伝統を打ち破ろうとする、 WPP 「大変革」の中身:「スケールはもはや購買能力ではない」

WPPが自らのビジネスを救おうと躍起になるなかで、その負担を請け負ったのがクリエイティブエージェンシーたちだ。しかし、真のリスクは、メディアエージェンシーにある。WPPが成長を加速させようとするなかで、彼らの計画が明らかにしたのは、広告主のメディア予算からのマージンへの依存を減らそうとする狙いだ。

大手広告主たちのフォーカスがコストよりも価値やパフォーマンスに移るなかで、以前と同様の収益をあげるのは難しくなってきている。メディア契約はオーディエンスに付けられた値段と、そのバイイングから得られたデータの価値によって決められるようになるだろうと、WPPのCEOであるマーク・リード氏は先日述べた。WPPの経営悪化は、株価に大きな下落を生み、何千人もの解雇を行うことになり、内部の大変革が必要になった。そこからどう復活するかについて語ったなかでの発言だ。リード氏の計画ではメディアではなく、テクノロジーがWPPを成長させるという。その一方で、クリエイティビティに対して新しいアプローチを取ることで、エージェンシーたちは競合たちとの差別化を図る。

WPPの収益の75%は、広告・メディアサービスからとなっている。しかし、残りの25%であるコマース、テクノロジー、体験部門というビジネスが強調されている。ディスプレイや検索広告の適切な価格というのは、いまでは自分たちが所有しているデータの一機能である側面が強いことから、リアルタイムな入札が可能なメディアに対するエージェンシー・ネットワークが持つバイイング力はもう必要ない、と考える広告主たちが存在する。WPPのCEOがこれらの新分野に1000億ドルのチャンスが潜んでおり、これがグループを5%から10%成長させる駆動となり得ると信じている理由はそこにある。

リード氏は「バイイング力から知能の力へとスケールは移った。知能の中心にあるのはデータだ。これは明らかだ」と発言した。

WPPが失ったビジネス

WPPが資金を失っているのもメディア部門だ。HSBC、そしてアメリカン・エクスプレス(American Express)の両方が第2四半期でWPPのメディアビジネスを去った。これによって両方合わせて7億ドル(約770億円)のメディア支出が消えたことになり、そこからのマージンもWPPは失ったことになる。それに加えて、2016年にWPPを切ったフォルクスワーゲン(Volkswagen)とAT&Tの存在もある。彼らのメディア支出は合計して55億ドル(約6000億円)であったと報じられている。たった2年ほどのあいだで、この埋め合わせを見つけるのは、困難な大きさのマージンだ。

「リアルタイムでの入札が可能な環境においては、会社の大きさは関係ない」と匿名を条件に、とあるエージェンシーのシニア・エグゼクティブのひとりが語ってくれた。「昔であれば、WPPは『ウチはマーケットの40%だから、もっとも良い値段を得ることを要求する』ということができた。いまでは大手広告主たちは、それに対する必要性が下がってきており、WPPも要求できなくなってきている。WPPが繁栄した慣習の多くは、いまでは過去のものとなってきており、それに痛い思いをさせられている状態だ」。

移り変わるメディアマーケットプレイスをリード氏が見極めるには、まだ時間がかかるだろう。WPP内でも、まだ対処しなくてはいけない大企業としての問題が複数残っていると、彼自身も認めている。しかし、この問題がメディアエージェンシーに関するものかどうかについては述べなかった。

ふたつの変化の可能性

メディアにとっての成長分野は依然としてプログラマティック、検索、人工知能におけるイノベーション、そしてテクノロジーの応用だとリード氏は言う。彼はしかし、ふたつの変化の可能性について言及した。ひとつ目はデータだ。将来的には収益はデータの所有ビジネスではなく、それをどう使うかによりかかってくるだろう。ふたつ目はWPPが抱えるメディアエージェンシーがこれまでのバイイング代理店というよりは、テック企業のような様相を呈するだろうということだ。

