ワクチンの接種が進み、コロナ前の日常へと戻りつつある米国。だが、リモートワークからオフィスへ、Zoomから会議室へと移ることに抵抗を感じる人は多い。その一方で、実はオフィスへ戻ることへのメリットを感じている人も多い。
ワクチンの接種が進み、コロナ前の日常へと戻りつつある米国。だが、リモートワークからオフィスへ、Zoomから会議室へと移ることに抵抗を感じる人は多い。
「デバイスをほかの人と共有する」「ソーシャルディスタンスを取り払う」「昔のように交流する」ことへの恐怖心が拭えないからだ。
これはあらゆる職種で見られる傾向だろう。だが、とりわけクリエイティブ、接客業、人材採用担当者、営業職といった「顔を合わせたほうが上手くいく」とされてきた職種ほど、この傾向は強くなるのだ。
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コロナに感染するのではないかという恐れ、特に職場や出勤・出張時の電車やバスに対する恐怖心はなかなか取り払えるものではない。その一方で、実はオフィスへ戻ることへのメリットを感じている人も多い。同僚との再会や、自宅と職場、つまりオン・オフの明確な切り替えができること。オンラインのプレゼンティーイズムやZoom疲れとおさらばできることへの安堵感…。
経営陣は十分な計画が必要
セントルイスを拠点とし、無人受付システムの開発をグローバルに展開するサインインアップ(Sign In App)でCEOを務めるダン・ハーディング氏は、オフィス復帰の必要性を説いている。「オフィス復帰にあたって、経営陣は十分な計画を立てておく必要がある。共用の作業・休憩スペースの安全を確保するだけでなく、社員に安心感を与えることが重要だ。たとえば社員や社外のスタッフの動きを常に把握し、接触追跡を行うといった取り組みが求められる。また、受付やサインイン時に健康関連の質問を行うのも、社員の身体的・精神的な健康を把握するのに効果的だろう」。
同社のアンケートによると、「オフィスへ復帰する気がある」と回答した社員は全体の55%で、女性よりも男性の割合が高かったという。また、年齢で見ると、若い世代のほうが慎重な姿勢を見せている。企業としては社員の気持ちに寄り添い、一人ひとりの懸念に柔軟に対応することが求められる。
ロンドンのクリエイティブエージェンシー、トゥエンティテン(20ten)の同創業者であり、マネージングパートナーとして同社を率いるオリー・ビッツ氏は、オフィスをより魅力的な場所にしようと取り組んでいる。「月に1度、オフィスにシェフを招き食事を提供するほか、夏のあいだ、金曜日は退社時間を早め、バルコニーでバーベキューの開催を考えている。無論、ここロンドンの天気を伺いながらだが」。
「適切な環境を作ったうえで社員を迎えたいと考え、より大きなオフィスに移転した。バルコニー付きの、広々としたオフィスだ。社員には安心して、楽しんで働いてもらいたい」とビッツ氏は話す。
一人ひとりのニーズに対応
一方、カンファレンスや展示会といった各種のイベントについては、今後どうなるのか? 徐々にバーチャルからリアルへ切り替わっていくと予測されている。
たとえば世界中にネットワークを張りめぐらし、その恩恵を受けてきた音楽業界では、間違いなくリアルイベントが増えると想定されている。レコード会社のBMGでグローバルコーポレートコミュニケーション担当EVPを務めるスティーブ・レドモンド氏は、2020年2月からパンデミック対応を世界規模で調整・統括するチームの一員としても働いている。
「多くの企業と同様、さまざまなレベルで社員のサポートを行ってきた」とレドモンド氏。パンデミック当初はリモートワークに消極的な社員もいたが、今は逆にパンデミック前のような人や社会とのつながりをどうやって取り戻すかが課題だという。
「オーストラリア支社ではオフィス勤務が普通となっており、コンサートなども開催されている。人と直接会いたい、社会とより積極的に関わりたいという欲求は、不安を上回っていると実感している」。
BMGはアンケート調査を通じて、社員がどう感じているか把握しようと努めている。その結果、社員は「リモートワークの継続を望みつつ、出社して仕事をすることの価値も認めている」ことが分かった。「ただし会社としては、急激な変化は行わない方針だ。これまでと同様、一人ひとりのニーズに応えることを重視している」とレドモンド氏は話す。
自分のことは自分で決断させる
人材業界もまた、直接会うことが重要とされてきた。ニューヨークに拠点を置く人材会社、ノア・スタッフィング・グループ(Noor Staffing Group)の人事責任者ジェイク・エレット氏も、不安を覚える人はいるとしつつ、次のように述べている。
「さまざまな反応や行動が見られる。不安や緊張を覚える登録スタッフもいれば、逆にコロナ前に戻れると喜んでいる登録スタッフもいる。採用する企業側も同様だ。不安視する企業、オフィス復帰に積極的な企業、それぞれの思惑がある。私はこうしろ、ああしろと指示するのではなく、自分のことは自分で決断させるのが最善だと信じている。バーチャルを継続したいという人には継続させれば良いし、オフィス復帰を望む人には、そうできるように支援すべきだ」。
STEVE HEMSLEY(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU