共通IDソリューションの Unified ID 2.0(以下、UID 2.0)が、エージェンシーの世界で密かに支持を集めつつある。その生みの親であるThe Trade Desk(TTD)も、このところ開発に関わったほかの企業を説得し、さまざまな形で契約を結んでいる。
共通IDソリューションのUnified ID 2.0(以下、UID 2.0)が、エージェンシーの世界で密かに支持を集めつつある。その生みの親であるThe Trade Desk(TTD)も、このところ開発に関わったほかの企業を説得し、さまざまな形で契約を結んでいる。
そこに最近加わったエージェンシー持ち株会社が、IPG(Interpublic Group of Companies、Inc)だ。IGPの最高データ責任者兼最高マーケティング・テクノロジー責任者であり、キネッソ(Kinesso)のCEOも務めるアラン・クマール氏によると、同社はこの8月はじめ、アクシコム(Acxiom)とキネッソのデータ部門向けに、UID 2.0最初の「クローズドオペレーター」として契約を結んだという。
これは、オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group)が、共通IDソリューションの採用を促進させようとして、正式にUID 2.0を支持したわずか1カ月後の出来事だった。また、このニュースはニューヨーク・タイムズ(The New York Times)を含む大手パブリッシャーが、UID 2.0を含む共通IDソリューションの実験を行わないと述べたあとに発表された
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クローズドオペレーターの役割
クローズドオペレーターとは一体何か? これは、UID 2.0およびUID 2.0トークンを自社のデータエコシステム内で、生成・管理する組織のことだ。これはある意味ウォールドガーデンのようだが、TTDとIPGのクマール氏は、そうではないと主張している。
TTDの製品担当ゼネラルマネージャー、ビル・ミシェルズ氏は次のように述べる。「クローズドオペレーターとして契約した企業は、UID 2.0を自社のインフラに格納し、社内のデータエコシステム外に出すことなく独自のバージョンを生成することができる」。
さらに、クマール氏はこう付け加える。「UID 2.0を使えば、安全性を保ちつつ共通IDとファーストパーティデータを紐付けることができる。他社のソリューションを用いた場合には、ファーストパーティデータを外部のシステムに取り込なければならないケースもあるが、我々は異なる」。
つまり、キネッソとアクシコムのクライアントは、自社のファーストパーティデータを手放すことなくUID 2.0を使用できるというわけだ。この仕組みを活用すれば、広告主は自身のデータセキュリティについて「妥協」する必要がない、とクマール氏は強調する。
また、オープンソースである点もUID 2.0の大きな魅力だ。そのため、開発と管理には誰もが参加できる。しかしその利用に関しては、セキュリティーが担保された壁のなかで行うことができる。そのあり方はある意味、レンタカー会社の運営にも似ている。
UID 2.0の開発と管理に関わる役割
なおミシェルズ氏によると、UID 2.0の開発と管理に関わる役割は、大きく分けて以下の3通りあるのだという。
管理者(Administrator):鍵の持ち主で、ユーザーが一連のルールに従うことを保証する。現在はTTDが唯一の管理者だが、ミシェルズ氏によると、同社はほかにもこの役割を担う企業を探しているという。
オペレーター(Operator):その数に制限はない。いまのところ、IPGが初のクローズドオペレーターだ。オペレーターは、UID 2.0を採用する企業が識別子情報を生成できるAPIの分散型バージョンを保有する。
コンプライアンス管理者(Compliance management):いわば警察官。オペレーターが一連のルールを守っているか、たとえば、IDをデータシステムの外で共有したり、直接識別可能な情報とブラウザの動作を結びつけたりしていないかを監視する。
「UID 2.0は織物のようなもので、誰もがこれを他者が使っているIDに縫い付けることができる」とミシェルズ氏。「UID 2.0の成功は、ほかのサードパーティのIDを犠牲にするものではない。すべてがともに機能し得る」。
パブリッシャーからの賛同を得ることが課題
しかし、米国における大手パブリッシャーの多くは、まだUID 2.0にサインしていない。クマール氏この状況に関して、「今後、UID 2.0の需要が高まれば、サインするパブリッシャーも増加するだろう」と、10年前のプログラマティック広告の黎明期に、わずかなインベントリーにしかアクセスできなかった状況を引き合いに出して述べた。
ミシェルズ氏によると、TTDは現在、コネクテッドTV分野のパブリッシャーとの契約に注力しており、AMCネットワーク(AMC Networks)、フーボ(Fubo)、チューブ(Tube)とはすでに契約済みであると述べる。「消費者とパブリッシャーのあいだで行われる、健全な価値交換は非常に重要だ。だからこそ、パブリッシャーたちはUID 2.0を必要としている」。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:村上莞)