男女の賃金格差は業種を問わず見られることだが、PR業界では特に際立っている。従業員の61.3%が女性であることを考えると、とりわけ不当な待遇だ。
それに、これはもっと支払えるはずだという問題でもない。先述したように男性が少数派という業界なのだが、トップに就くのは男性ばかりという傾向があるのだ。
PRエージェンシーでシニア・アカウント・ディレクターとして4年半働いてきたある女性が、退職を決めた。理由のひとつは、同じ部署を共同で率いる男性の年収を偶然耳にしたことだ。男性が電話でアパートメントの仲介業者と話していた内容から、彼の年収が10万ドル(約1000万円)だとわかった。彼女の年収は7万ドル(約700万円)だった。
「同じ役職で、男性が1ドル、私は70セント。まったく理不尽ですよね?」と、彼女は匿名を条件に話した。「これがPR業界の常態でないことを望むけれど、どの分野でも、女性の給与が男性より少ないのは間違いない」。
実際、そのとおりだ。男女の賃金格差は業種を問わず見られることだが、PR業界では特に際立っている。従業員の61.3%が女性であることを考えると、とりわけ不当な待遇だ。それに、これはもっと支払えるはずだという問題でもない。先述したように男性が少数派という業界なのだが、トップに就くのは男性ばかりという傾向があるのだ。
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リーダー職における男女の格差
PR業界情報メディア「ホームズ・レポート(The Holmes Report)」がまとめたグローバルPR企業トップ100のうち、女性の最高経営責任者(CEO)は、ハバズPR(Havas PR)のマリアン・サルズマン氏だけだ。ただしケッチャム(Ketchum)は、北米事業のCEOにバリー・ラファティ氏を任命している。
デジタルデザイン企業インビジョン(InVision)でコミュニケーション担当ディレクターを務めるリア・テイラー氏は、多くの大企業では、トップに立つひとりかふたりの男性を中心に、新事業が手がけられていると話す。それに対して女性は、上司の顧客関係をサポートしたり、日々のコミュニケーション業務を処理しているという。
大きな理由がひとつある。家庭の都合と仕事がぶつかると、スケジュールを調整したり妥協をしたりするスタッフは女性になることが非常に多いのだ。PR業界は締切を中心に動いているため、多くの女性は勤務時間の調整に苦労している。子供がいる場合は特に大変だ。
PR企業クーパーカッツ・アンド・カンパニー(CooperKatz & Company)でプレジデント兼CEOを務めるアン・グリーン氏は、「女性はいずれかの時点で、世話をする人になるか、リーダーになるかを選ばなければならない」と話す。「企業は従業員全員に対し、自ら人生を選択できることやリーダーになれることを、ただの方針だけでなく実例で示すべきだと思う」。
興味深いことに、リーダー職における男女の格差はニューヨークで特に大きいようだ。シリコンバレーにあるPRエージェンシー、イーストウィック(Eastwick)のバーバラ・ベイツCEOは、4年ほど前にニューヨークで開催された、業界誌「PRウィーク(PR Week)」の年間授賞式に参加するまで、PR業界の男女格差を十分には理解していなかったと話す。ベイツCEOによると、1000人以上いた参加者のうち男性はわずか200人ほどだったが、彼らはすべて大手エージェンシーの上級幹部だったという。
「大企業が集まっているニューヨーク市で、(もっと多くの)大規模なPR業界イベントに参加してみると、どこに問題があるのかがわかる」とベイツ氏は語る。「会場に集まるリーダー職は通常、年配の白人男性ばかりであり、彼らは多くの若い女性を部下に連れている。大手ほど偏りが確立されていて、こういう価値観を打ち破るのは難しい。まだ道のりは長い」。
賃金格差
リーダー職に就く男性の割合が多いと、男性の賃金が女性より多くなる可能性も高まる。PRウィークによる2016年版Salary Survey(給与調査)では、男女の賃金格差が明白になった。全体で見ると、男性のPR幹部の年収が12万5000ドル(約1300万円)なのに対し、女性は8万ドル(約850万円)だ。
PR企業のある女性CEOは、キャリア過程で男女が進むコースの違いも、賃金格差の一因ではないかと考えている。たとえば、男性はビジネスやテクノロジーのPRに進む割合が高く、これらの業界はライフスタイルのPRより給与がやや高いことが多い。一方、大手企業の女性が主に戦略や顧客関係に注力するアカウント管理を担う傾向があるのに対し、男性はメディアリレーション業務に就く傾向が強い。結局のところ、プレス配信は依然としてPR企業の主力業務であり、お金になるのだ。
PR企業「チャネルVメディア(Channel V Media)」を共同で創設したグレーテル・ゴーイング氏は、女性が昇給を訴えることに極めて消極的だったり抵抗を覚えたりしがちであることも、要因に挙げられると付け加えた。「これはもちろん全体に当てはまることではないが、通常は我々のほうから、(女性従業員に)昇給を求めるよう促さなければならない」とゴーイング氏は話す。「すべてのエージェンシー経営者が、自発的に従業員と、『そろそろ昇給を求めてもらってもいい時期ですね』という会話をするとは思えない」。
賃金格差以外にも、男女にまつわる偏見は微妙なかたちで現れる場合があるとゴーイング氏は考えている。彼女がPRエージェンシーを経営していると話すと、相手の男性は決まって、自宅のアパートメントで働いているのかと聞いてくるというのだ。
「侮辱するつもりはないと思う。むしろ、条件反射的な反応だと思っている」とゴーイング氏は話す。「理想を言えば、我々は反射的な反応を、新しいものに置き換えることができる。女性が会社を経営していると話すのを聞いたら、自宅のソファで、もしかしたら1、2匹の猫のそばで働いている姿ではなく、もっと興味深くて有能な組織が想起されるようになるといい」。
主体的に動く
明るい材料は、女性の起業家が増えていることだ。ティファニー・グァルナッシア氏は、カイトヒルPR(Kite Hill PR)とコミュニケーションズウィーク(Communications Week)を設立する前は、ニュースメディア「ハフィントン・ポスト(The Huffington Post)」でコミュニケーション担当シニアディレクターを務めていた。
「スペシャリスト型のPR企業が相次いで台頭してくるのを見ていたので、ブティック型のPRエージェンシーをはじめた。それに、アリアナ・ハフィントン氏の強力なリーダーシップとビジネス感覚に刺激を受けた」とグァルナッシア氏は話す。「リーダー職に女性がいれば、エージェンシーはより優れた業績を生み出せる」。
グァルナッシア氏はさらに、男女の賃金格差やリーダーシップの現状は変化するだろうと述べた。業界では、インハウスでもエージェンシーでも出世する女性が増えていき、さらに多くの女性が相応の賃金を求めるようになるだろうという。
「PR業界ではますます多くの女性が、自らの手で自身の現実を創造し、トップから状況を変えていきたいと考えている」と、クーパーカッツ・アンド・カンパニーのグリーン氏は話した。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)
Image from Thinkstock / Getty Images