ギャリーメディア(Gallery Media)は、2021年前半、ブランドパートナーのためにオリジナル楽曲を制作・提供するという、古典的なジングル広告戦略をあえてスタートした。
ギャリーメディア(Gallery Media)は、2021年前半、ブランドパートナーのためにオリジナル楽曲を制作・提供するという、古典的なジングル広告戦略をあえてスタートした。
広告業界のトランプと呼ばれた男、ギャリー・ヴェイナーチャックが立ち上げたこのメディア企業は、半年程前、音楽制作専門の社内カンパニーとして機能する新部門を設立し、クライアントのためにオリジナル曲の制作をスタート。これらの楽曲は、ギャリーメディアがTikTokやインスタグラムのリール(Reels)で展開する、ブランデッドキャンペーンで用いられる。
「TikTokを活用するうえで音楽は欠かせない要素だ。我々が創り出しているのは、プラットフォームと人々をつなぐ、ジングルの新たな形だ」と、ギャリーメディアのCEOライアン・ハーウッド氏は語る。
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オーディオマーケティングをより安価に
ギャリーメディアが、プロデューサー3名とフリーランスのミュージシャン数名からなる、音楽作りに特化した新部門を立ち上げたのは、ソーシャルメディアで無数のキャンペーンが展開されるなか、ブランドパートナーのそれを目立たせるためだ。ハーウッド氏によると、オリジナルのサウンド/音楽を擁するコンテンツは、TikTokやインスタグラムといったプラットフォーム上に溢れる既存曲と比べ、VTR(view-through rate)が52%も高いことが判明しているという。
ストリーミング/ソーシャルインテリジェンス企業Conviva(コンヴィーヴァ)で、ストラテジー部門VPを務めるニック・シセロ氏も、「独自のサウンド作りは、強固なアイデンティティをブランドに付与する」と語る。「TikTokのオーディエンスは、特定のアーティストだけに親近感を抱くわけではない。いわゆるイヤーワーム(耳にこびりついて離れない曲/メロディ)にむしろ親近感を抱く。そのサウンドがいつまでも人々の頭に残り、ひいてはそのブランドの吸着力を増すのだ」。
昨今、ブランドがオリジナル音楽を採用するケースは、大規模なソーシャルメディアキャンペーンでも見られるようになってきた。しかし通常、オリジナル曲の制作費やポピュラーミュージックの商用使用の許諾料は、極めて高額だ。ハーウッド氏は「オーディオマーケティングの、より安価な手段を提供したいと考えた」と述べる。
ハーウッド氏は、具体的な価格についての明言は避けた。ただ、同氏が米DIGIDAYに語ったところによれば、既存曲の商用利用の許諾料やレコード会社に支払うオリジナル曲の制作費が6桁になることも少なくないなか、同社はその7.5~8割ほど安く提供しているという。
これまでの取り組み
ギャリーメディアはこれまでに、ベルギーを拠点とする酒類メーカー、アンハイザー・ブッシュ・インべブ(AB InBev)のカットウォーター・スピリッツ(Cutwater Spirits)や、ブラジル発祥のスポーツブランド、アスレタ(Athleta)、化粧品ブランドのカバーガール(Covergirl)をはじめ、各種ブランドが実施した10以上のキャンペーンにオリジナル音楽を販売している。これらの楽曲は、ソーシャルメディアにおけるプレゼンス向上のため、ギャリーメディアのインフルエンサーネットワークを通じて拡散された。
たとえば、カットウォーター・スピリッツとアスレタのキャンペーンでは、フリーランスのミュージシャンが制作した楽曲を使用。25人以上のインスタグラム、およびTikTokのインフルエンサーに料金を支払い、それぞれのアカウントでシェアさせた。一方アスレタのキャンペーンでは、オーガニックで2000人以上のTikTokerが、オリジナル曲をシェアしたという。
さらにカバーガールのキャンペーンでは、一歩進んだ取り組みが行われた。ギャリーメディアは、TikTokインフルエンサーで音楽プロデューサーのKATO ON THE TRACK(@katoproducer:TikTokのフォロワー数25万人以上)に、有償でオリジナルのビートを制作を委託し、KATO ON THE TRACKのTikTokアカウントで公開させた。そして、「カバーガール(Covergirl)」や「クリーン(clean)」といったワードが歌詞に含まれるこの楽曲を、KATO ON THE TRACKとデュエットしたいオーディエンスを募集。優勝者には、賞金1000ドル(約11万円)を贈るとともに、完成したフルバージョンの楽曲を、後日インフルエンサーらにTikTokでシェアさせたという。
ギャリーメディアの攻めの姿勢は、オリジナル曲の制作に留まらない。たとえばホテル大手のマリオット・ボンヴォイ(Marriott Bonvoy)のキャンペーンでは、旅行の魅力を説く同社のマニフェストを、朗読的なモノローグに作り替えた。
オリジナル楽曲の有用性
TikTokで人気が出ている楽曲の利用は、同プラットフォームにおけるオーディエンス構築に有用だ。しかし、無料使用が許されるのはTikTok上に限られると、シセロ氏は指摘する。したがって、マルチプラットフォームキャンペーンで展開するには、多額の許諾料が必要になるという。
「TikTokを起点とするオリジナル曲の制作は、ほかのプラットフォームや広告で、リーチ、および再生回数を向上させるのに、極めて効果的だ」とシセロ氏。「オーディオは、動画や画像といったほかのコンテンツと並行して楽しむことができる。その点を活かし、音楽をブランディングの鍵として利用すれば、メッセージの効果をさらに高められる」。
TikTokは重要な存在
TikTokはギャリーメディアのビジネスにとって重要な存在だ。昨年度に関していえば、TikTokはギャリーメディアに7桁半ばの収益をもたらしている。
また、ギャリーメディアが提供するソーシャルでのブランデットコンテンツ販売、インフルエンサーマーケティング、ソーシャルクリエイティブ、そして最近立ち上げた音楽部門などといったソーシャルメディア事業は、同社の総収益の約45%を占める。なおハーウッド氏によると、これらのソーシャルメディア事業は現在、前年比200%増を達成する勢いで成長しているという。
[原文:Why Gallery Media is writing songs for brands on TikTok and Instagram]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)
ILLUSTRATION BY IVY LIU