sellers.jsonと並行して立ち上げられた「サプライチェーンオブジェクト(SupplyChain Object)」は、サプライチェーンの匿名性をバイヤーが解消するのに役立つものです。インプレッションの販売に関与したすべての中間業者を明らかにするツールです。その注目すべき初歩的なポイントを説明します。
信頼できるマーケットプレイスやサプライパス最適化が議論されていますが、バイヤーはまだ、インプレッションを実際にどこから買っているのか把握するのに苦戦しています。インタラクティブ広告協議会のテックラボ(IABテックラボ)による「sellers.json」の採用で、中間業者の一部の特定は容易になってきていますが、関わっているプレイヤーをすべて把握するには、「OpenRTB」の「サプライチェーンオブジェクト(SupplyChain Object)」というツールが必要です。
サプライチェーンオブジェクトはsellers.jsonと同じく、インプレッションがどのように売られてきたのかを明らかにするためのものです。ただ、sellers.jsonだとインプレッションの最終的なセラーに関する情報がわかるのに対し、サプライチェーンオブジェクトは複雑なデジタル広告システムを通過するすべての情報を明らかにします。こうした情報を活用し、予算の分け前にあずかるに値するアドテク仲介業者を見分ける方法が、バイヤーたちにあまり知られていません。
デジタルマーティングにおける新語を解説する「一問一答」シリーズ。今回は、このサプライチェーンオブジェクトの注目すべき初歩的なポイントを説明します。
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──サプライチェーンオブジェクトとは何ですか?
sellers.jsonと並行して立ち上げられたサプライチェーンオブジェクトは、サプライチェーンの匿名性をバイヤーが解消するのに役立つものだとされています。端的に言えば、インプレッションの販売に関与したすべての中間業者を明らかにするツールです。個々の入札リクエストにおいて支払いを受けたすべてのセラーにあたる、ノードのチェーン全体について、セラーのURLやパブリッシャーIDなどの情報を使って軌跡がマッピングされます。サプライチェーンオブジェクトを機能させるには、インプレッションの入札リクエストにサプライチェーンオブジェクトを加える必要があります。
「サプライチェーンオブジェクトとsellers.jsonの併用は、バイヤーには目からうろこかもしれない」と、プログラマティックのコンサルティング企業であるジャウンス・メディア(Jounce Media)の創業者、クリス・ケーン氏は語ります。「sellers.jsonに加えてサプライチェーンオブジェクトを使うことで、関係性や直観でインプレッションの買い方を判断するのではなく、データに基づきサプライパスの最適化を判断できる」。
──サプライチェーンオブジェクトでは、sellers.jsonでわからない何がわかるのですか?
sellers.jsonでバイヤーにわかるのは、取引における支払いの流れの最初の2段階です。デマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)Xがサプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)Yに支払い、そのYがパブリッシャーZに支払ったことがsellers.jsonではわかります。あるいは、DSPからSSPを経て再販業者に支払いが流れていったことが判明するかもしれません。この場合、再販業者がどこに支払いをしているのかはわかりません。パブリッシャーでしょうか。別の中間業者でしょうか。そこでサプライチェーンオプジェクトなのです。入札リクエストにサプライチェーンオブジェクトが入っていると、パブリッシャーまでの支払いの全体像がわかるのです。サプライチェーンオブジェクトは採用がまだ途中の段階ですが、少なくとも理論上はそうなっています。
──なぜ、アドテクプレイヤーによるサプライチェーンオブジェクトの採用が増えないのですか?
アドテク問題の調停にサプライチェーンオブジェクトが果たす役割については、まだ議論が続いています。サプライチェーンオブジェクトがアドテクに名を残すには、デジタル広告のサプライチェーンの透明性を高める手順をまとめたIABテックラボによるOpenRTBプロトコルの最新版に、バイサイドとセルサイド、双方のベンダーが準拠していなければなりません。プログラマティックのエージェンシーであるインフェクシャス・メディア(Infectious Media)でプロダクトとパートナーシップのマネージングパートナーを務めるダン・ラーデン氏によると、技術的問題からアドテクベンダーの大半がOpenRTBの最新版に準拠しなければ、サプライチェーンオブジェクトの利用が大幅に制限されるおそれがあります。また、GoogleのSSPがサプライチェーンオブジェクトをまだ採用していないという事実もあります。デジタルチャネル全体に対する一貫した戦略の実装にすでに取り組んでいるバイヤーたちにとって、サプライチェーンオブジェクトの構想は頭痛の種のリストが長くなるだけになっていると、ラーデン氏は話しています。
──どのようにしたらサプライチェーンオブジェクトを最大限に活用できるでしょう?
すでにsellers.jsonとads.txtを使っているバイヤーは、サプライチェーンオブジェクトを最大限に活用できるでしょう。サプライチェーンオブジェクトでトラッキングした各ノードに関する情報は、sellers.jsonファイルのエンドセラーや、該当するパブリッシャーのインベントリー(在庫)販売を許可された(ads.txtファイルのリストにある)アドテクベンダーの名前に対し、クロスレファレンスが可能です。その情報を使って、不正なトラフィックを売っている後ろ暗いセラーや、インプレションを転売して同じインプレッションでオークションを重複させるだけのベンダーにお金を回さない取り組みの強化に着手できます。オークションの重複があると、バイヤーは同じインプレッションに複数回、入札して、知らないうちにコストを上げているということになりかねません。
──オークションの透明性の向上はツールなしでやれていたのではなかったのですか?
IABによる透明化のツールが登場するまで、入札リクエストに関わっているプレイヤーの調査は手作業でした。インプレッションでお金を受け取った中間業者をバイヤーが把握するには、バイヤーが入札ストリームにIDをつけ、そのIDをセラーにマッピングするように各SSPにお願いする必要がありました。サプライチェーンオブジェクトやsellers.jsonなどのツールによって、サプライチェーンのなかで料金を取っているアドテクベンダーの名前と数の把握は自動化されました。ただ、ラーデン氏によると、DSPの大半がまだセラーIDの最適化に対応できておらず、この知見をサプライチェーン戦略にどう組み込み成功に導くのかという課題が残っています。
Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)