不動産業界と住宅業界のマーケター向けアドテクプラットフォームを手がけるオーディエンス・タウン(Audience Town)の調査によれば、現在アメリカで今後3カ月以内の引っ越しを検討している人は、その大半が30代で、全国平均より多くの貯蓄と資産を持っているという。
この1年間、私たちは生活のすべてをパンデミックに支配されるようになった。そのせいで、引っ越しを決めたり余儀なくされたりした人もいるだろう。だが、それはあなただけではない。ピュー研究所(Pew Research Center)の調査によれば、米国人の20人に1人、つまり全人口の5%が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を理由に住まいを移したという。18~29歳の米国在住者に限れば、その割合は11%だ。なお、人々が引っ越しを決めた第1の理由は、経済的な負担だった。
不動産業界と住宅業界のマーケター向けアドテクプラットフォームを手がけるオーディエンス・タウン(Audience Town)の調査によれば、今後3カ月以内の引っ越しを検討している人は、その大半が30代で、全国平均より多くの貯蓄と資産を持っているという。
この状況は「国内の情勢を大きく変える」はずだと、オーディエンス・タウンでCEOを務めるエド・キャリー氏はいう。そのうえで同氏は、「引っ越しをする人が膨大な数に上っており、住宅用不動産にとって非常に大きな1年になるだろう」と語った。金利が低いこと、広い部屋が好まれること、そしてどこでも働ける自由が生まれたことが、住宅販売市場に活況をもたらしている主な要因だというのが同氏の指摘だ。
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QOL向上のための引っ越し
実際、労働者の多くが、以前のようにオフィスに戻ることはないと考え、より広くて快適な住まいの購入を計画している。「そのために、彼らは割高な料金を支払っている」とキャリー氏は述べ、歴史的な住宅不足のせいで、多くの買い手が複数の希望購入金額を提示していると語った。
厳しい経済状況のおかげで引っ越しを余儀なくされた人が大勢いる一方、生活環境や生活リズムを変える目的で引っ越しを選んだ人たちもいる。リモートワークの普及によって、生活拠点に関してかつてないほどの柔軟性が生まれたからだ。その結果、キャリー氏などが「Zoom Town(ズームタウン)」と呼ぶトレンドが生まれている。
広く報じられているように、自宅で仕事をしたり「Zoom」で会議に参加したりしている米国人の多くが、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコのような生活コストの高い大都市に別れを告げ、マイアミ、オースティン、ナッシュビルなど生活費の手頃な都市に向かっている。また、パンデミックが続くなかで、雇用主と従業員がリモートワークを受け入れたことによって、アイダホ、モンタナ、ユタなど沿岸部から遠い州にある小都市も、沿岸部の商業都市に対抗できるようになった。
オーディエンス・タウンが報告したそのほかの統計データ
- 1170万人の米国人が、今年の4月~6月に引っ越しすると予想される。
- そのうちの17.5%が事業主だ。そのため、事業主が引っ越しをする可能性は平均より59%高い。
- 17%は企業の経営幹部で、彼らが引っ越しをする可能性も平均より65%高くなっている。
- 16%は50万ドル(約5400万円)以上の資産を持っている。これは平均を7.6%上回る額だ。
- 引っ越しをする可能性がある人の3分の1が、カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州、フロリダ州の4州に住んでいる。
「ライフスタイルをデザインできる」
今回の引っ越しブームは、住宅産業や多くの小規模市場の経済に影響を与えるのはもちろん、雇用動向にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
ボストンに拠点を置き、マリオット・インターナショナル(Marriott International)やアディダス(Adidas)などのクライアントを抱える世界的アフィリエイトマーケティング企業のアクセラレーション・パートナーズ(Acceleration Partners)のような企業も、大都市からの脱出やリモートワークのメリットを感じている企業のひとつだ。
「ひとつの地域でほかの企業と人材獲得で競争するのではなく、さまざまな地域で人材を発掘できるようになる」と、アクセラレーション・パートナーズのCEO、ロバート・グレイザー氏は述べている。「従業員も、自分の住みたい場所をより柔軟に選べるようになった。大都市での生活を好む人もいるが、そうでない人も大勢いる。より広いスペースをより安く手に入れたい、より静かな環境で暮らしたい、より家族の近くにいたいなど、動機はさまざまだ。喧騒から離れた場所で暮らすことで、従業員は自分に合ったライフスタイルをデザインできるようになる」。
地域を選ばず人材獲得が可能
また、クリエイティブ企業にも、幅広い地域から優秀な求職者が応募してくるというメリットがもたらされている。
「エージェンシーは長いあいだ、オフィスで働くことを重視する文化で知られており、市場があるエリアに引っ越すことができない人や引っ越そうとしない人は雇わないのが普通だった。つまり、リモートワーカーを快く受け入れる雰囲気はあまりない」と、サンフランシスコに本拠を置くエージェンシーのマテチャック|ホフハー(MUH-TAY-ZIK|HOF-FER)でアソシエイト・クリエイティブ・ディレクターを務めるケルシー・ウィルキンス氏はいう。同氏はこれまで、アウディ(Audi)やドアダッシュ(DoorDash)といったブランドの仕事を手がけてきた。「だが、さまざまなバックグラウンドを持つ人材を獲得するには限界がある。サンフランシスコのベイエリアが、全米でもっとも生活費の高い地域のひとつであることを考えれば、特にそうだ」。
しかし、リモートワークのようなトレンドが生まれ、住む場所にかかわらず最高の人材を獲得できるようになったことで、人材プールは劇的に変化しており、「エージェンシーが将来の人材を確保する方法も変化している」と、ウィルキンス氏は考えている。
[原文:Welcome to the ‘Zoom Town’: Remote working has employees on the move]
TONY CASE(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)