オンラインゲームのプラットフォーマー、ロブロックス(Roblox)の直接上場や、「あつまれ どうぶつの森」や「フォートナイト」の大ヒットなど、ゲーム業界の勢いは最高潮に達している。そこで、ゲーム内に広告出稿するブランドが続々と増えてきた。そして、エージェンシーもまた積極的に波に乗り出そうとしている。
ゲーム内に広告出稿するブランドが続々と増えている。そして、エージェンシーもまた積極的に波に乗り出そうとしている。
オンラインゲームのプラットフォーマー、ロブロックス(Roblox)の直接上場や、「あつまれ どうぶつの森」や「フォートナイト」の大ヒットなど、ゲーム業界の勢いは最高潮に達している。それゆえ今、ゲームを利用したマーケティングサービスも注目の的だ。ゲームコミュニティの影響力について、遅まきながら認識を新たにするブランドも増えている。確かに、ヘッドホンブランドなど、以前からゲーム業界に強く結びついていた企業も存在する。一方で、これまでゲームへのマーケティングを避けていたブランドが多かったのも事実だ。そんななか、Twitchなどのゲーム配信が盛んなプラットフォームや、フォートナイトのようなゲーム内の仮想プラットフォームなどへの広告出稿に積極的に取り組むエージェンシーが増えている。
たとえばマーケティングエージェンシーのポディーン(Podean)は、新部門としてライブクラフト(LiveCraft)を立ち上げ、Twitchや Amazon Live、インスタグラムライブといったプラットフォームにおける生配信時の広告枠の販売に取り組んでいる。また、エージェンシーのトゥーファイブシックス(Twofivesix)も、ワービーパーカー(Warby Parker)をはじめとするブランドとの提携を進めている。さらに、ブロックスビズ(Bloxbiz)をはじめとする新興のアドテク企業も登場し、フライシュマン・ヒラード(FleishmanHillard)といった名の通ったPR企業もゲームに力を入れることを表明している。
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メインカルチャーにまで発展
ポディーンのCEO、マーク・パワー氏も、ライブクラフトでゲームへ非常に注力すると発言している。Amazonが所有するTwitchは、ゲーマーがメイン層で、生配信がもっとも活発なプラットフォームのひとつとなっている。パワー氏はTwitchに注目するとともに、近いうちに「没入感のあるショッピング体験を提供したい」と語る。「どういったプラットフォームやエコシステムが没入感を提供できるだろうかと考えたときに、なんと言ってもゲームが最適だ」。パワー氏は最近、e.l.f.コスメティックス(e.l.f. Cosmetics)とTwitchの配信者ルーザーフルーツ氏の提携を仲介した。同氏はe.l.f.の製品を使ってフォートナイトのアバターを再現するとともに、ゲーム内に同ブランドを登場させる試みを行っている。
戦略コンサルタント会社のトゥーファイブシックスの創業者、ジェイミン・ウォーレン氏は「ゲーム会社側からというよりは、ブランド側の働きかけが盛んになっている」ことが、昨今の取り組みにつながっていると指摘する。ゲームのもたらすリーチは以前から非常に強力で、その収益は映画やテレビのそれをも上回ってきた。しかし、以前とは構図が変わった点もある。「ゲームをやらない人にも接点が増えていることだ」とウォーレン氏は指摘する。フォートナイトやどうぶつの森、ロブロックス、そしてAmong Us。ゲーマーでなくとも、これらの名前を知っているだろう。今やゲームはかつてないほどの広がりを見せ、メインストリームの文化にまで発展したと言っていい。
ゲーム業界の勢いは増すばかりである。なによりゲーマー層は以前よりも多様になり、そして熱心なゲーマーが増え続けていることが大きい。2020年7月に発表されたNPDグループ(NPD Group)の調査によると、2020年のゲーム人口は2018年から3200万人も増えている。そしてゲームの平均プレイ時間も、週に12時間から14時間へと大きく伸びた。多くのブランドにとって、もはや「ゲーマー」層はニッチではない。
ブランドにとって大きな機会
ウォーレン氏は2011年にキルスクリーン(Kill Screen)というゲーム専門のメディアを立ち上げた。同氏にとって、これがブランドのゲーム業界への進出について考えるきっかけになったという。収益を確保するため、同サイトはブランドコンテンツを作成、展開している。その過程で、「ブランドにとって大きなチャンスが潜んでいる」と気づいたという。そして同氏はブランドのゲーム業界への広告出稿を推進するため、2017年にトゥーファイブシックスを立ち上げた。「ゲーム業界の規模に疑いの余地はなかった。だが一方で、ブランド側がゲームへの出稿に対して誤った解釈をしていた」と振り返る。
とりわけゲームを取り巻くエコシステムについて、どういう取り組みが効果的か理解できていないブランドが多かったという。「経験上、ブランドは大ヒットコンテンツに集まる傾向がある」とウォーレン氏は語る。たとえば、どうぶつの森に登場する島は、多くのブランドをひきつけた。そしてこの種の大ヒットコンテンツにおけるキャンペーンは、メディアにも大きく取り上げられる。一方で、こういったアプローチはエンジニアにとっては時間がかかり、リーチも限定的になってしまう場合が少なくない。そこでトゥーファイブシックスは、クライアントに合わせてTwitchやRedditといったオンライン上のゲームコミュニティへのブランド展開を進めた。
ゲーム業界に焦点を当てたマーケティング企業は増えている。たとえば、数カ月以内に立ち上げ予定のブロックスビズもそのひとつだ。ブロックスビズは、ロブロックスへの展開をメインに想定しているエージェンシーである。ロブロックスのゲーム内に広告やポスターを展開し、ゲーム開発者と広告収益を共有する。同社のCEO、サム・ドロズドフ氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)に対し「製品の設置やスキン、キャラクター、ゲームのテーマ、完全協賛型にいたるまで、実にさまざまな形での提携が考えられる」と語る(ゲーム内広告自体は昔からあるアイデアだ。たとえばビッドスタック[Bidstack]は2015年から同種のサービスを提供している)。一方、米国の調査会社のデュビット(Dubit)はロブロックスでブランド提携を行うゲームの開発を開始した。さらに、小売企業と提携することなく、独自のホワイトラベル商品として普及したゲームも登場している(2020年のゲームアプリ「デザイン・ホーム」などが典型例だ)。
取り組みを成功させるために
こうしたアプローチがすべてうまくいくとは限らない。ウォーレン氏は、「ゲーマーと言っても、どの層にリーチすべきかを真剣に想定しているブランドが成功する」と語る。「そして嘘くささがないことも重要だ」と、同氏は指摘した。
一方、エコシステムにおける変化も見逃せない。ことゲームへの広告出稿について、長年にわたりブランドやエージェンシーは自らに枷をはめてきた。エージェンシーは「ゲームの訴求力をブランドは理解できないだろう」と決めつけ、ゲームを利用した有効なアイデアでさえ売り込もうとしてこなかった。だが「2021年に入って、ゲームへの関心を深める広告主が増えている」とパワー氏は語る。「そしてゲーム業界に飛び込むには、将来を見通し、またリスクを計算しつつ、積極的に施策を講じるCMO(最高マーケティング責任者)の存在が欠かせない」。
[原文:Why new agencies are trying to capitalize on the online gaming boom]
MICHAEL WATERS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU