- ボートハウスのCEO、ジョン・コナーズ氏は、多くのエージェンシーがAIを単に「見せびらかす」道具として利用していると感じている。実際の成果を追求するため、エージェンシー全体にAIの権限を分散させることによって、リスクを分散し、価値探究に努めている。
- コナーズ氏は社内のチームがそれぞれAIの一部に責任を持つようにしたいと構想。主要なサービス領域ごとにAIの適用を考慮し、最終的な目標はリーチの最大化としている。
- 大規模クライアントは往々にしてAIを一つの分野に限定してしまうが、サイロ化されていない小規模のクライアントはAIを多方面に応用することができ、その結果AIの真のポテンシャルを発揮することができる。
ジェネレーティブAIは、エージェンシーがクライアントのために何を実現できるかということに関して、おそらくそれ以前のどのアドテクよりも、公平な競争の場となる可能性を秘めている。小規模なエージェンシーでも、ジェネレーティブAIの無限にも思えるポテンシャルを使いこなすことを学べば、大手の競合ができることを何でもやってのけられるだろう。
ボストンを拠点とする独立系エージェンシー、ボートハウス(Boathouse)のCEO、ジョン・コナーズ氏は、大小さまざまな競合エージェンシーに対して、これまで常にやや逆張りの姿勢をとってきた。そしてAIに関しては、あまりに多くのエージェンシーが、成果を上げることよりも、ただ見せびらかすためにこの技術を利用していると考えている。コナーズ氏は、米国糖尿病学会やマス・ジェネラル・ブリガム病院などを含むボートハウスのクライアントのために、より具体的な成果を生み出したいと話す。
そこで、生来の懐疑主義者であるコナーズ氏は、AIを完全に排除するのではなく、エージェンシーのすべての部門に権限を与え、最大のリターンを得られるジェネレーティブAIの採用方法を独自に模索させることで、賭け金を分散させている。
米DIGIDAYは、AIに対してより分散的なアプローチをとることで、この分野のリーダーになり得ると考えるコナーズ氏に話を聞いた。なお、インタビューは読みやすさのために編集を加えてある。
◆ ◆ ◆
――テクノロジーの問題解決に、より調査研究的な観点からアプローチしているようだが。
本物のテクノロジー企業がAIに多額の資金を投じている今、なぜエージェンシーがテクノロジー企業のふりをするのだろうか。ビジネス上の意思決定として実に興味深い。我々は自分の得意分野を知るべきだ。
――ならばボートハウスはどのようにAIを業務に取り入れているのか。
今は誰もがAIを売りにしているので、実際にどれだけの参入者がいるのか把握するのに苦労している。我々としては、予算をもう少し小さく分割し、いわば一口サイズにして投資することで、誰がハッタリで、誰がそうでないかを[続きを読む]
- ボートハウスのCEO、ジョン・コナーズ氏は、多くのエージェンシーがAIを単に「見せびらかす」道具として利用していると感じている。同氏は社内でAIの権限を分散させ、リスクを分散しつつ、実用的な価値探究に努めている。
- コナーズ氏は社内のチームがそれぞれAIの一部に責任を持つようにしたいと構想。主要なサービス領域ごとにAIの適用を考慮し、最終的な目標はリーチの最大化としている。
- 大規模クライアントは往々にしてAIを一つの分野に限定してしまうが、サイロ化されていない小規模のクライアントはAIを多方面に応用することができ、その結果AIの真のポテンシャルを発揮することができる。
ジェネレーティブAIは、エージェンシーがクライアントのために何を実現できるかということに関して、おそらくそれ以前のどのアドテクよりも、公平な競争の場となる可能性を秘めている。小規模なエージェンシーでも、ジェネレーティブAIの無限にも思えるポテンシャルを使いこなすことを学べば、大手の競合ができることを何でもやってのけられるだろう。
ボストンを拠点とする独立系エージェンシー、ボートハウス(Boathouse)のCEO、ジョン・コナーズ氏は、大小さまざまな競合エージェンシーに対して、これまで常にやや逆張りの姿勢をとってきた。そしてAIに関しては、あまりに多くのエージェンシーが、成果を上げることよりも、ただ見せびらかすためにこの技術を利用していると考えている。コナーズ氏は、米国糖尿病学会やマス・ジェネラル・ブリガム病院などを含むボートハウスのクライアントのために、より具体的な成果を生み出したいと話す。
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そこで、生来の懐疑主義者であるコナーズ氏は、AIを完全に排除するのではなく、エージェンシーのすべての部門に権限を与え、最大のリターンを得られるジェネレーティブAIの採用方法を独自に模索させることで、賭け金を分散させている。
