エージェンシーのゴドフリー・ダディック・パートナーズ(Godfrey Dadich Partners)はこの1年で、事業を大きく拡大。2021年は、すでに8名の新規スタッフが入社しており、今後さらに10名近くを採用予定だ。また、それに伴い現在のオフィスの規模を、2倍にしようと考えているという。
スコット・ダディック氏は「破壊的イノベーション」で知られる人物だ。
コンデナスト(Condé Nast)所有のメディア、ワイアード(Wired)の元編集長として、同氏は旧来のジャーナリズムが抱えてきたさまざまな障壁を取り払ってきた。現在は、パトリック・ゴドフリー氏とともにサンフランシスコで立ち上げたゴドフリー・ダディック・パートナーズ(Godfrey Dadich Partners:以下、パートナーズ)で、共同CEOを務めている。ここでもダディック氏は、ストーリーテリングの才能をいかんなく発揮しており、事業戦略コンサルからドキュメンタリー映画の製作、ナイキ(Nike)やIBMワトソン(IBM Watson)といったクライアントのブランドマーケティングに至るまで、新たな境地を開拓し続けている。
この1年、パートナーズの事業は大きく拡大。2021年はすでに8名の新規スタッフが入社しており、今後さらに10名近くを採用予定だ。また、それに伴い現在のオフィスの規模を、2倍にしようと考えているという。
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アフターコロナに適したオフィス
このところ米国では、多くのIT企業が、家賃が安く税率の低いテキサス州やフロリダ州へ移転している。こうした地域は商用施設も多く、ビジネス面でも有利なため、都心でやたらと高い賃料を払うのはバカバカしいという声もある。しかしパートナーズは、サンフランシスコのパシフィック・テレフォンビル17階にある、豪華なオフィスに留まるつもりだという。
その理由のひとつは、移転してきた5年前よりも、今後賃料が下がっていくとの見通しがあるためだ。ただパートナーズは現在、単に留まるだけでなく、スタッフにとって働きやすい環境を作るべく、オフィス空間の再構築を検討中だ。ダディック氏は、現在米国で一般化しているフリーアドレス制のオフィスには、問題があると強調する。「オープンなオフィスは引き続き大切だが、同時にZoom会議などを想定した、クローズドな空間も必要だ。これは、コロナ禍以前には想定されなかったことだ」。
また、ゴドフリー氏はフリーアドレス制のオフィスには、「非人間的」な側面があると考えている。「スタッフがコラボレーションするのには適しているが、考えに集中したいときや執筆といった作業には向いていない」と同氏は指摘。「新しいオフィスのあり方を考えるにあたって、ふたつの要素を念頭に置かなければならない。それは、集中して個人の作業が行えること、そして周囲と刺激し合えることだ」。
コラボレーションの大切さ
バージニア州ノーフォークのエージェンシー、グロウ(Grow)もまた、オフィスの拡張を考えている。同社は、約9300平米の敷地に、現在より広い本社を2021年5月に新設する予定で、ARを専門とするIT企業や建築企業など、外部のクリエイティブな企業も入居予定だ。アディダス(Adidas)やSpotify(スポティファイ)といった大手クライアントを抱えるグロウは現在、事業と人員を拡大しており、現在のオフィススペースは手狭になっているという。
グロウの創業者で、CEOとCCO(最高クリエイティブ責任者)を務めるドリュー・ウンバースキー氏は、2019年に、もともとデパートだった物件を改築し、アセンブリー(Assembly)というクリエイティブハブ設立している。この施設のCEOを務めるのは、ウンバースキー氏だ。グロウにとって、同氏のこの経験と実績はオフィスを拡張するうえで有益だろう。
ウンバースキー氏は、グロウのスタッフの多くはどんな形であれ、オフィスに戻ることを望んでいると考えている。「彼らが求めているのは、人と直接繋がり、社内外の素晴らしいクリエイターとコラボレーションすることだ。アセンブリーは、そうした機会を提供できる」。
相互作用を生み出す
コロラド州ボールダーのエージェンシー、ワーク・イン・プログレス(WorkInProgress)も事業を拡大しており、最近ではマークス・ハード・レモネード(Mike’s Hard Lemonade)やドミノ(Domino’s)といったクライアントを獲得している。「我々は幸運なことに、スタッフを増員し、オフィスを拡張する必要に迫られている」。こう述べるのは、営業兼戦略担当パートナーのエバン・リュサック氏だ。
「これまで我々は、バーチャルな環境で仕事をしてきた。しかしいまは、実際に集まって、もっと自由にお互いの意見を交換したり、コラボレーションしたいと考えている」。また、同じ空間で一緒に仕事をすることは、相互作用を生み出すと、同氏は付け加える。さらにリュサック氏は、これらを実現できれば「生産性と仕事の質も向上する」と強調する。
では、不動産価格はどうだろうか。ボールダーはサンフランシスコとは状況が異なるようだ。リュサック氏によると、「ボールダーを拠点とするIT企業が物件を占有しているため、思ったほどお得な物件はない」という。
「準備はできている」
また、オフィスの拡張を目指したものの、いまだ実現していない企業もある。2020年4月1日、エージェンシーのマッドウェル(Madwell)は、より広いオフィスを求めてクロワッサン工場跡地への移転を発表した。「テレワークに切り替えてから約1年経ったいまも、移転できていない。周りからは、エイプリルフールのジョークと笑われているかもしれない」と、創業者でありCCOのクリス・ソイカ氏は、なかば自嘲気味だ。ディアジオ(Diageo)やベライゾン(Verizon)といった大手クライアントを抱えるマッドウェルだが、新型コロナウイルス対策規制で移転作業が進まず、予算面でも厳しい状態が続いていたのだ。
しかしソジカ氏はこの投資を、無駄だったとは考えていない。「電話会議ではなく、実際に会議室で話し合えるようになる日は近い。調整は必要だが、準備はできている」。
[原文:‘We will be ready’: Agencies in growth mode are expanding, not reducing, office footprints]
TONY CASE(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)