最近はどのアドテクカンファレンスでも、ブロックチェーンによるプログラマティックバイイングの変革に関するプレゼンが少なくともひとつはあるようだ。しかし、アドテクの透明性の問題にブロックチェーンを役立てるには、乗り越えるべき障害がまだたくさんある。それらは、1社だけの取り組みで変えられるものではない複雑なものだ。
最近はどのアドテクカンファレンスでも、ブロックチェーンによるプログラマティックバイイングの変革に関するプレゼンが少なくともひとつはあるようだ。しかし、アドテクの透明性問題にブロックチェーンを役立てるには、乗り越えるべき障害がまだたくさんある。
暗号通貨を支えるブロックチェーン技術は、プログラマティックバイイングの透明性を高めたい広告バイヤーやパブリッシャーたちからすると魅力的だ。というのも、ブロックチェーンは、セキュリティを損なうことなく大量の情報(ブロック)を追加できるオープンな取引台帳だからだ。追加情報は暗号化されるので誰もブロックチェーンを改竄できず、そのため、金融の世界で通貨やデータの転送に役立っている。
しかし、ブロックチェーンはいまのところ、リアルタイム入札の現場で使うにはあまりに遅い。それに、機能させるには広告のサプライチェーンのあらゆるポイントで採用される必要があり、この技術の複雑さを考えると、普及にはしばらく時間がかかるだろう。
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「実装は不可能に近い」
「現実問題として、この業界はまだ古い部分が残っている」と語ったのは、広告分析企業のアドヤッパー(AdYapper)のCEO、エリオット・ヒルシュ氏だ。「エージェンシーは論理的に欠陥のあるCPMの価格モデルに基づいていないソフトウェアに、どう支払えばいいのかさえ理解できていない。こんな簡単なものがわからないのならば、広告エコシステムの問題点をブロックチェーンを使って直すのはずっと先のことになるだろう」と語った。
ブロックチェーンは、分散型のフォーマットで機能し、世界中にあるネットワークが取引を検証する。ブロックチェーンを使ったドメインスプーフィング対策製品(特許出願中)を扱うアドテク企業、レベルAI(Rebel AI)の創業者でCEOのマニー・プエンテス氏によると、この検証と暗号化には膨大な演算能力が必要で、そのため、検証には10秒以上、時には1分以上かかることもあるという。受け渡しをひとつひとつ検証しなければならないので、サプライサイドプラットフォーム(SSP)、アドエクスチェンジ、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)、リターゲターなどの中間業者がキャンペーンに絡むと、そのたびにレイテンシー(読み込みの遅延)が悪化する。一方、プログラマティックバイイングはミリ秒の世界で行われているとされている。
「話すのは楽しい最新の話題だが、実装はまったくもって不可能に近い」と、プログラマティックのプラットフォームであるディジラント(Digilant)のパートナーシップ責任者、ウェズリー・ファリス氏は語った。
分散型だからこその弱点
このプロセスを高速化するには、暗号化にかかわるコンピューターの演算性能を大幅に向上させる必要がある。コンピューターは日々性能が上がっているので、ブロックチェーンがいずれプログラマティックバイイングに採用される可能性はある。しかし、ブロックチェーンは分散型であることから、ひとつの企業がスーパーコンピューターに投資したからと言って、ブロックチェーンが高速化されるというわけではない。スピードアップにはたくさんの人がハードウェアをアップグレードする必要があり、いまのところ経済的にそれは不可能だ。
「高速化はもっとも時間のかかる復号タスクがネックになる。信じられないほど素晴らしい技術かもしれないが、1ドル投じれば2ドル得られるということではければ広まらないだろう」とプエンテス氏は述べた。
インタラクティブ広告協議会(IAB)のテックラボ(Tech Lab)でゼネラルマネージャーを務めるアランナ・ゴンベール氏は、ブロックチェーンによる詐欺対策の方法を探ってはいるが、スピードの問題が理由でまだブロックチェーンの採用には至っていないと語った。ただ、ブロックチェーンのスピードはいずれ向上するとゴンベール氏は見ており、提供される広告インプレッションに関わるすべての関係者について透明性を高めるサプライチェーンプロトコルの改訂を進めるなかで、テックラボがブロックチェーンを手がけるアドテク企業と提携することはあり得るだろう。
誠実ささえあれば解決する
ブロックチェーンがリアルタイム入札に使われるのはまだずっと先の話だが、広告主がPMPでの取引を設定する際、協力する相手を認証するのにブロックチェーンが役立つかもしれないとプエンテス氏は言う。PMPは、オープンエクスチェンジに見られるワケのわからなさを軽減するのに役立つとされているが、それでもドメインスプーフィングという問題がある。しかし、PMPの取引の設定にブロックチェーンを使うことで、そうした不正行為を排除する検証を強化できる。
ブロックチェーンには将来性があるが、アドフラウド研究者のオーガスティン・フー氏は、サプライチェーンの不透明さで得をしているプレーヤーがあまりに多いことから、ブロックチェーンがアドテクの大掃除につながるという話を疑う。
「サプライチェーンの透明性を求めているのならば、嘘をやめる、ズルをやめる、マージンのアービトラージによってクライアントに吹っかけるのをやめるなど、透明性を達成するもっと簡単な方法がほかにたくさんある。デジタル広告の透明性の問題を解決するのに、証明されていないバズワードを用いる必要はない」とフー氏は語った。
Ross Benes (原文 / 訳:ガリレオ)