FUTURE OF WORK

大都市圏の給与に見る、 リモートワーク の未来:「より確かな給与制度ができるだろう」

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デジタルマーケティング業界に明るい人材派遣会社のスフィア・デジタル・リクルートメント(Sphere Digital Recruitment)にとって、「居住地不問」の条件で新規に開発者を探すことは、ごく単純な作業のように思われた。理想的な候補者はトルコで見つかったのだが、この人の希望する給与は、英国のオックスフォードに在住する人々と同程度の水準だった。

しかし、トルコではすでに別のスタッフを雇用しているため、報酬は現地の市場に合わせて決めなければならない。一方、この採用候補者は、英国在住のスタッフと同じ経験を持ち、同じ仕事に従事するのに、なぜ同じ賃金を得られないのかと疑問を呈した。

リモートワークの導入がこのまま進めば、どこにいても仕事ができるという新しいトレンドはさらに普及する。そして国や地域を問わずに人材を求める企業や、リモート中心の文化を積極的に包容する企業が現れるに伴い、このような課題に直面する企業はさらに増えるだろう。

その一方で、リモートワークを選択し、物価の高い大都市から転出した従業員の給与を引き下げるべきか否かという問題もある。昨年、FacebookとTwitterは、従業員の居住地に応じて給与額を決めると発表した。一部の従業員にとって、リモートワークには、賃金カットを受け入れてもよいと思えるほどのメリットがあるようだ。ソフトウェア会社のシトリックス(Citrix)が行った最近の調査によると、英国のオフィス勤務者は、働く場所を問わないリモートワークと引き換えに、給与の最大20%減を受け入れてもよいと考えている。

報酬体系を見直すことが急務

ビデオ会議プラットフォームのウェアバイ(Whereby)は、2013年の創業以来のリモートファースト企業だが、同社で成長戦略担当バイスプレジデントを務めるジェシカ・ヘイズ氏は、これはFacebookやTwitterが考えるほど明快でもなければ、公平でも現実的でもない、非常に複雑な問題だと指摘する。同氏は、リモートワークのおかげで、従業員の地理的な分散化が進むにつれて、給与は平準化するだろうと見ている。どの企業にとっても、自社の報酬体系を時代に合わせて見直すことが急務だろう。

そしてヘイズはこう警告する。「リモートワークを導入し、従業員の分散を進める企業が増えていることを、誰もが敏感に感じ取っている。ロンドン、サンフランシスコ、ニューヨークのような大都市圏で働く人々の塊は縮小しはじめるだろう。ほかの市場における給与水準は若干改善するのではないか。そして企業は問われるだろう。『御社の給与体系はどのように決められるのか』と。あなたの会社も、説得力のある答えを返せるように備えるべきだ。さもなければ、恣意的に決めていると見なされかねない」。

この3カ月のあいだに、ヘイズ氏自身もウェアバイにおける報酬の決め方を見直して、2段階の給与体制に改めた。具体的には、現在のロンドンでの支払実績に基づいて、米国で適用する給与と、米国以外で適用する給与に組み直した。ヘイズ氏は、前職でも、英国、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、新興市場など、より広範な地域にまたがる報酬制度の策定を手がけている。

「リモートファーストの企業では、支払う報酬の根拠をはっきりさせることが極めて重要だ」と、ヘイズ氏は語る。「そして自分たちの会社が、Amazonのように大勢の未熟練労働者が働く企業になるのか、あるいはその対極とも言えるGoogleのディープマインド(DeepMind)のように、高度なスキルを持つ少数の精鋭たちが働く企業になるのか、早い段階で見極める必要がある」。

ヘイズ氏はさらにこう続ける。「このような基本的な視座を持つことは、適正な給与というものをグローバルな文脈でとらえ、それに基づいて自らのスタンスを確立する一助となるし、いたずらに給与水準の低い市場に労働力を依存することも回避できる」。

「重要なのは公平性と透明性だ」

プログラマティックマーケティングを支援するクリムタン(Crimtan)も、英国、ヨーロッパ、アジア太平洋地域に拠点を構える多国籍の企業だが、やはり同様の取り組みを通じて、3つの基準で給与を決める体制を整えた。具体的には、経済環境と操業市場、職務の価値、および採用候補者の経験である。

クリムタンの人事部門を預かるケイト・スタイルズ氏はこう説明する。「職務そのものに適正な対価を支払い、特定の国や地域にこだわらなければ、優秀な人材はどこにでもいる。重要なのは公平性と透明性だ。同一の労働に従事しているなら、たとえ働く場所が違っても、会社にもたらす価値は同一だ」。

同氏はさらにこう続けた。「より柔軟な働き方の機会という観点から言えば、このような考え方がほかの企業でも明確に示されることを期待している。業界や会社の規模によって差はあるにせよ、現状を正しく理解する賢明な企業であれば、早晩、従業員たちのニーズが変化していることに気づくだろう」。

新たな給与制度の形はまだ見えない

「居住地不問」の求人が増えつつある一方で、スフィア・デジタル・リクルートメントのエドワード・ステア最高経営責任者(CEO)によると、メディアやマーケティングの業界では、給与の変化を示す確かな証拠はまだ見えてこないという。「多くの場合、給与はいまも現地の支払実績に紐づいて決められる。実際、ロンドン以外の地域では、賃金の水準はまだ上がっていない」と同氏は指摘した。

コロナ禍が収束すれば、事情は変わるだろう。しかも急速に。「新たな給与制度が本格化するのはそれからだ」とステア氏は話す。そして同氏は、歓迎される変化ばかりではないとも言う。「給与はむしろ削られる可能性のほうが高い。優秀な人材発掘の場が増えるなら、それほど高い給与を出す必要はなくなると、多くの企業は考えるかもしれない」。

[原文:‘We’ll get harder and faster policies around pay’: The future of remote working on big city salaries

MARYLOU COSTA(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)