FUTURE OF WORK

コロナ後を見据えた、エージェンシーオフィスのあり方とは? : マザー・ニューヨークがブルックリンに新本社

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起業家、アーティスト、そのほかのクリエイティブ系の人々が集まる、かつては工業地帯だったゴーワヌス地区に馴染みのない人にとって、マザー・ニューヨーク(Mother New York)の新本社に行き着くのは至難の業だろう。

それがどれほど大変なことかは、私を乗せたウーバー(Uber)タクシーの運転手に尋ねるといい。彼は、数ブロックを走り回った挙句、自分の地図アプリによるとここで間違いないと言い張り、私を降ろした。そこがアンティークを売るポップアップストアとホームセンターのロウズ(Lowe’s)に挟まれた駐車場だということなんてお構いなしだ。

新本社には「余白がたくさん」

2021年10月、築100年のだだっ広い食料品店倉庫からの改造工事がまだ進められているマザー・ニューヨークの新本社で同社のプリンシパルたちと話したが、どうやら彼らはへんぴな場所を好むようだ。マンハッタンの西外れにあった旧本社も、マザー・ニューヨークがそこに根を下ろした頃、そこがハドソン・ヤード再開発プロジェクトなどで生まれ変わる前は、まだ荒涼とした無人地帯の雰囲気があった。

ジャックハンマーとテーブルソーのアリアが鳴り響くなか、かき消されまいと、マザーの最高戦略責任者兼パートナーのチャーリー・マクキトリック氏は語った。「私たちは間違いなく白紙状態のほうを好む。新しいことをいろいろ試すには、余白はたくさんあるほうがいい」。

マクキトリック氏をはじめとする共同経営たちは、単なる侵入者とはならないよう慎重であった。パンデミック以前の2年近く前に、本社移転の構想段階でゴーワヌス地区とその歴史について学ぼうとコンサルタントのグループを招集している。マクキトリック氏は「広告業界のヒップスター連中をただ送り込んで、自分たちに合わせて近隣に変わってもらうというばかげたことはしたくなかった」と話す。

創業時から不変のクリエイティビティ

ターゲット(Target)、ラングラー(Wrangler)、デイブ・アンド・バスターズ(Dave & Buster’s)、ニューヨーク公共図書館など、多種多様なクライアントの仕事をしてきたマザーが、今月11月にブルックリンの新本社を開設するにあたって目指したのは、「仕事をしない未来」のためのスペースを創り出すことだったという。つまり、生産する場であるだけなく、社内外の人とつながり、インスピレーションを分かち合い、創造できるようなオフィスにしたい、ということだ。

広々とした2つのフロアから構成される6万平方フィート(約5600平方メートル)の独創的なスペースを見学すると、コラボレーションが十分にできるように意識してデザインされていることがわかる。ミッドセンチュリーなソファをふんだんに配したフロアはビーズカーテンや熱帯観葉植物で仕切られ、プライベートオフィスも、数週間ごとに席替えする席もなければ、パーティションで区切られたキュービクルなど一切あろうはずもない。ここはまた、創造性を積極的に奨励する場所でもある。この巨大倉庫の中でふたつと同じように見える場所はないが、にもかかわらず、ある種演出されたかのようなまとまりが見られる。

マザーの理念は常に、小部屋に別れることより、つながっていることだ。1996年、ロンドンでキッチンテーブルを囲み、創業したことは有名だが、そこはクリエイティブなプロセスに全員が平等に関わり、最大限の問題解決が行える場所だった。現在はロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、上海、ラテンアメリカの拠点に500人以上のスタッフを抱える。ゴーワヌスについては、単に従業員だけの場所ではなく、音楽戦略コンサルタント、フードエキスパート、製作会社、メディアや制作の人たちなどのクリエイティブ・文化パートナーといった、より幅広いクリエイティブコミュニティをさまざまに結びつける場所となることを目指している。

