新型コロナウイルスの影響で世界中のエージェンシーが長期的なリモートワーク導入に追われている。そんななか、クリエイティブエージェンシーのメイン&ローズはコロナ以前から全面リモートワークを導入し、今ではリモートワーク成功の秘訣を知りたがるほかのエージェンシーのリーダーたちからのコンタクトが後を絶たないという。
当初、戦略的ブランディングエージェンシーのメイン&ローズ(Main&Rose)にはオフィスがあった。現在は完全リモートで業務をおこなっている同社は、CEOのケリー・ギボンズ氏とマネージングパートナーのベス・ドーン氏により2013年に設立された。かつての同社オフィスはロサンゼルスのシリコンビーチにあり、その社名は同地区にあるメインストリートとローズアベニューの交差点から取られた。
「ありとあらゆるテック企業がここに移ってくるようになると、家賃は大きく跳ね上がった」と、ドーン氏は語る。オフィスを借りて1カ月あまりで法外な賃料を払うことに疑問を感じるようになったという。「(ケリーも私も、)なぜ四方を囲む壁のなかに従業員を閉じ込めなければならないのか、疑問を抱くようになった。私自身、台所のテーブルで仕事をしていても、きちんと成果をあげてきたというのに」。
この家賃の値上げが両氏の方針を変えた。オフィススペースでエージェンシーを運営することから、リモートで業務をおこなうことへと方向転換したのだ。変わったのは働く場所だけではなかった。誰を雇うのか(最初に雇われたフルタイムの従業員は、ロサンゼルスではなくニューヨークを拠点としていた)、クライアントとどのように協働するのか(ウィートランスファー[WeTransfer]や国連、ウォーター・エクイティー[Water Equity]をはじめとする同社のクライアントは、世界各地に拠点を構えている)、いつ働くのか(スタッフは独自のスケジュールで仕事を行っているが、ミーティングは日中、頃合いを見て時差を越えて開かれている)も変わった。
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リモートワーク成功の秘訣は
世界中のエージェンシーがいまなお続く新型コロナウイルスの影響により、対面式の業務プロセスを長期的なリモートワークに一新する作業に取り組んでいる。そんななか、メイン&ローズのような早くからリモートワークを導入してきたエージェンシーは、クリエイティブ分野においても「労働力の分離」は可能であることを示す実例となっている。ドーン氏によれば、メイン&ローズのもとにはリモートワーク成功の秘訣を知りたがる、ほかのエージェンシーのリーダーたちからのコンタクトが後を絶たないという。
「面白いことに我々はいま、ほかのエージェンシーに力を貸し自分たちが学んできたさまざまなコツを教えている」と、ドーン氏は語る。「たとえば……カメラの向こうにクライアントがいるときには、テンションを上げなければならない。身なりにも気を配らなければならない。リモートの要は調整だ。クライアントとのミーティングでは、誰が出席するのか? 誰がどこで入ってくるのか? クライアントとのミーティングの前に、これらを把握しておくことがカギだ」。
現在、メイン&ローズで働くフルタイムの従業員は12人にまで増えている。そのなかにはロサンゼルスやニューヨークだけでなく、デンバーやジェッダ(サウジアラビア)の在住者もおり、ノースカロライナ州シャーロットのスタッフもまもなく合流する予定だ(新型コロナウイルスの影響で一部の従業員に一時帰休が言い渡されたが、同社は現在、彼らを再び従業員として迎え入れる準備を進めている)。海外在住者は従業員だけではない。メイン&ローズは先学期、スコットランド在住者をインターンとして迎えている。
「どんな場所でも仕事はできる」と、ドーン氏は語る。「メイン&ローズは、世界のどこにいても大きな成果をあげられる働き方を見つけてきた。スタッフは自分のスケジュールで働いている。時間をつくって協働する必要があるときには、Zoom(ズーム)やGoogleハングアウトを利用すれば作業しやすい。こうすれば短時間で世界全体に手を広げるのも、ずっと簡単だ」。
年に数回全員集合
クリエイティブなブレインストーミングもZoomやGoogleハングアウトを介して行われる。スタッフはアイデアをホワイトボードに書き出す代わりに、Googleドキュメントを使ってメモを共有し、アイデアの経過を把握する。また、つながりをリアルタイムで保つために、Slackまたは昔ながらの電話でやりとりをおこなう。
とはいえ、メイン&ローズがスタッフを集めることはないのかというと、そういうわけではない。パンデミック以前には、同社の従業員は年に数回集まってヨガやハイキングを全員で楽しんでいた。メイン&ローズのデジタルディレクターを務めるコートニー・キャノン=ブース氏によれば、こうした社内イベントに促されるかたちで、スタッフたちの親睦は深まっていったという。
「同僚に対する理解を個人レベルで深めているおかげで、ZoomやGoogleハングアウトを介した共同作業もうまくいっている」と、同氏は語る。一堂に会する機会は年に数回だけだが、これがチームに良い効果をもたらし、彼らの気分を「リフレッシュ」してくれるという。
「好きな場所でインスピレーションを得ればいい」
もちろん、リモートワークは完全なシームレスではない。スタッフ同士がオフィスで顔を合わせないため、キャノン=ブース氏やドーン氏が、仕事に行き詰まっている従業員を助けたり、スケジュールが押している理由を把握したりするのが困難になっている。しかし、同社スタッフの生産性が全体的に向上しているのは、リモートワークのおかげだと両氏は確信している。ふらっと立ち寄って雑談する同僚や隣でやたらと物音を立てる同僚といったオフィス勤務にありがちな気を散らすものがないため、メイン&ローズのスタッフは目の前の課題に難なく集中できるという。
また完全リモートのおかげで、メイン&ローズのスタッフは、休暇期間中だけに限らずいつでも旅行に出かけることができる。「クリエイティブの観点からいえば、我々にはさまざまな経験が必要だ。インスピレーションを得るためには、いろいろな場所に行きいろいろな景色を見る必要がある」と、キャノン=ブース氏は語る。
「家ではインスピレーションが得られないのなら、ギリシャでもイタリアでも、どこでも行きたいところに行けばいい。私自身もアメリカ国内のさまざまな場所でよく仕事をしている」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:ガリレオ、編集:分島 翔平)
Illustration by IVY LIU