米国のパブリッシャーが導入を進める「ヘッダー入札」。インベントリ(広告在庫)からより多くの売り上げを得るためにパブリッシャーたちが試行している取り組み。同時にさまざまな需要元に在庫を提示することで、従来のウォーターフォール(高値が想定されるアドエクスチェンジから入札していく)よりも媒体社に利益をもたらすといわれます。
デジタル・マーケティングを変えるテクノロジーをわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回のテーマは「ヘッダー入札」です。
デジタル広告は、その合理化を目指して巨大な産業が生まれているにもかかわらず、依然として、非効率性と断片化(フラグメンテーション:一連のプロセスがさまざまな各所に割れていること)という問題に悩まされています。プログラマティック・セリングとは、理論上は自動化を意味するのかもしれませんが、売り手と買い手を結びつけるためには、裏で密かにやらなければならない作業が山ほどあるのです。
こうした現実を背景にして、ヘッダー入札のようなテクニックが生まれました。ヘッダー入札とは、持っているインベントリ(広告在庫)からより多くの売り上げを得るためにパブリッシャーたちが試行している数多くの取り組みのひとつです。アイデア自体は目新しいものではありませんが、ヘッダー入札に関連した製品を作るアドテク企業が増え、パブリッシャーが利益を上げる方法を増やそうとするにつれ、導入が急ピッチで進んでいます。
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では、そのヘッダー入札について、一問一答形式で紐解いていきましょう。
とりあえずヘッダー入札とは、何でしょうか?
ヘッダー入札は、アドバンス入札やプレ入札とも呼ばれますが、広告サーバー(多くの場合、Googleの「DoubleClick for Publishers」)に掲載する前に、手持ちの広告在庫を複数のアドエクスチェンジに同時に提供するというプログラマティック取引の高等テクニックです。同じ広告在庫を複数の需要元に同時入札させることで、パブリッシャーは収益を増加させ、儲けが多くなるというわけです。
アドテク企業のイールドボット(Yieldbot)のジョナサン・メンデス最高経営責任者(CEO)は次のように述べています。「ヘッダー入札は、現在行われている手法と比較して、売り上げパートナー、アドテク企業、パブリッシャーが、よりクリーンに、そしてよりうまく技術を統合する方法だ」。
なんだか難しそうですね。従来と比べて、何か優れているのですか?
パブリッシャーにとって、真のプログラマティックな効率性とは地球外生命体のようなものです。たぶん存在はするのでしょうが、実際に見た人は誰もいません。
地球外生命体って……でも、なんとかうまくやってたんですよね?
ええ、その代わりにパブリッシャーは、「ウォーターフォール(滝)」と呼ばれる手法で、プログラマティック取引による収益を管理してきました。パブリッシャーは、まずひとつの販売チャンネルにインプレッションを提供しますが、それに買い手がつかない場合は、より価値が低い別のチャンネルに安く提供します。これを繰り返しながら、入札があるのを待ちます。
このシステムはうまく機能してはいますが、ひどく断片化しますし、非効率化は避けられません。パブリッシャーは、このシステムでは手に入るはずの売り上げをみすみす逃すことになると言っています。
パブリッシャー企業パーチ(Purch)のジョン・ポッター最高技術責任者(CTO)は、「このやり方では、広告在庫をたくさん失うことになる」と語っています。パーチでは、プログラマティック戦略のなかでヘッダー入札を導入しました。
パブリッシャーにはどのようなメリットがあるのでしょう?
ヘッダー入札がパブリッシャーにもたらす最大のメリットは、より大きな収益が見込めることです。ポッターCTOによれば、ヘッダー入札のソースを1つ追加するだけで、収益を10%増加させることができるそうです。さらに、広告在庫を単一のSSP(サプライサイドプラットフォーム)に統合することで、パブリッシャーはインプレッションペースで広告在庫を販売でき、インプレッションが実際にどれくらいの価値を持っているかの見通しがもっとクリアになります。
ヘッダー入札の技術を提供するテクノラティ(Technorati)のシャニ・ヒギンズCEOは、「要するに、このシステムを使えば、広告在庫を出したり引っ込めたりしなくてもよくなる。そんな作業は非効率的で無駄だ」と説明しています。
SSPがすべて解決してくれるはずではなかったのですか?
そのはずでした。問題は、あらゆるSSPが他の多数のSSPと競合していることです。そのため、需要元が分断されてしまうのです。
ヘッダー入札を採り入れることで見られる顕著な副産物の例として、それが、Googleが運営するDoubleClick for Publishersの広告サーバーに圧力をかけられるという点が挙げられます。DoubleClick for Publishersの広告サーバーは、動的割り付け機能を通じて、Googleが運営するDoubleClick Ad Exchenge(AdX)にのみすべてのインプレッションを開示して入札させますが、ほかのアドエクスチェンジには入札させません。
ヘッダー入札はいい方法のように思えます。でも、何かデメリットは?
ヘッダー入札の大きな問題は、実行のために複雑な設定が必要なことと、パブリッシャーのページ読み込み時間に影響が出る点です。パブリッシャーがページに埋め込むそれぞれのSSPタグが、ページの読み込みをさらに遅らせる要因となりえるのです。
ページの読み込みが遅いという問題は、最近では大きなリスクになっています。パブリッシャーたちがページをサードパーティーの広告タグで飾り立てた結果、Webページの読み込みが遅くなってしまい、ユーザーの不満を呼び、アドブロッカーをインストールされるはめになってしまったのです。
イールドボットのメンデスCEOは、次のように述べています。「ここで唯一の技術的問題点は、ヘッダーに詰め込まれているタグだ。パブリッシャーがやっていることに効果があるかどうかは、ページがどれだけ速く反応するかにかかっている」。
となると、理想的な方法ではないのかもしれませんね……。
確かにそうかもしれません。けれども、利益を増やせる方法があるのに、不便だからといってそれに手を出さないパブリッシャーなど、まずいません。テクノラティのヒギンスCEOはこう語っています。「パブリッシャーの立場から見れば、今自分たちが行っていることに比べて、これはより優れた方法だ。ただ、どう頑張ったところで、理想的な方法ではありません」。
Ricardo Bilton(原文 / 訳:ガリレオ)
Image from Thinkstock / Getty Images