マーケターやエージェンシー幹部は、長年にわたり、業界に蔓延する時代遅れの慣習を嘆いてきた。彼らに何を変えたいか聞いてみれば、『船頭多くして船山に上る』など、簡単な意思決定に必要以上に人と時間をかけているというような、辛辣な批判が出てくるに違いない。
マーケターやエージェンシー幹部は、長年にわたり業界に蔓延する時代遅れの慣習を嘆いてきた。彼らに何を変えたいか聞いてみれば、『船頭多くして船山に上る』など、簡単な意思決定に必要以上に人と時間をかけているというような、辛辣な批判が出てくるに違いない。
マーケティング業務を、もっと機敏で軽快で柔軟なものにする動きはずっと前からあったが、パンデミックがすべてを変えるまで、それらは本当の意味で現実化していなかった。もちろん、迅速化を促す圧力は作用していたが、当時は本当の変化が起きるほど差し迫った状況ではなかったのだ。ところがこの半年間、業務を本当に機敏で軽快、かつ柔軟なものへと再編する動きは、もはや抽象的なアイデアではなく、必須要素になった。
パンデミックのなか、エージェンシー幹部とマーケターは、仕事の進め方が面倒だからなどではなく、結果を出すことを迫られて、その場で意思決定を行い、即座にメディア予算を見直し、ありえないほど短期間で広告を制作した。彼らは、日常がある程度まで回復してからも、これまで通りのビジネスのやり方に回帰するのではなく、この大混乱を生き抜くための新しい仕事の進め方を取り入れていくべきだと考えてる。
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意思決定が早くなった
「新型コロナウイルスの影響によって、我々はもっと迅速に仕事をし、意思決定を下せると気づいた」と、TBWA/シャイアット/デイ(TWBA/Chiat/Day) ニューヨークでCEOを務めるロブ・シュワルツ氏はいう。
「画期的なのは、クライアント側の意思決定のスピードだ。クライアントはより速く判断を下すようになった。業務プロセスから『考えすぎ』の時間が減り、直感的な意思決定が可能になった。これにより、フォーカスグループの数が減り、成果をより速く出せるようになった」。
エージェンシーのキャンベル・エワルド(Campbell Ewald)の最高戦略責任者、カリ・シンメル氏も同意見だ。「在宅勤務の経験から、我々はみな極端な制約のもとでも、迅速に制作を進める能力があると学んだ」と、シンメル氏はいう。「迅速化の鍵のひとつは承認プロセスを減らすことだ。プラットフォームを利用し、問題が発生したときは事前準備が必要ない、簡易的なビデオチャットを実施することで、クライアントとエージェンシーのあいだにある、障壁が取り払われた」。
収束後も戻らない
業界ではこれまでも、こうした方法で意思決定がされてきたと話す幹部もいる。しかし、マスターカード(Mastercard)の最高戦略・コミュニケーション責任者であるラジャ・ラジャマナー氏によれば、こうした迅速な方法で業務を進める必要性は「かつてないレベルまで」高まっているという。
多面的な危機がもたらす圧力により、マーケターもエージェンシー幹部も否応なくプロセスを再編したいま、彼らが以前のようなビジネス慣行に戻る可能性は低い。
「事態が正常化しても、この方式が続くと考えている」と、ラジャマナー氏はいう。「仕事を迅速に、高品質に、安く仕上げられるとわかっているなら、世の中が元通りになっても新しい方法を採用し続けない理由などあるだろうか? ビジネスの新しいスタイルのいくつかは、アフターコロナの時代にも存続するだろう」。
フォーマルでなくていい
Zoomで話せばすむことのために、飛行機で全国を飛び回るのは非効率で無駄に高くつく。そのため、業務のスピードだけでなく、対面会議の削減もそのまま維持されると、幹部たちは考えている。コロナ以前のビジネス慣行のすべてが消えるわけではないものの、効率化できる部分はそうなっていくだろう。
今後、マーケターやエージェンシー幹部に必要なのは、「フォーマルでなくてもいい」という認識なのかもしれない。「90ページの資料を持って18人で電話会議をするのではなく、電話やeメール、マイクロソフトチームズ(Teams)のチャットやワーキングセッションで、課題解決できるようなパートナーシップを持つことが重要だ」と、シンメル氏は述べた。
[原文:‘We have the capability’: How the coronavirus crisis has accelerated advertising’s shift to agility]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:村上莞)
Illustration by IVY LIU