新本社の空間は、クリエイティブなプロセスのそれぞれの段階に合わせて利用できるようにデザインされている。マザーによれば、そのデザインを導いた「エネルギー」にはグループで行うアイディエーション、ひとりで考える時間、1対1の打ち合わせやプレゼンがあり、そのほかにも瞑想、授乳、そして誰もが必要とするひとり時間なども考慮に入れたそうだ(食=いのち、ということで、オフィスの入り口には大きなオープンキッチンとコーヒーバーがある。その脇にそびえるのは、スチームパンクなスカーレット・オハラが似合いそうならせん階段だ)。

「人が生きるための空間」

いまや新社屋の話といえば、新型コロナウイルス感染症の影響抜きには語れない。パンデミック以前から計画されていたとはいえ、新本社の広々とした空間はどうしてもソーシャルディスタンスを想起させる。新しいオフィスでの新たな船出は、マザーの共同経営者たちが従業員に示したかったメッセージでもある。マクキトリック氏は「元の場所には誰も戻りたくないことは明らかだった」と述べ、「みんな旧本社をとても気に入っていたが、世界がすべて変わってしまった感じになってしまった。マザーにとって新しい時代だし、新しいやり方で前に進んでいく」と話した。

新社屋の空間は、実際の現実と、そのすべての機会と要求を反映することを意図したものだ。9時5時な人には向いていない。マザーのクリエイティブ責任者である共同経営者のポール・マルムストロム氏は「新しい空間をデザインするときに建築家やデザイナーなどに相談すると、自意識過剰気味な、建築家の主張を表現する方向に進んでしまいがちだ。つまり、完璧な作品だから誰も手を出せなくなってしまい、たとえば教会の大聖堂のように何も触ってはいけないし、何も変えてはいけないことになる」という。だが、新本社の空間はその逆である。すべてが意図的に未完成で不完全で現在進行形なのだ。マルムストロム氏は「当社でこれまで行われてきたことをまさに奨励しているのだと思う。ここではいろいろなことをやってきた。ここは人が生きるための空間だ」と話した。

「人を呼び戻すのは人」

マザーの本社プロジェクトの依頼を受けたのは、ニューヨークの建築事務所シャドウアーキテクト(Shadow Architect)で、代表者のラリー・コーン氏がパンデミックの影響について話してくれた。2020年はじめにデザインにとりかかった矢先に新型コロナウイルス感染症の感染拡大があり、コーン氏と同事務所の上級プロジェクトマネージャー、レイチェル・ニュートン氏は全面中断という事態に直面した。が、6月にはマザーは活動を再開し、新本社の構想にも再び取り組み始めた。コーン氏は「マザーは人々が一緒に仕事をするべきだといっていた。コラボレーションは対面で行うものだと。彼らはとても勇気のある人たちだ。オフィスに戻りたい人たちに戻れる場を作ろう、といっていた」と話す。本社はマザーの150人のスタッフ全員を収容できる。

コーン氏によれば、コロナ禍のなかでの作業には興味深いものがあったという。デザイナーたちは、自分たちが創り出す新しい職場で働く人たちと同様の条件で仕事をしなければならなかったからだ。当然、建物には対面でのコラボレーションに加えてリモート接続のための技術を装備したスペースも用意されている。

ほとんどの企業がそうであるように、マザーも、趣向に富む新社屋の扉を大きく開きながら、オフィス再開の具体的な実施計画についてはまだ手探り状態である。早くオフィスに戻りたいというスタッフもいれば、それほど熱心に戻りたいわけでもないスタッフもいる。新オフィスは、同僚と物理的なつながりを断ち切られてしまったスタッフたちが戻ってくる究極のきっかけとなるとマクキトリック氏は考えている。

最終的に人を引き寄せるのは日々の交流だ、という考えである。

マクキトリック氏は次のように語った。「一部には、このオフィスという箱ものの魅力の側面もあるかもしれないが、大部分は人だ。戻って来るのにしばらく時間はかかるかもしれないが、究極的に人を呼び戻すのは人だ」。

[原文:With new Brooklyn HQ, Mother NY imagines ‘the future of not working’

TONY CASE(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)