック技術を試し始めている。ターゲット精度は上がるかもしれないが、現行のテレビ広告は大きな利益を生み出しており、先行するディスプレイ広告とはエコシステムが異なるとの指摘もある。
デジタルマーケティングを変えるテクノロジーをわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回のテーマは「プログラマティックTVアド」です。
700億ドル(約8.5兆円)規模の米テレビ広告ビジネスは、いま変化の時を迎えています。テレビ広告業界も、デスクトップ広告やソーシャルメディア広告、モバイル広告に習って、プログラマティック技術を試し始めているのです。
しかし、テレビ広告のエコシステムは、デジタル広告のそれの親戚といえども、機能の仕方がかなり違います。ですから、広告取引をデータ主導で効果的に自動化するというプログラマティック広告も、テレビメディアでは異なった形となることでしょう。
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今回は、その「プログラマティックTVアド」とは、どういうものかを解説します。
プログラマティックTVアドとはどのようなものでしょう?
プログラマティックTVアドとは、オーディエンスベースの広告取引を、データに基づいて自動化するものです。これは、これまでの業界標準を覆すものです。
これまでの業界標準では、マーケターは番組の視聴率を頼りに、流す広告にとって望ましいオーディエンスを決めてきました。これに対してプログラマティック広告技術では、マーケターは、最適な場所に広告を出すためにオーディエンスデータを利用します。
もう頭が混乱してきました。実際のところ、どうするのですか?
より具体的に説明しましょう。マーケターは、特定の番組やチャンネルの視聴率に頼るのではなく、プログラマティック技術を使って、たとえば「収入5万ドル(約600万円)でAndroidデバイスを持っている男性」のように、特定の消費者群にアプローチできるのです。
ターゲットとなるオーディエンスが視聴している限り、広告が『The X Factor』で流れるか、『X Games』で流れるかは気にしません。ただ、現在のテレビ広告のオーディエンスターゲティングはここまで進歩していません。プログラマティックなテレビ広告はまだ始まったばかりだというのが理由のひとつです。
デジタルプラットフォーム上で行われる広告と、どう違うのですか?
プログラマティック広告から連想するものは、普通、リアルタイム入札やオークションといったものです。サプライが豊富にあり、買い手がマーケットを支配しているデジタルプラットフォーム上では、これらはとてもうまく機能します。
一方、テレビというマーケットプレイスでは、リアルタイムの広告取引は成功しません。ここではサプライが限られていて、売り手側も、将来の確実なコミットメントを期待しています。少なくともいまのところ、プログラマティックTVアドでは、オンラインのプログラマティックな広告販売を活気づけているのと同じような、リアルタイムのオークションを通じた購入が行われてはいません。
放送局やケーブルテレビが、プログラマティック広告を受け入れるには?
買い手も売り手も、「いまのテレビ広告インベントリ(在庫)は過小評価されているものが多いし、オーディエンスをより具体的にターゲットできれば、その価値を押し上げるのに役立つはずだ」と主張しています。一方、テレビ局の幹部のなかには、プログラマティック広告によって自分たちの広告インベントリが日用品化して価値が下がってしまうことを心配して、支持しない人たちもいます。
結局、ビジネスが活発に行われているネットワークは、自分たちの販売方式を変えようという気にはならないものです。プログラマティック広告を積極的に採り入れるのは、FOXのような巨大ネットワークではなく、販売できる広告インベントリをたくさんもつ、下層の小さなケーブルテレビのネットワークになるでしょう。
プログラマティックTVアドの採用は、今後急速に進むのでしょうか?
そんなに急速には進まないでしょう。売り手も買い手も少しずつ状況を飲み込めるようになっていますが、2014年にプログラマティックな方法で販売されたテレビ広告は1%未満です。
先日開催された「Advertising Week」のパネルディスカッションで、パネラーを務めたある業界専門家は、この数字は2015年には3~5%にまで増加すると予測しました。市場が大きく踏み出せない理由は、ブランドや広告代理店、メディアパートナーに連動的にアクセスできるような、信頼できるデータがないことだ、とパネラーたちは言っていました。
一番の勝者は誰なのですか?
各ブランドや広告代理店は、よりターゲット化されたテレビ広告マーケティングから利益を得られそうです。また、過小評価されているケーブルテレビのネットワークも広告売り上げを伸ばすことができるでしょう。
ただ、一番得をするのは、そうした取引を容易にする技術のベンダー、たとえばGoogleやターン(Turn)、チューブモーグル(TubeMogul)のような企業です。いずれにせよ、もっとも広く利用されるプログラマティックTVアド技術を作り出した者は、それが誰であっても、700億ドル規模の市場から十分な分け前を手に入れることができるでしょう。
Eric Blattberg (原文 / 訳:ガリレオ)
Image from ThinkStock / Getty Images