米DIGIDAYは、AIに対してより分散的なアプローチをとることで、この分野のリーダーになり得ると考えるコナーズ氏に話を聞いた。なお、インタビューは読みやすさのために編集を加えてある。
◆ ◆ ◆
――テクノロジーの問題解決に、より調査研究的な観点からアプローチしているようだが。
本物のテクノロジー企業がAIに多額の資金を投じている今、なぜエージェンシーがテクノロジー企業のふりをするのだろうか。ビジネス上の意思決定として実に興味深い。我々は自分の得意分野を知るべきだ。
――ならばボートハウスはどのようにAIを業務に取り入れているのか。
今は誰もがAIを売りにしているので、実際にどれだけの参入者がいるのか把握するのに苦労している。我々としては、予算をもう少し小さく分割し、いわば一口サイズにして投資することで、誰がハッタリで、誰がそうでないかを見極めようとしている。
相対的に言えば、我々は75人の小さな企業だ。そのため、50万ドル(約7300万円)を小分けにしてさまざまなことをテストする。研究開発予算はあるが、今は研究開発しなければならないことが多すぎるくらいだ。
――誰かAI関連を指揮する担当者がいるのか。
私がやろうとしているのは、リーダーシップチームの各パートがそれぞれAIの一部に責任を持つようにすることだ。我々は基本的に、広告、デジタル、ソーシャル、コミュニケーション(当社が提供する4つのサービス)をマクロな視点で捉え、その上にマップを作成した。我々は基本的にリーチビジネスであり、肝心なのは人々にリーチするかしないかだ。このリーチという考えから出発すると、これらの各チャネルにおいて、我々が現在クライアントのために生み出しているリーチはどれくらいか? そして、実際にリーチを増やしたいなら、どのようなツールを使うのか? (そう考える先には)おのずとアルゴリズムベースのメディアチャネルが見えてくる。
その気になれば一日中でもジェネレーティブAIを使ったテレビ広告を(制作)できるが、ベースにアルゴリズムがないため、リーチを構造的に変えることはできない。テレビ広告を1本ずつ買わなければならない状況は依然として同じだ。制作費をほんの少し、予算全体の2%ほど節約できる(かもしれない)が、リーチはまったく変えられない。
そこで、このマップから見えてくるものがある。ソーシャルはアルゴリズム化され、メディアもアルゴリズム化が進み、もはやメディアもソーシャルビジネスと言っていいほどだ。つまり、AIを使ってより多くのソーシャルとコミュニケーションを生み出すことができれば、リーチ曲線に影響を与えることができるわけだ。リーチとインパクトを実際に拡大できるところにAIを適用するのだから、クライアントへの説明もはるかに簡単になる。そのため各チームは自分たちのツールを評価しているが、すべてリーチ目標に照らしての評価だ。
――つまり、他のエージェンシーが他の時代に足跡を残したように、AIの活用において足跡を残すことが目標ということか。
我々はこの流れをリードするほど大規模ではないが、それではAI時代を代表するエージェンシーはどこになるだろうか? この時代のレイザーフィッシュ(Razorfish)になるのはどこだろうか? 我々は、大手エージェンシーがデジタル時代に乗り遅れたことを構造的に知っている。彼らはAIの流れにも乗り遅れるだろう。なぜなら、彼らは自分たちではどうすることもできないし、また、自分たちの収益モデルにあまりにも依存しているからだ。対する我々は、ゲームに参加できるポジションにつけようとしている。
幸運なのか利口だったのか、我々にとって最善だったのは、戦略的AIから始めたことだった。そこから始めたおかげで、我々は今や、AIに関して単なるクリエイティブな議論ではなく、ビジネス的な議論ができるようになっている。AIが、CEOや取締役会にとって実際に重要な事柄と結びついている。それが大きな違いを生んでいると思う。
――では、AIをクライアントのためにどのように活用するのか。
我々は、初期の最良のケーススタディとして、小規模クライアントに注力しようとしている。そこはまだサイロ化されていないからだ。サイロ化はAIにとって壊滅的だ。AIが求めているのは、ソーシャル、ペイド、コミュニケーションの垣根を超えて発展することだ。1つのサイロの中だけに留まることではない。しかし、多額の予算を投じる大規模クライアントが相手だと、彼らは確実にAIを1つのサイロに閉じ込めておこうとする。そうなると、AIは死んでいく。しかし、サイロ化していない小規模、中堅企業のクライアントに導入すると、我々はソーシャルやコミュニケーションの垣根を越えて活動できるため、AIは速やかに発展する。
[原文:Why Boathouse’s CEO is taking a decentralized approach to using AI for clients]
Michael Bürgi(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)