デジタルマーケティングを変えるテクノロジーをわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回のテーマは「VAST(バスト)」です。「動画広告掲出テンプレート(Video Ad Serving Template)」の略称。米業界団体のインタラクティブ広告協議会(IAB)が策定した標準規格です。
最新のVAST4.0の策定にはGoogle、マイクロソフト、ソニー、AT&T、NBCユニバーサル、ターナーブロードキャスティングシステム、PGAツアーという多様な企業が関わっています。つまり動画広告業界の標準的な規格なのです。
デジタルマーケティングを変えるテクノロジーをわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回のテーマは動画広告の標準規格「VAST(バスト)」です。
このところ支出額が伸びている動画広告。今後数年間は成長するという予測もあります。サイバーエージェントとシード・プランニングによる調査によれば、2014年の日本国内の動画広告市場は300億円に到達し、前年比約2倍まで拡大しました。同調査は2017年には2013年の約5.6倍、880億円に到達し、スマートフォン比率は過半数に及ぶと予測しています(下図)。
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マーケターにとって、動画広告に関するガイドラインの知識が必要になる日は、そう遠くないでしょう。広告テクノロジー業界では「VAST」「VPAID(ブイペイド)」「MRAID(エムレイド)」などのルールが生まれ、状況に合わせてアップデートされているのです。
では、VASTについて、一問一答で紐解いていきます。
そもそもVASTとは何でしょうか?
「動画広告掲出テンプレート」(Video Ad Serving Template)の略称です。米国のネット広告業界団体であるインタラクティブ広告協議会(IAB)が策定した米広告業界標準規格です。最新のVAST4.0の策定にはGoogle、マイクロソフト、ソニー、AT&T、NBCユニバーサル、ターナーブロードキャスティングシステム、PGAツアーという多様な企業が関わっています。つまり動画広告業界の標準的な規格なのです。
規格といわれても……具体的になにを決めているのですか?
そうですね、もう少し噛み砕きましょう。IABによると、VASTはビデオプレーヤー上でどのURLの広告を配信するか、どのような広告を表示させるか、どのぐらいの長さなのか、ユーザーが広告をスキップできるかどうかなどを規定しています。
VAST はインストリーム型の動画広告に適用され、広告サーバーと、Webサイト上のビデオプレーヤーのコミュニケーションを円滑にします。VAST規格を採用していれば、広告主はインプレッション数、クリック数、再生数、一時停止数、ミュート数、プレイヤーを拡大した回数、スキップのタイミングなどのデータを取得できるようになります。広告主と媒体社の両者に利益があるわけですね。
なるほど。でも、規格外のものはどうなるのでしょう?
いい質問ですね。VASTは選択した広告フォーマットにはない要素が広告サーバーから送られた広告に含まれていた場合、動画プレーヤーでは再生可能な要素のみを再生し、それ以外の要素はすべて無視する特徴を持ちます。
じゃあ、これが求められる理由は?
VASTが「動画プレイヤーと広告サーバーに共通言語をもたらす」ものだからです。この基準のおかげで、動画広告の流通が円滑になり、パブリッシャーが動画広告枠を販売し、収益を上げることができるスケールが生まれました。
ところで、VASTはアップデートを続けているようですね。
VASTは広告主やパブリッシャーの動画広告への需要とともに育ちました。動画広告を掲出するWebサイトを運営する媒体にとって、動画フォーマットを選べるので助かります。インタラクティブ広告協議会は、2015年11月になってVAST 4.0をリリースしました。2012年以来のアップデートです。
これでさらに普及が進むんでしょうか?
うーん、そこが難しいところです。実は、業界での受け入れられ方が、VASTの普及において大きな障害になっているのです。
モバイルビデオ広告を提供する企業エアサーブ(AerServ)のジョッシュ・スペイヤー氏は「VAST4.0では広く意見を求めたが、動画プレーヤーやパブリッシャーで、バージョン3.0を使っているところが少なく、大半がいまでもバージョン2.0を使っている」と、語っています。「新しいVASTで新規に加わった機能や、使えそうな機能があることはあるが、業界が受け入れる速度が遅いので、VASTの歩みも求められているレベルのものにはなっていない」。
ビューアビリティ(可視性)の問題は絡んでいますか?
多少はありますね。最新の4.0が出るまでビューアビリティに関する基準がなかったことが、VASTにとって大きな制約になっていました。
その代わり、業界はVPAID(Video Player Ad-Serving Interface Definition:動画プレーヤー広告インターフェース定義)というAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)により応急処置としました。VPAIDは動画プレーヤーと動画広告広告の間でインタラクティブなやりとりをできるようにします。
PCに偏った話のようですけど、モバイルはどうなんでしょう?
VASTもVPAIDも、モバイルやモバイルアプリが台頭する前に相次いで策定されました。だからIABではMRAID(Mobile Rich Media Ad Interface Definitions:モバイル・リッチ・メディア広告インターフェイス定義)をつくりました。これが現在もっとも注目を浴びるモバイル動画広告の共通言語になっています。2015年3月には、IABがMRAIDの基準を改訂しました。VPAIDの規定と整合するようにしたのです。
たった1回の動画再生に、いろんな意味が含まれていたんですね。
ええ、ビジネスは大変なんです。
Ricardo Bilton(原文 / 訳:南如水)
Image from Thinkstock / Getty Images