端的に言うと、リード氏の計画は、彼らのメディアエージェンシーの過激な改革というよりは、すでに良いパフォーマンスを見せている部分をより多く行うことにある。

「クライアントは支出を削減しているわけではない。ここ5年間において我々の収益におけるマーケティング支出の割合は比較的一定のままだ。しかし、より幅広いパートナーシップへと、それを移行しつつある。ひとりの最高マーケティング責任者と取り組めば良い、という時代は終わった。最高情報責任者がますます重要になってきている」と、リード氏は言う。

WPPが広告主たちに対する売り込みは、コンサルティング企業のような響きを持ってきている。WPPはかつて、コンサルティング企業はエージェンシー業務にとって脅威ではないと述べていたのに、だ。

メディアビジネスからの脱皮

メディアエージェンシーとコンサルタント形態が合体したエッセンス(Essence)が、WPPのメディアバイに対する新しいアプローチだと高らかに発表されたことで、非常に明確になっている。これは、WPPが所有するトレーディングデスクであるザクシス(Xaxis)とは対照的だ。しかし、問題は広告主のあいだにエッセンスのようなビジネスをスケールさせるのに十分な知識が存在しているかどうかだ。透明性を持ったバイイングモデルのうえに、メディアエージェンシーは構築できるかもしれない。このモデルでは、プランニングをカスタマイズしたり、キャンペーン管理を行い、よりコントロールを欲しがる広告主が増えている現実に対応する。しかし、Googleの外では多くのグローバルクライアントを抱えていない。

「エッセンスは、メディアエージェンシーの将来としてのポテンシャルを持っている。しかし、問題はクライアントがこのモデルの長期的な利点を理解できるかどうかだ」と、前述のエージェンシーエグゼクティブは語る。「もしも、クライアントが非公開の契約から遠ざかるようなことがあれば、彼らはより高いマージンを支払う必要があるだろう。その場合、彼らの調達チームは疑問視する可能性がある。市場にはそれを敬遠するクライアントはたくさん存在している。特に、その非公開モデルが提供するものをすでに受け入れた場合は、そうだ」。

積極的に将来のメディア業界を予測して取り組むよりは、現状の変化に反応し、クライアントから求められたときにモデルを適応させるという選択を、WPPは行っている。

その分野のひとつがeコマースだ。WPPは将来の成長のうち大きな割合をeコマースに見出している。eコマース売上の成長からの新しい収益源について強調しており、Amazonのような新興の広告プラットフォームにおける広告が実際の売上と近いことを最大限利用するのに、WPPのエージェンシーたちはもっとも適したポジションに位置していると、アナリストたちに語っている。重要なことに、eコマースへフォーカスを置くことで、それまでなら逃していた購買客マーケティングとIT予算の分野でも、WPPは競争することができる。事実、ブリティッシュ航空(British Airways)、Sony(ソニー)、ダノン(Danone)そしてアディダス(Adidas)は、WPPとの支出を広告とメディアだけから、テクノロジー、コマースそして体験分野へと拡大したと、最高トランスフォーメーション責任者のリンジー・パッティソン氏は述べた。

自分自身が最大の敵

WPPの計画を観察すると分かるのは、WPPにとっては自分自身が最大の敵となったことだ。オムニコム(Omnicom)、ピュブリシス(Publicis)、IPGのどこも、WPPが今年乗り出したほどの規模で変革に取り組んだことはない。ここから分かるのは、業界由来ではなく会社由来の問題が存在していることだ。これが3500人の解雇、200のオフィスの閉鎖、もしくは合併を生み出した経営悪化につながったと考えられる。この改革は、今後3年間で3億ポンド(約410億円)ほどのコストがかかるとされる。しかし、2021年末までには毎年2億7500万ポンド(約380億円)を節約することになる。この半分はビジネスへと再投資されるという。

Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)